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とくべつ|ショートショート

今じゃないし、これじゃない。
大きなため息をつきながら、はるかは思った。

45歳。

四捨五入すると50歳に足がかかるというのに、こんなことには巻き込まれたくはなかった。

しかし年齢を四捨五入して誰が得をするのだろうか。そんなことを頭の片隅で考えながら、笑顔になりすぎないよう目尻をさげる程度に抑え丁寧に答えた。

「ウチの店では取り扱いがないんですよ。」

田舎の都会、山奥の繁華街。
家賃は安いし生活に必要なお店は全て揃っている。
住むには便利な田舎のスーパーのレジの前で、はるかは答える。

目の前の男の子は20歳より少し若いくらいだろうか。マスクの上から覗く目は、薄い茶色ですこしとろんとしている。

誕生日を少し超えたあたりからこの現象は始まった。
初めは自意識過剰なんだと顔を赤らめていたけれど、今はわかる。
これはそんなレベルではないのだ。

年齢は18歳くらいから25歳くらいまでだろうか。そのあたりの男性というか、45歳のはるかからすると“男の子”と思えてしまうくらいの人達がみんなはるかに惚れてしまうのだ。

はるかとすれ違うだけで、体が震え、目が虚になり、声をかけずにいられなくなってしまう。
18歳前後の子なら、声をかける勇気が出なくて、でも気になって後をついてきてしまう。

ここ何日かで分かったことは、とにかく相手の男の子と距離を取ること。

それで「一目惚れ」の効果は薄れるらしく5メートルほど離れると、少しふらふらしながらどこかへいってくれるということが分かってきた。

夫もいる主婦で子持ちのはるかにとっては、こんなに使えない特殊能力を身につけてしまって迷惑以外のなにものでもなかった。

イケメン俳優やらアイドルなんかの男の子にも効くのだろうかなどという考えも頭をよぎったが、この力を悪用するほど悪い人間にもなりきれない。

だからこうして田舎のスーパーのレジの前で、すっかり私に惚れ込んでしまった男の子の隣でイライラする女の子を見つめながら、

「今じゃないし、これじゃあないんだよな。」

と心の中で思うはるかであった。



あとがき


今年春のこと。

45歳誕生日のお祝いとして朝からビール✖️アフタヌーンティー✖️映画鑑賞で、今話題の #エブエブ (エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)を見てきた。

見たと言ってもビールとお腹いっぱいの私たちはけっこう爆睡してたから全部見たとは言い切れない状態なんだけど、要らない特殊能力と、45歳ってゆーのを掛け合わせたオチのない話を考えました。

私的にいらない能力ってなんだろーって考えたらでてきたやつ。

あと年齢四捨五入する風潮ってなんなんだろ?あれ必要かな?
この物語に出てくるはるかは、けっこう硬いタイプで昭和のままの正しい事を追い求めるイメージ。

正しいことが正しいし、それをやりたいけどできてない自分に自己嫌悪ってかんじ。物語の楽しいところはこうやって勝手に人の考えを決めらるとこだな。

あの人ってこーゆー人っぽくなーい?ってゆー女子の噂話をそのまま真実にできる。

勝手で自由な妄想ショートストーリー。

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稲橋 閃
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