「サバカン・・・映画との出会い」


 よく聴く朝のラジオのパーソナリティが、これは面白いです、と声高くして言っていた。彼はこちらと年回りが同じで、少し前に病気をした影響か尿のコントロールがうまくいかないようなことも言っていた。近しいことでこちらも困っていて、妙に親近感を覚えてもいた。はやり年齢が近いと、それなりに聞いていて納得することも多い。
 その彼が面白いと言うのだからと、検索してみると、契約している動画配信サービスにその映画があったので、「サバカン」というタイトルだけではどんな映画かさっぱり見当がつかなかったが、さっそく見てみた。
 鑑賞後、これは日本版「スタンドバイミー」だと思った。誰もが忘れられない幼少の頃の思い出。年齢を重ねたからこそ高まるその当時の切ない宝物。
 映画は実際見てみないとわからない。面白そうと思って見て裏切られることもあるし、その逆もある。ずっと昔に何気なしに小さいブラウン管テレビで見た「シベールの日曜日」は今でも忘れられない。たまたま見たのだ。
 それでも、自分なりにアンテナを張っておくことも必要だろう。何もしないでボケっとしていては、いい出会いを自ら放棄しているようなものだからだ。
 動画配信サービスを利用していても、月によって見る本数は違う。多い時もあれば、少ない時もある。これは食べることで云えば、食べ放題サービスと同じだ。皆、必死で元を取ろうとする。山盛りにして料理を運び、次第に苦しくなるおなか。栄養を取れるのはいいが、でもあまりに行き過ぎるとどうだろうという気がする。動画配信サービスについても、最初は同じように今月は何本と指折り数えて見ていた。だが、見過ぎるとさすがにいくら好きなことでも食傷気味になる。今は、本数にこだわることなく、いつでも見たい映画が見られるという余裕、それがこのサービスのいいところ、と割り切っている。
 そして「サバカン」だ。「スタンドバイミー」と同じように幼い頃の自分なりのノスタルジーにも浸れ、さわやかな後味のとてもいい映画だった。同年代のパーソナリティに感謝。
 出てくる子役が「三丁目の夕日」と同様それぞれにはまり役で、作り物感を感じさせない。他の登場人物も皆、それぞれにはまっている。「そこ」へ行けば、あの人物が普通に「そこ」で生活しているような錯覚に陥ってしまうほどに。たぶん、いい映画はみなそうなのだろう。
 やはり好きな映画に「スイングガールズ」があるが、当時女子高校生を演じていた貫地谷しほりが、主人公の友達のお母さんを演じている。ああ、あの子がこうやってお母さん役をやるようになったかと時の流れも感じてしまった。
 子どもの頃の記憶はどこかに刻まれていて、ふとした時にそれが急によみがえることがある。この映画を見たのがきっかけである場面が頭をかすめた。ずっと幼い頃よく遊んだY君という子がいた。夕方になって、商売をしている家(うち)の横の道を遊んでいたY君は帰って行く。そんな時、お互いに姿が見えなくなるまで名残惜しく大きく手を振ったものだった。そして隣近所からは夕餉の支度のにおいがした。
 残念なことに、少し成長してからはまったく音信普通になってしまったが、どんな風に成長して今どんな風に暮らしているのだろう。
 たぶん、誰にでも似たような幼い時の思い出はあると思う。
 ほんの束の間でも、琴線に触れるノスタルジーに浸ることのできた、とてもいい映画だった。まだ見たことがない人があれば、ぜひご覧あれ。


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