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水野貴美は、街頭でストリート・ライブをすることに決めた。 人前で歌いたかった。 歌うことで、自分を表現したかった。 歌うことで、自分を解放したかった。 誰も聴かなくてもいい。 ただ自分のためだけに、歌いたかった。 フォーク・ギターをハードケースから取り出して、ストラップをつけて、肩にかけた。 ハードケースは開いたままにして、目の前に置いておく。 もしかしたら誰かが投げ銭をしてくれるかもしれない。 人前に立つのは恥ずかしい。 だけども自分自身に集中
マクドナルドでハンバーガーのセットを頼む。セットのポテトはSサイズだ。 世界的なパンデミックの影響で物流が混乱し、北米からの輸入が遅れていたために、ポテトの供給が足りなくなっていた。 そのためしばらくの間、MとLサイズのポテトは販売が停止し、Sサイズのみが購入可能であった。 しかしそれが、ようやく再開された。 だけども僕は、相変わらずSサイズのポテトを頼んだのだ。 そう言えば、ポテトが足りなくなった頃と時同じくして、僕は恋人ともなかなか会えなくなっていた。 長
彼女は戻ってくる。 飛んでいっても戻ってくる。 彼女はブーメラン女子だ。 彼女は飛んでゆく。 新しい男を求めて飛んでゆく。 だけども見つからないと戻ってくる。 見つかっても飽きると戻ってくる。 彼女は気まぐれ。 カーマカメレオン。 僕だってお人好しじゃあない。 飛んでいった彼女を追いかけないし、戻ってくるのを待ってもいない。 彼女が飛んでいって1年になる。 僕には新しい彼女ができた。 彼女が戻ってきた。 新しい彼女と鉢合わせ。 修羅場だ
「あなたの小説を読ませてもらったんだけど、これはオケラ入りね」 と僕の担当編集者である彼女は言った。 「え、何だって?」 と僕は驚く。 「だからオケラ入り」 「それってお蔵入りって言うこと?」 「そうよ。オケラ入り」 「納得行かないなあ」 と僕は不満を漏らす。 「あなたが納得行かないのはわかるけれど、オケラ入りはオケラ入りなのよ」 「いや、そうじゃなくてさ。僕の小説がどうこうもあるけど、オケラってなんだよ? それはオケラ入りじゃあなくて、お蔵入りって言いたいんだよね
水野貴美は、街頭でストリート・ライブをしていた。 月曜日、その男は現れた。 高級なスーツを身に着けたその男は、少し離れたところに立ち、貴美の歌を聴いていた。 その姿は、ジェイ・ギャツビーのようでもあった。 男はしばらく貴美の歌を聴いた後に、満足そうに微笑むと、お金をギターケースに放り込んだ。 貴美はギターケースに入れられたお金が1万円札だったということには、そのときは気が付かなかった。 帰り際にそれに気が付き、驚いた。 次の週の月曜日、その男はまた現れた。
金曜日、ストリートにて 水野貴美は街頭で、ストリート・ライブをしていた。 金曜日の夜は、とりわけ人通りが多い。 ギターのハードケースには、次々と投げ銭が放り込まれた。 貴美は人混みの中に、ある男を見つけた。 それは、月曜日の男だった。 いつもは高級なスーツを着て現れる月曜日の男だったが、金曜日に現れたその男は、ラフな格好をしていた。そのため最初は、それが月曜日の男だとはわからなかった。そして月曜日はいつも途中で投げ銭をして帰ってゆくのだが、今日は違っていた。