見出し画像

ロマンチックいらない

 僕は彼女のアパートで、クリスマス・イヴを過ごす。

 チャイムが鳴り、彼女は玄関のドアを開ける。
 サンタクロースの衣装を着た男が立っている。
 クリスマス・イヴは、宅配便の配達員もサンタクロースの衣装だ。
 彼女は荷物を受け取り、サインをする。

「サンタクロースがクリスマス・プレゼントを持ってきた」
 と僕は言った。

「これって私がAmazonの欲しいものリストに入れて、あなたが買ってくれたものよね。何だかカタログギフトみたいだけれど」
 と彼女はそっけなく答えた。
 そう、それは僕が買ったものだ。

「開けてみてよ」と僕がせかすように彼女に言い、彼女はAmazonのダンボール箱を開ける。
 中からは彼女が欲しかったものが出てくる。そこにサプライズは無い。
「ありがとう。これ欲しかったの」
 と言って彼女はわざとらしく喜び、僕に抱きついてくる。

「私のプレゼントは私の体ってことで」
 と言って、彼女はおもむろに洋服を脱ぎはじめる。

 コロナ禍で仕事が減って、生活が苦しい。だから僕は、「プレゼントはいらない。君がいてくれるだけでいい」と言ったのだ。
 ほんとうに、君がいてくれるだけでいいのだ。
 でもそれでは彼女の気がすまない。

「今年はコロナ禍で外出は自粛したけれど、来年のクリスマス・イヴは高級レストランを予約して、ロマンチックに過ごそうよ。僕はそこで君にプロポーズをする」
 と僕は言った。
 すると彼女は洋服を脱ぐのをやめて、怒り出した。

「来年じゃあ遅いのよ! 来年じゃあ私、30歳になっちゃうじゃない! それじゃあ遅すぎるでしょう? プロポーズするなら今しなさいよ! ロマンチックなんていらないのよ!」
 彼女はそう言って叫び、泣き始めた。

 僕は「ごめん」、と言ってポケットからブルーの小さなケースを取り出した。それはすべすべな表面をした素材でできている。
 そして彼女の目の前で膝を付き、そのケースをぱかっと開ける。中にはダイヤモンドの指輪が入っている。

「指輪はもう、買ってあるんだ」
 と言って僕は彼女を見つめる。

「僕と結婚してください」

 僕がそう言うと、彼女は泣きながら、
「はい、よろしくお願いします」と静かに答えた。


 ロマンチックいらない。


おわり。



もしも僕の小説が気に入ってくれたのなら、サポートをお願いします。 更なる創作へのエネルギーとさせていただきます。