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芸術系大学を通信課程で卒業して感じること

編入学して在籍していた芸術系の大学(通信課程)を晴れて卒業します。
専攻はグラフィックやWEBに関わる分野です。

日本では数少ない芸大の通信制ってなんだ?という方、入学しようと思っている方にとって少しでも有益になればと思いシェアします。
(自分のことに触れるので長くなります。)

※ただの個人の見解なので、あくまで参考程度に捉えてください。とくにカリキュラムなどは変更されている可能性があります。

入学した動機:デザインの素養に触れたかった

いわゆるデザイン制作(もしくは近い)仕事に関わって5年くらいたって、都度都度テクニックや原則を独学で学んできたけれど、以下のようなことを思うことが多くなっていました。

「なんかベースとなる素地すら独学のまま走っている気がする」
「自分がやっている事は一体何なのかのかしっかり理解しておきたい」
「作品を見せる以外で自らの背景の証明がなんだか難しい

視覚的表現って学生時代以前からアートやエンターテイメントに興味がある&好きな人が就いていることも多い分野だと思います。

しかし自分の場合は、「美しさで売り上げが変わるECの商品ページ」や「使いやすいUIによる満足度の上昇」といった仕事の現場の中で、デザインが与える社会へのインパクトに興味を持ち少しずつ制作業に近づいてきました。いわば必要かつ実利ゆえです。

そのため「かの有名なグラフィッカー〇〇氏が!」という知識は今でも薄く、早くから興味に気付き素養のある芸大出身の人が羨ましかった。
(ただそれ故に仕事に一定の距離感を持ち、自分の趣味と違う!なんてことなく継続できている強みもあると思う。)

そこでずっと羨ましいままの人生は嫌だな、必要性だけでなく興味故に見えてくる世界も知るために動かなければと思ったのが背景です。

よかったこと1:様々な分野の見学ができた

仕事で制作に関わる場合、もちろん必要とされるものを作っています。それはこれからも続けることですが、大学では商用利用を前提しないものなど馴染みない制作に向かい合う機会を多く持てたなと思います。それぞれを極めた!なんて言えるはずはないですが、自らの体験が複合的な知として教養になればいいなと思えました。私は入学前から印刷もWEBも両方触れていたので、全く知らなかったという内容は出てこなかったですが、映像制作などその当時は深めていなかった分野に踏み込むきっかけができたのはよかった。

例えばタイポグラフィの勉強熱が加速し本で勉強を続けているのも、カリキュラムで有名フォントの歴史的背景に触れたことが大きいと思っています。

よかったこと2:営利的でない価値観・フィードバックに触れた

仕事では必ず時間的、経済的等の状況に応じた制約が生じ、それらに基づいた修正やブラッシュアップが行われます。これとは対照的に学内では、同じ制作者としての目線で先生や生徒から作品のフィードバックを受ける機会に恵まれていたことも貴重でした。私自身誰かや何かに師事することが薄かったので尚更。制作を深めていくとどうしても先入観が生まれるので、それをリセットする利害関係のないフラットな感覚は大事だと思えました。

疑問が残ったこと1:課題や講義が発展的に構成されていない

これは通信制故に授業回数に制限があり、上述の通りあらゆる分野を横断する以上ある程度は仕方がないと思うのですが、ツアーのように単発で回る印象が強かったです。

1回の課題提出を完了した後にそれを発展させる機会や、対面授業を受ける前に行う事前課題が複数かつ段階的に構成されることは多くなかったため、カリキュラムというより修学システムにもう少し工夫があってもいい気がしました。ただ、基本的知識を発展&応用利用するのは学生個人の主体性だと思っているので微妙なところですが。

