「つい、そしてうっかり」
もう強い日差しに負けそうになりながら電車の席に腰かけた。駅までのわずか10分程度の徒歩で、もう全身、特に背中は汗がしたたっている。ミニタオルで背を拭うが、汗はなかなかひっこまない。クーラーの冷たい空気を背に入れようと肩掛けバッグから扇子を取り出し風を送る。そんなことの間に、降りる駅に着いた。慌てて扇子を閉じ、クラリネットを入れたリュックサック、そして細長い楽譜立て入れを手に、電車を降りた。
人間、何かに気を取られていると、他のことには目がいかないものだということは知ってい