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スマイルあげない

「どうしてスマイルくれないの?」
と僕は彼女に訊ねた。
「ただでスマイルなんて、あげるわけないじゃない。だってあなたのことが好きでもなんでもないから」
 と彼女は答えた。

「でも君は日本人だよね? 外人みたいなこと言わないでよ」
「外人じゃなくて、あのちゃん」
「あのちゃん?」
 彼女はスマホのユーチューブであのちゃんの「スマイルあげない」を僕に見せた。


「だから何?」
「あのちゃん」
「何何? 君はアイドル? っていうか塩対応? ぱるる?」
「ぱるるじゃなくて、あのちゃん」
「もうどっちでもいいよ。スマイルください」
「だめです」

「君のスマイルが欲しくてさあ、ユニフォームをメルカリで買っちゃったんだよ。これを着てさあ、スマイルくれないかなあ? マクドナルドのハンバーガーセットも買ってきたからさ、ユニフォームを着て、ハンバーガーを僕に渡して、スマイルを僕に下さい」
「何、コスプレ? キモいんだけど」
「お願いだからスマイルください」
「何でそんなにスマイルにこだわるのよ?」
「最近の君はさあ、ぜんぜん元気がなかったじゃない。だから元気を出して欲しいんだよ。だけど僕には何もできない。僕は君に何もしてあげられない。それがもどかしいんだよ。だから君に笑って欲しい。元気を出してほしい。いつもの君みたいに」
「そんなこと言わないでよ」
 彼女は泣き出した。 わらってもらうはずが泣かしてしまった。
「ごめん」

「わかった。着替えるからユニフォームを貸して」
 彼女はマクドナルドのユニフォームを着て、僕の前に現れた。
 そしてにっこりと笑って僕にハンバーガーセットを手渡した。


「いらっしゃいませ、デニーズへようこそ」


 違うくないか?


おわり。


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