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ワライカワセミ

「あの人すごいよ、ワライカワセミを笑わせてる」 
 と彼女は言った。
 僕と彼女は動物園に来ている。

「ワライカワセミは笑ってるんじゃなくて、鳴いているんだよ」
「え? 竹中直人?」
「それは笑いながら怒る人」

「でも笑っているようでいて、泣いているだなんて、何だか悲しい話ね」
「何の話?」
「あなたは女を泣かせるのが得意だものね」
「何の話?」
「できるものならワライカワセミを泣かせてみなさいよ」
「いや僕には面白い話ができないし」
「ワライカワセミは笑っているんじゃなくて、鳴いているのよ」
「「雨に泣いている」柳ジョージ」
「何、それ?」
「Weeping in the rain」

「Singing in the rain?」
「雨に唄えば」

「もう、歌っちゃっているじゃない」
「何だかしりとりみたいだ」
「ぜんぜんしりとりじゃあない」
「何だかワライカワセミは僕達を笑わせてくれるね」
「泣いているのに笑わせてくれるって、何だか悲しい」
「でも僕は楽しい」
「ラップみたい」


 僕らはすごく気があっているのだと思う。
 何気ないこんな会話が楽しいのだから。


おわり。

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