見出し画像

お題

「何ですか、これは?」
 と担当編集者は僕に尋ねた。
「何って、依頼のあった小説の原稿だけど」
 と僕は答えた。

「これは、私が依頼した小説ではありませんよね? 今回の小説はお題があって、それに沿った小説にしていただく依頼だったはずなのですが」
 と担当編集者はいやみったらしく言った。
「ああ、だけど何だかピンと来なかったんだよね。僕が書きたいものと結びつかなかったし、むりくり合わせたってさ、おもしろいものなんて書けやしないよ。僕は僕の書きたいものを書く。だいたいお題をもらわないと書けないだなんて、小説家として終わっているよね。まあ、テーマがある分には良いんだけどさ、なんだかカードゲームみたいに組み合わせた意味のない造語みたいなタイトルで書くだなんて、僕にはできないよ。言葉が美しくないんだよね。意味のない言葉で小説なんて、書きたくない。言葉に対する愛情がないんだよ。僕はいつも、言葉を大切に、感情をこめて書いている。そういう僕のポリシーに反するんだよ」
 僕は思っていることを担当編集者に伝えた。

「そうですか。でもですねえ、依頼した内容と違うわけですよ。今回は締め切りがあるんで、雑誌に穴を開けるわけにはいきませんから、この原稿は受け取って掲載させていただきます。ですが、原稿料は払えませんよ」
「え? 何で?」
「約束を破ったわけですから、ペナルティです」
「いや、それは困るよ。僕にだって生活があるんだから」
「そんなの知りませんよ。あなたが悪いんですよ、約束を守らないから」

「わかったよ。お代お題はいらない」

おわり。

もしも僕の小説が気に入ってくれたのなら、サポートをお願いします。 更なる創作へのエネルギーとさせていただきます。