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リュックサック的なもの

「ねえ、その背中に背負っているものは何?」
 と忠則は僕に訊ねた。
「ああ、これ、リュックサック的なもの」
 と僕は答える。

「こんにちわ」
 と僕の背中のものは言う。
「リュックサック的なものに挨拶されましたけど」
 と忠則。
「気にしないでいいから」
 と僕は言うが、「そういうわけに行かないだろうよ。説明しろよ」と言うので、僕は説明をする。

「愛子が「疲れた」って言うから、「じゃあおんぶしてやるよ」って冗談で言ったんだ。
 そしたら、本当におんぶすることになって、それでこうして僕の彼女はリュックサック的なものになったんだよ」
 だけども僕はいつまで彼女を背負えばいいのだろうか?
 僕の頭の中には、ビートルズの「キャリー・ザット・ウェイト」が流れていた。

「そろそろいいんじゃないかな?」
 と僕は背中のリュックサック的なものに訊ねた。
「いいけど」
 と言って愛子は僕の背中から降りた。そして真面目な顔をして、
「私のことが重荷になるんだったら、いつでも捨てていいんだよ」
 と言った。

「僕は君のことを捨てない。どんなことがあっても、君は僕のものだ」
「どんなことがあっても?」
「うん」
「あなたのことを裏切っても?」
「え?」

「ごめん」
 と忠則が言った。
「何?」

 え?
 まさか?
 言わずもがな浮気ということか?

「前言撤回。それは無理だわ。そりゃあ無理だわ」
 と僕は言った。

 僕は肩の荷を降ろして、身軽になることを決めた。

おわり。

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