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ラブホテルでのパーティが、『天気の子』で一番悲しいシーンだと思う

『天気の子』が好きすぎるため(劇場で10回見ました)、こんなテキストを書いてしまいました。他にも『天気の子』関連のテキストを書いているので、よろしければぜひ!

それでは、本題です。

天気の子を自覚した陽菜

花火大会を思い出してください。
過去最大の晴れを生み出し、花火大会の中止を防ぐ大成功、その直後、特等席で花火を見る幸せな場面のはずなのに、陽菜が悲しそうな目で自分の手を花火に透かしています。とても悲しそうな目です。

彼女は自分の体の異変には気づいていて、花火の光を通す手のひらの透け具合を確認していました。その直後、

「私ね、自分の役割みたいなものが、やっと分かった」
「ような気が、しなくも、なくもなくも、なくもなくもなくもない」

回数を数えて整理してみてください。こう言っています。

「私ね、自分の役割みたいなものが、やっと分かった」
「ような気が、しない

会話回しが巧みな新海誠らしくない、胃の底が痒くなるくらいわざとらしい「なくもなくもない」は、陽菜の本音を隠すために加えられたものだと思います。(自分の体を犠牲にして晴れを呼ぶことが、自分の役割?)


最後の依頼、須賀さんの依頼の舞台となった芝公園。透明な腕を隠すために上着を羽織り、陽菜らしくないアンバランスなコーディネート。そこで陽菜は夏美から、「人柱」の話を聞きました。どれだけの衝撃だったでしょうか。その帰り道、芝公園から陽菜の家の最寄り、田端駅までは乗り換え込みで約30分。帆高と会話もなく、暗い表情です。「人柱」の件を思い悩んでいたに違いありません。一方で、帆高は「人生、初、告白…!」とまったく別件で頭がいっぱい。僕たちからみると、とても悲しい30分です。
結局、帆高の告白は陽菜に遮られ、陽菜の「私…」は突風に遮られることになります。

ラブホテルで、陽菜の胸中にずっとあったもの

池袋のホテルにたどり着くまでに、陽菜は「雷」という晴れ女の範疇を超えた巫女の力を使いました。その後、一人で入ったお風呂で、ついに胴体にも及んだ透明を確認し、絶望したのではないでしょうか。絶望したはずです。そして、彼女は透明な体でカップヌードルを食べ、恋ダンスを踊り、枕投げをしました。笑顔で。

その後、

「十八歳のお誕生日、おめでとう」
「安物だけど、陽菜さんに似合いそうなのを探したんだ」
「ねえ、帆高はさ、」
「この雨が止んでほしいって思う?」

楽しい時間に水を差さないよう悩みを隠し続けた陽菜と、それに気づかない帆高。それが決壊しかけたのが田端駅、決壊したのが池袋のホテル。帆高が気づいたときにはもう遅く、別れの夜となりました。

バスローブを脱ぐ前から陽菜の体は透明で、それを自覚した体で恋ダンスを踊っている。その視点で見ると、ホテルのシーンがすごく別物に見えるんです。


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