記帳する大切な人|ショートショート
背中の手帳は重くないのかと聞かれれば、重くない。とは答えない。
生まれてすぐに持たされた1冊目の手帳から、16になる今日まで毎日増え続ける手帳を全て持ち続けても重さはそれほどでもない。
流布民だけがもつ撚は、重さを開放する時にも役立つ。
しかしこの手帳の責務を思うと、その重さに押しつぶされそうになる。だから重くはないけれど、やはり重いのだ。
りんしゃん。
欄様が舞う鈴の音が響く。
今年元服劫となる、欄様はずっと伸ばしてきた長い髪を高い位置で1つに束ねて一心不乱に踊っている。
私はその舞の足運びの様子や、春杉燃やしのつんと鼻につく薫りを手帳に記す。
欄様の舞は、空気を止める。
音だけが、1つ別の次元からもってこられた記号のように私の脳に響き渡る。
それから舞がこの世の動きを停め、欄様だけが取り残される。
その様子を私は、ずっと書き記す。
わたしのすべての器官を使って、私のすべてで欄様をこの世に記し続ける。
それが流布民の生きる意味そのものだから。
【あとがき】
娘が小学校に上がって、漢字にこめられた意味とか成り立ちとかを一緒に学ぶうちに、漢字おもしろ!っとなっております。
今日使った漢字たちの意味はこんなところ。
・撚る→ねじりあわせる
・劫かす→おどす、長い時間
・欄→区切られた一定の部分、囲まれた部分
・流布→世の中に知れ渡ること
流布民達は、自分の気持ちを撚りあわせて使える魔法みたいな撚を持ってて、欄様を大切に思いながら、その生きた印を手帳にずっと書き続けてみんなに知らせる仕事をしていて、欄様は大切にはされるけれど、ここに留まり続けて元服劫を迎えると囲いの中から永遠に出られない!みたいなお話です。
私はこれをショートショートって言ってるけど本当にそうなのだろうか?
ショートショートのお題は田丸雅智先生のツールを使っています。
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