うさこちゃん
「あ、うさこちゃん好きなの?」
と僕は彼女に尋ねた。
彼女が持っていたバッグに、うさぎの絵が描いてあったからだ。
「ミッフィーちゃんなんですけど」
と彼女は怪訝な表情をして答えた。
「ああ、うさこちゃんね」
と僕は言い直した。
「だから、ミッフィーちゃんですけど。うさこちゃんって何よ?」
「だからこれ、うさこちゃんだよね。僕は絵本を持っているから見せてあげるよ」
僕は本棚の奥から、子供のころに読んでいた絵本を取り出した。
「ほんとだ。うさこちゃんって書いてある」
彼女は不思議そうな顔をした。
「作者のディック・ブルーナはオランダ出身で、オリジナルの名前はナインチェ・プラウスだよ」
「え、聞いたことないけど」
「ナインチェ・プラウスは小うさぎを意味する言葉なんだ。だから世界中で小うさぎを意味する名前が国ごとにつけられているんだよ。日本ではうさこちゃん。ミッフィーちゃんは英語圏での呼び方」
「そうなんだあ」
「もともとはうさこちゃんだったのに、いつの頃からかアメリカの呼び名に変わってしまったんだ。日本人は知らず知らずのうちに、アメリカに浸食されている。
日本の自動車産業は、電気自動車の登場で今後衰退してゆくだろう。
手先が器用な日本人にしかできなかったエンジン開発は、今や不要なものとなって、イーロン・マスクが作った電気自動車にとって代わられるだろう。
日本の家電だって、今や中国製や韓国製にとって代わられている。
日本の産業はオワコンだ。
だからいつまでたっても日本の経済は低迷したままなんだよ。だから給料は上がらないんだ。政治家が何をやったって、焼け石に水だよ。肝心の次世代産業が無いんだから。イノベーションがないんだから。
ユーチューバーがお金を稼いでいるけどさ、そのお金はみんなアメリカのグーグルに持っていかれるんだ。GAFAが牛耳るアメリカに、ぜんぶ持っていかれるんだ。
中国を見てみなよ。中国はグーグルを排除して、独自のアプリを作って対抗している。日本はどうだ。のほほんとして、ぜんぶアメリカに持っていかれているんだ。
アメリカに対抗できる次世代技術を確立しなければ、確実にアメリカに負ける。というか、もう負けているよね。
だから僕は対抗する。うさこちゃんは、うさこちゃんだ。決してミッフィーちゃんなんかじゃない」
僕はついつい熱弁してしまった。
「なんだかミッフィーちゃん、好きじゃなくなってきた。キティちゃんに変える。なんだかわからないけど」
と彼女は言った。
「うさこちゃんに罪はないけどね」
と僕は言い添えた。
「本当は、ミッフィーちゃんも、キティちゃんも、どうでもいいの。
あなたが好き。ただそれだけ」
ははは、これがハッピーエンドだね。
僕らの未来は明るい。
おわり。
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