せめて卒業後の道しるべとして講師がどのように知識と経験を養ってきたのか、その時々に何を感じてきたのかは示してもいいと思う。

疑問が残ったこと2:時代錯誤な内容&教える側の知識更新不足

表現形態やニーズの変化が激しい故に最先端の内容でカルキュラムを組むのは難しいとは思います。ただ、例えば以下のようにあまりに古すぎる内容も混在していました。

- WEBサイトを10年以上前の仕様であるCSS2.x系で組む
- 動的なプロトタイプタイムではなく静止画によるデザイン見本
- アニメ制作が主要ブラウザで動作しないFlash
- adobeCS以前の機能のみでの進行し、修正に弱いデータ作り
- 旧来のマスメディアばかりで、新興のネットメディア知識が薄い。

ツールや表現手法などが古いこと自体が問題ではなく、テクニック主体の専門学校ではないのでSassやEmmet等の必須ツールも解説すべきだとも思いません。

ただ演習という名目で講義が組まれ、実務経験豊富の教員であることを謳っています。情報デザインという周辺慣用の変容が激しい分野である以上、せめて現代の制作事情の紹介だけでも触れるべきと思いました。私からみても教える側の知識更新不足ではないかを疑う場面が多く、詳しくない学生にとっては知るきっかけすらないままではないかと思う場面がありました。良書は世の中にいっぱいあるので、指定図書まで行かなくても、せめて少し掘り下げて紹介したりあってもいいのかなと。

ケーススタディについても、前時代的なメスメディアありきで進行する印象が強かったです。例えばスマホアプリ由来の販促だとか、小規模かつニッチなメディアも多々存在する現代だからこそクリエイティブが発揮される場所もあるはずです。新しい手法に触れることが、探究をはじめるきっかけになることもあるのではないかと思います。

ザインの基本概念的なことに比べて、「効率的かつ効果的に進める」ことや「新しいものに向かい合う」ことって軽視されがちだけど、変容するテクニックを追いかけることは既存のアイデアに固執しないことにも繋がると思っています。教員の方々の一部にはそれらを拒否する言い訳を並べたり、傲慢ない態度でねじ伏せたりといった印象もあったのが残念です。

このように「アップデートを停止した狭い価値観」に結構がっかりしてしまったため、正直、この芸大出ましたってことを今後自ら語ることはないと思っています。

(余談)通信制全般で知って欲しいこと

実は通信制はめっちゃ通学している
通信制という名前ですが、この大学に限らず対面授業の時間が必須なので(おそらく文科省的に)実習が必要な学科は結構な頻度&日数通わなければいけません。自分の場合は月一の頻度で、土日二日間丸々スクーリング参加していました。基本的にスクーリングは特定の日付で絶対参加しないといけないので(必修)、入学を検討される方は予めスクリーングに参加できるかどうかをしっかり確認されるといいと思います。

思った以上に結構お金かかる
基本的に通信制の授業料は通学生国公立大学の半分くらいですが、上述のスクーリングに別途参加費用がかかる場合が多く、作品制作費は基本実費です。さらに必須PCやソフトウェアといった環境も指定がある場合が多く、通算すると結構かかります。予算はしっかり計算しておくことをお勧めします。自分の場合、概算で150万以上は入学から卒業までに費やしたと思います。

学士は通学生と同じ
これはどちらかというと通信制に興味ない方に向けてですが、どの大学も卒業の難易度は通学過程と同じで、同じ学士である以上は簡単・難しいとかないです。働きながら、他にやることがありながら学生をすることって結構なハードルだと個人的には思っています。

(まとめ)行くべきかどうかは人それぞれだけど、否定されるものではない。

制作界隈問わず、社会人になった後でも特定分野の学校に行った方がいいのか議論を目にすることがあるけど、それは人それぞれでいいと思っています。現場でしか得られないことも多く、芸大卒が偉いとも思いません。

ただ、正直なところ「働きながら知識をアップデートし、環境を変えていける人」は、そもそも「学生時代からその意識を持ってた人」が多く、結果その分野の大学を出ている人が多い印象です。

元々未知と格闘するのが好きというのもありますが、経験してないことに難癖を付けたり、言い訳して学習を止めることこそが恐怖だと思う。これは自分への訓戒の意味でもよく思いだしています。

以上です!何かすこしでも役に立てば嬉しいです。
コメントもお待ちしてます。

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