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幻想を加えた母さんの味 #餃子が好き|ショートショート

26歳にもなってと、馬鹿くさくて最初は気にしないでいたが、やはり見える。

最初はうっすらと見えていたそれは手に取れるほどの存在感を出してきた。

僕の夕飯メニューは5つある。

鶏肉を焼肉のタレで焼く。
鶏肉を塩で焼く。
豚肉を醤油で焼く。
豚肉に片栗粉をつけて照り焼きで焼く。
魚を塩で焼く。

そろそろこのメニューに変化をつけたい。
1人暮らし3年目は、大物に手を出したくなる時期でもある。

うちの近くのスーパーは、街中特有の狭さと冷たさと忙しなさを押し込めた塊だから心許せる場所ではないけれど、バイトの女の子の髪はすごく綺麗だ。

ほとんどの材料は家にないので全て買わなければならない。ひき肉、ニラ、ネギ、生姜、ニンニク、それに餃子の皮。

あと、オイスターソース。

さっき母さんにレシピを聞いたらオイスターソースが味の決め手だと、ひそひそ声で教えてくれた。母さんはそうやって大袈裟に芝居ががったことをするのが好きなのでそんな時は僕も大袈裟に返す。

電話越しに演技を伝えるのは、なかなか骨が折れるが、これは我が家のクセみたいなモノで母さんだけでなく父さんも時々芝居がかって本人が家族に知らせたい事を大きな声で歌って踊りながら言ったりする。

そんなわけで僕も大きな声で餃子の作り方を歌いながら野菜を切る。
買ってきた野菜にはなかったはずなのに、ここには見える。レンコンが。

レンコンの幻覚なんて、何を意味するのだろうか?おしゃれさが足りない。

僕の不満も気にせずに、徐々に存在感を増すレンコン。

ついには手に取れるほどになった。

餃子を作る僕の前に現れたレンコン。
そうなるともうやることはひとつ。

レンコンを餃子に入れることになる。母さんのレシピには書かれていないが、しょうがない、出てきてしまったのだから。

きりきりと気になる人のために早めに伝えておくと、レンコン入りの餃子は美味しかった。

じゅわりと柔らかな肉と肉汁の海に揺蕩うレンコンは、シャリっとした食感で、餃子の皮のパリリとした歯ざわりに、ランダムなアクセントを加えて肉の柔らかさをより際立たせてくれる。

母さんのレシピを聞いたのに勝手にアレンジして幻想のレンコンを入れてしまったとなると心配されるだろうから、今回は言わないでおこう。

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