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貞子パーティ 【ショートショート】

貞子パーティ

モヤに包まれていた会場だったが、午前10時になると、待ってましたとばかりに日が刺してきた。海岸の空気は一気に温まり、太陽が笑いかけている。

「晴れてよかったよ」

「そうね、でも私には合わないかも」

ジェイソンの言葉に、貞子が暗い顔をした。

「そんな顔するなよ、俺が楽しい日にしてあげるよ」

そう言ってジェイソンがクーラーボックスから肉を網の上に広げていく。

「そう?じゃあ今日はジェイソンが肉焼いてくれる」

「当たり前だろ、まかせろや」

4月の半ば、記録に残るくらいの夏日。貞子は会社の仲間たちと光が丘公園でバーベキューを企画したのだった。数十人の招待客を呼んでいる。

貞子は会場を回すのに何人かの気心の知れた仲間と親友であるジェイソンを選んでいた。ジェイソンは前から気兼ねせずに話せる仲だと思っていた。

ただジェイソンにも悩みはあった。

「チェンソーを使って人を殺すな」

という非難でジェイソンのSNSが炎上していたからだ。

「俺はチェンソーを使ったことはない」

貞子はチェンソーを使わなかったと豪語するジェイソンを信じていたし、決して13日の金曜日を怖く思ったことはない。それどころか貞子にはジェイソンの悩みにかまっているほどの余裕はなかった。ビデオに残された映像が世間を騒然とさせていたからだ。

「自分は、恨みを晴らしているだけ」

それしか言いたいことはないのに、日本国民のほとんどが自分のことを知っていて、テレビから散歩に出た映像を見て怖がっている。人を呪っていると思われているのだ。散歩しただけだよ、そんな勘違いすな、そう思うと、怒りが沸き上がって他の周りのメンバーに八つ当たりしてしまう。

「ジェイソン、いい加減その仮面とったら」

と貞子。以前もジェイソンの仮面が気になったことがあるから、今日は言ってもいいだろうと思った。

「これは俺という殺人者をわかってもらうための仮面なんだよ。アメフトといっしょにするなよ。それより貞子も前髪切れよ、前が見えないだろ」

「悪いけど、これは後ろ髪を前に持ってきてんのよ、前髪もあるけどそういう問題じゃないの、わかってないな」

バーベキュー会場の上空でカラスが“カー”と間抜けな声を上げた。

「今日はお誘いありがとう、はい、これみんなで食ってくれ」

ジェイソンと貞子の間に、プレデターがでかい肉を持って入ってきた。

「お前いい加減にしろよ」

先に会場入りしていたターミネーターがプレデターの髪をつかんだ。

「これはどこの村から持ってきた肉なんだ」

ターミネーターがプレデターの胸ぐらをつかもうとして、つかめる場所がなかったので、また髪をつかんだ。

「ひどいな、今日は光が丘のモール地下1階の肉専門店で買ってきたんだよ」とプレデター。

「おいやめろよ」

プレデターの後ろから、ねばねばした液体を垂らしながらエイリアンがケンカの仲裁に入ろうとした。

「うるせえ、お前負けただろ」

プレデターはターミネーターの腕を払うと、ライバル意識があるのかエイリアンに顔を近づけた。

「ちょっと出てくる」とターミネーター。

「おい今からだぞ会は」とジェイソンが背中越しに声をかけた。

「I’ll be back」

「どこかで聞いたな、本当に帰ってくるのかな」

そう言ってエイリアンが液体をねばつかせた。

「来る、きっとくる、きっとくる」と貞子。

「あんたら金玉が小さいんだよ」

皆が驚いて足元を見ると、オーバーオールを着たチャッキーがプレデターの股下をくぐって会場入りした。

「じゃあカンパーイ」

主催者の貞子が普段は見せない笑顔を振りまいている。

「カンパーイ」

エイリアン、プレデター、ジェイソン、とチャッキー。もちろんチャッキーはジュースだ。

「その肉は私が事前に貞子さんあてに送っていたものです」とプレデター。

「やっぱりそうか、お前が選ぶ肉はうまいからな。いつ送っていたんだ」とエイリアン。

「3カ月前です。くれぐれもターミネーターさんには内緒で」

「わかった。ここにいる全員が仲間だ。ん?3カ月前?大丈夫か」

「大丈夫だよ、あたいの井戸で冷やしておいたんだから」

不思議そうに聞いたエイリアンを貞子が制す。

「ただいまー」

「なんだ、普通に帰ってきた」

貞子がターミネーターの声に反応した。

「なにしてましたか?」プレデターが興味深そうにターミネーターに聞いた。

「なんでもいい、それより俺は何を食べればいい」

ターミネーターはいつもの調子だ。

「あんたは肉の味なんかわからないんだから、そこでみんなが食うのを見ておきな」

貞子がそう言ってキャンプ用のチェアを差し出した。

「おうありがとう」

そう言ってターミネーターが腰かけるとチェアはぐしゃっと音を立ててつぶれてしまった。

「ははははは」

チャッキーが転んだターミネーターの背中に腰かけて大声で笑っている。

「へいボーイ、やめな。大人をからかうもんじゃない」

そう言ってエイリアンがチャッキーの頭を小突いた。

「いい大人が子供に本気になるなよ」そう言いながら会場入りしたのはゲゲゲの鬼太郎だった。

「子供を馬鹿にするやつは目玉おやじが許さないからな、ほうらおやじ肉でも食べておきな」

鬼太郎がお椀に入った目玉おやじを肉の前に置いた。

「キタローやめてくれ、ここに置かれたらわしが焼かれるわ」

「ああ、ごめんごめん、そこまで考えていなかった」

鬼太郎がお椀をエイリアンの前に置いた。エイリアンがまじまじと目玉おやじを見つめている。

「キタローここもだめじゃ、こいつ隙があればわしを食ってしまうぞ」

目玉おやじの言葉に鬼太郎がエイリアンの様子を見る。

「そんな感じするな、じゃあ姉さん預かってくれないか」

姉さんと呼ばれた貞子は気をよくしたのか

「そうかい、ここにいていいよ」

目玉おやじを着物がかさなっている胸の隙間に挟んだ。目玉おやじも女性の胸に入ることができて嬉しそうだ。

「おやじ何が食べたいんだ」

貞子が肉を食わせてくれるようだ。

こうやって貞子パーティの時間は過ぎていくのだった。

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