映画のフィルムとアスペクト比
ずいぶん前に、映画のフィルムについて書きました。
こんなマニアックな記事を誰が読むのかと思ったのですが、note公式に取り上げられ、スマートニュースにも掲載されました。
効果絶大ですよね。
僕の記事が公式に取り上げられたのは今まで2回で、そのビュー数は圧倒的です。
そこで久しぶりに第2弾を書こうと思ったのです。
先日、映画「哀れなるものたち」を観たのですが、ともかくこの映像の美しさったら無いのです。僕はこれはCGを使って加工したものだと思っていたのですが、これがフィルムを使ったものだと知りました。
使用されているのはコダックのエクタクローム・カラー・リバーサル・フィルムです。
コダックが再生産を始めたエクタクローム・フィルムは16㎜のみだったので、この映画のためにコダックに35mmフィルムを作らせたと言うのです。
万華鏡のようにカラフルでコントラストがあるこの映像に、僕はもうただただ魅了されました。
やっぱりアナログでしか再現できない良さといったものがあるのですね。
さて、フィルムの種類とレンズを使った光学的画像圧縮(シネマスコープ)について前回書きました。
テレビの登場で、映画がテレビとの差別化をはかるために、画面の縦横比を変えて横長にした経緯があります。家庭では味わえない大画面が映画館では味わえるようにしたのです。
しかしながら家庭用のビデオの登場で状況が変わりました。
映画館での収入だけでなく、ビデオのレンタルおよび販売収入が大きくなったのです。
ここで困ったのはアスペクト比ですよね。横長の画面の両端を切ると、人物や背景が入り切らない。だから場面によっては切り抜く部分をずらしたりしなければならない。これは結構大変な作業だし、違和感がありありです。それに全体的にアップが多くなって圧迫感が出てしまう。
そこで、ビデオ化を前提にした映画撮影が行われるようになりました。
それは、35mmフィルムを使って撮影し、そのフィルムからトリミングすることで映画用の横長の画面とビデオ用のテレビ画面を切り出すというものです。
その一例として、リドリー・スコット監督の「ブラック・レイン」があります。
僕はこの映画を劇場用のアスペクト比とテレビ用のアスペクト比の両方を観ていますが、実際のところ、二兎追うものは一兎も得ず、なのです。
テレビ用の画面を意識しすぎて、劇場用の画角がイマイチなのです。
テレビ用でバランスのいい映像が、劇場用では上下が切れたようなバランスの悪さが出てしまう。これは劇場用よりもテレビ用の方がいい。本末転倒だ。
アスペクト比に合わせた最もバランスのいい映像を観たいものです。それが監督のこだわった映像なのですから。そしてやっぱり映画は映画館で観るアスペクト比がいいですよね。
僕が今まで観た映画で、映画のアスペクト比を生かした印象的な映画としては「チャイナタウン」があります。
これは非常に良いバランスの構図で好きな映画です。
シネマスコープサイズのアスペクト比でうまく撮るのは非常に難しいです。ワイドテレビの16:9であれば割合に収まりがうまくゆくのですが、シネマスコープサイズは横が長い。
これをトリミングしちゃうと、もう魅力半減ですね。
しかし、逆にテレビサイズのアスペクト比にこだわった監督もいます。
スタンリー・キューブリック監督の遺作となった「アイズ・ワイド・シャット」はテレビサイズで撮っています。
いずれにしろ、監督が決めたアスペクト比の中で、バランスのいい素晴らしい映像を作り出すのが監督の美的センスになるのです。
アスペクト比を活かせていなくて、ただ撮っているような映画を観ると、がっかりします。
今日はこんな感じです。
それではまた。
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