【#1 勇者、今日から営業マンになります 3】

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「うーん…」いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。僕は、ゆっくりと目を開ける。ここはどこだろう。さっきまでどこにいたんだっけな…。視界に入るものは、何もかも今まで見たことがないものばかりだ。部屋の中にいるというのはわかるけど、それ以外の情報がわからない。とりあえず、情報を集めなきゃ。敵の攻撃を受けた可能性も捨てきれない。一緒にいたはずの仲間のみんなもいないし、みんなが心配だ。ゆっくりと立ち上がると、ちょっと足元がふらつく。急に立ち上がったから?頭も少しくらくらする。ふらつく足で、少しでも何かわかることはないか、ゆっくりと部屋の中を回る。自分の体を確認すると、ケガこそしていないけど、服も違うし、アイテムも武器もない。これは、まずいかもしれない。少し焦ってもう一度部屋の中を見ても、結果、何もわからなかった。

しばらくして、わけがわからないなりに、この状況にも少し慣れてきたころ、急な音がした。ピンポーン ドンドンドンドンドン おいっ 誰かがいる。しかし困ったな…今は何も持っていない。ピンポーン ドンドンドン また、同じ音がする。音の方へ行くと、ドアの辺りから音が聞こえる。このドア、昨日は開かなかった。でも、この奥に、何かがいるのは確かだ。ドンドンドン 「おい、まだ寝てんのか?真実(しんじ)」しんじ、と言われ、ちょっと力が抜けた。僕の名前を知っているなら、仲間か?だとしたら、ドインかもしれない。

「起きてるよ!無事か?」大きく声を張り上げる。「は…?無事、って寝ぼけてんなよ。どうせ、今起きたんだろ。」ドインが返事をする。「まぁね…ちょっと状況がつかめなくて。とにかく、ドインが無事そうでよかった。他の仲間は一緒?ドインの方からこのドア開けれないかな?」「…。お前のそういうとこ、マジで尊敬する。つーか、治らねえなぁ、そういうちょっとイタイとこ」ドインが何を言ってるかわからない。でもなんか尊敬された。「よくわからないけど、ありがとう。今特に僕はケガをしてないよ。それで、鍵、持ってない?」

そう返事をすると、なぜかドインから返事が来れなくて、しばし沈黙が流れる。「…真実」あ、まだいたみたいだ。「何?」「お前の左の方に、何かボタンのようなものが見えるか?それが鍵だ。つまみを持って、それを左に回せ。」「えっ。う…うん」言われた通りに、左のつまみを左に回してみる、と、ガチャ、と音がして、同時にドインが入ってきた…と思ったら、そこには全く知らない男がいた。

「お前…誰だ!」身構える僕に、相手は目にもとまらぬ速さで攻撃を繰り出した。頭を思いっきりはたかれる。こいつ…見た目にはそう見えないけど、意外と武闘家かもしれない。「真実、お前今何時だと思ってんだよ。約束の時間はとっくに過ぎても現れねえし、見かねて家に来たら寝てるし、挙句の果てに苦し紛れにファンタジーのキャラ気取り…って、お前何歳だよ」はぁ~とため息をつかれる。どうやら敵ではないみたいだけど、なんか、僕怒られている気がする。

「えっと…ごめん。人違いかな。僕は今初めて君と会ったんだけど」明らかにイライラと頭を書いている彼に向って少し言いにくかったけど、正直に伝えてみた。すると、彼はにらんできた。「だからもういいって…とりあえず、もういいや。めんどくせぇ。返してもらったらいいよ、もう帰る」そういって、僕の横を通り過ぎて、彼はずんずん部屋に入っていく。

慌てて彼についていくと、彼は相変わらず部屋きたねえな…とつぶやきながら何かを探している。「大体さ。ドインって誰だよ。」イライラしながらも、彼に聞かれたので、とっさに僕は答える。「ドインっていうのは僕の仲間で…あの、ちょっと褐色の背の高い魔物使いなんだ。ジアの森で会った…」「ふーん…あー、最近それハマってんだ」「ハマってる?」「あれだろ。V(ファイブ)だろ。スフとか、ラスボスの…ドラガオンだっけ?とか。ドインもそうか、途中で仲間になるよな」「そう!君すごいね、僕たちのこと色々知っているんだ!」

「お前そろそろいい加減に…」また、僕を睨むように彼は僕を見る。が、少し顔つきが変わった。「…まさかとは思うんだけどさ。お前…真実じゃなねえの?」「え?僕はしんじだけど…」「えーっと…。あんたの、生まれは?使命は?」あんなに僕に興味なかったのに、唐突に質問をされ、戸惑いつつも僕は答える。「僕はジャン国の生まれで、ドラガオンを倒して姫と世界を救うために旅をしている、けど…。」答えを聞くと、彼はふう、とまたため息をつく。彼、大分クールだなぁ。

「…わかった。これ、触ってみて」彼は、僕にあの前に音が鳴っていた小さな道具を差し出した。「えーっと…何をすればいいの?」彼に聞いてみたけど、返事はない。まじかよ…そんなことあるのかよ…彼は一人つぶやきながら、また何かを探す作業に戻ってしまった。大分手持無沙汰だなぁ…。

やることがないので、彼の動向をボーッと眺めていると、彼は「ここに座って」と、また話しかけてきた。もうわけがわからないので、ただ言われた通りに座る。すると、彼がさっきの道具とは別の道具を持って、僕の隣に座った。

~♪ 道具から音楽が流れる。やっぱり不思議だ。誰もいないのに、音楽が流れるなんて。彼は黙々と、道具についているボタンを押している。そして、こう言った。「真実…俺だ。真守だ。聞こえてたら、右に動け」そういうと、道具を床に置く。彼が真剣に道具を見つめているので、僕も見ていたら、道具の中の絵が動いた。

うおっ 彼は小さく声をあげる。何があったんだろう。「もう一度、いう。真実…お前、ゲームの中に入ったのか?そうだったら、下に動いたあと、左に動け」…しばらくすると、先ほどと同じように、道具の中の絵は少し動いた。「まじか…こんなバカげたこと、信じられないが…なんでこんなことになった?お前は望んでいったのか?何か話す方法はないのかよ…」彼が呟くと、しばらくしてから、絵の中の人が左、右と動く。「お前も想定してないって感じか…。何か違うことはないか」彼は、また1人道具を動かして何か考えだした。「ふーん…真実のアイテムの中に俺の知らないもんがあるな。まさかとは思うけど、この町にいるってのも何かの縁か…やってみるか」そういうと、彼はボタンを動かす。それに合わせ、絵の中の人も動いていく。不思議…新しい魔法かな。僕は魔法が使えないから、こういう魔法もあるのかな…今度スフに聞いてみよう。

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