あいトリ 「虚偽申請」「補助金詐欺」は本当か?

 あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」において、問題とされる作品に対して公金が使われたことが批判されています。

 「知事が作品を審査して、展示や公金支出を許可した」とか、「知事が作品を芸術だと認めて展示や公金支出を許可した」と、まことしやかに言われています。

 また、あいトリで「虚偽申請」や「公金詐取」があったという人もいます。

 そう言われる原因の一つは、市長の「隠して出した」発言です。

 ・あいトリ 河村市長の「隠して出した」の真相

 しかし、本当に「虚偽申請」や「公金詐取」などあったのでしょうか。申請時期作品が決まった時期、公金申請内容とプロセスについて検証します。

結論から言うと

1.公金支出申請による作品審査はありません。公金は「あいちトリエンナーレ」などの大枠の事業計画と収支計画に対して審査され、個々の作品は判断しません。
2.公金支出決定後に作品が決定しているので、作品を見て公金支出を許可することは不可能。
3.公金支出を作品によって決定するのは、公権力による表現(作品)への介入であり、憲法など法に触れる可能性が高い。
4.補助金詐取ならとっくに刑事事件。しかしいまだ事件化していない。

よって上記のような批判は当てはまりません。

以下詳細を検証します。

1.展示作品が決まった時期

「表現の不自由展」の展示作品が決まった経緯と時期

準備2

名古屋市ホームページ・「表現の不自由展・その後」にかかる経緯より)
【ポイント】
・映像作品「遠近を抱えてPartⅡ」は5月27日に出品決定
・展示作品の最終決定は6月4日

2.公金支出が決まった時期

あいちトリエンナーレ2019には3種類の公金が支出されています。それぞれの申請時期と支出決定時期です。

注目すべきは、愛知県、名古屋市、文化庁がそれぞれの分担分の承認をしているということ。公金支出が問題になるなら、この3者がそれぞれ責任を負わなければならないということです。

愛知県負担金       2019年3月29日申請 2019年4月  1日決定
名古屋市負担金      2019年4月  1日申請 2019年4月16日決定
文化庁補助金   採択 :2019年3月  8日申請 2019年4月25日決定
         手続き:2019年5月30日申請

 上記の作品が決まった時期と照らし合わせると、公金申請時どころか公金支出決定時にも作品が決まっていないことが分かりますね。

 これだけ見ても、申請時に作品を隠したのではないことが分かります。

3.申請プロセスと申請内容

では実際の申請書を検証します。

1)愛知県負担金

(1)愛知県議会で予算承認
(2)平成31年3月27日 
   あいちトリエンナーレ実行委員会運営会議で愛知県・名古屋市の負担
   金額を決定
(3)平成31年3月29日 負担金交付申請
(4)平成31年4月1日  負担金交付通知(決定)

 (1)・(2)は、負担金を3年に分けており、平成29年・平成30・平成31年とも、同じプロセスを経ています。ここでは、平成31年のものを例にします。

(1)予算を県議会で計上

2)平成31年3月27日 愛知県・名古屋市の負担額決定
 あいちトリエンナーレ実行委員会運営会議において、事業計画と収支予算、愛知県・名古屋市の負担金額を決定。

[議事録]

3月27日会議

[議案1]

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(3)平成31年3月29日 愛知県に負担金交付申請提出

   (2)を受けて県負担分を県に申請。申請書+添付資料の計3枚。
   
(2)の事業計画と収支予算を添付、作品の記述はありません。

[申請書]

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[添付書類1]

愛知_収支予算案

[添付書類2]

愛知_資金計画

(4)平成31年4月1日 愛知県が負担金交付決定

   (3)の申請を受けて、県の負担金交付決定。

愛知_交付

「実績報告」については開催後提出するものですが、県に聞いたところ会計報告が主で作品を審査するものではないそうです。

※愛知県議会で作品の承認を得ていない、との批判があったようですが、
 作品を議会に諮って承認を得る仕組みは存在しません。

2)名古屋市負担金

(1)名古屋市議会で予算承認
(2)平成31年3月27日
   あいちトリエンナーレ実行委員会運営会議で愛知県・名古屋市の負担
   金額を決定
(3)平成31年4月1日 負担金交付申請
(4)平成31年4月16日 負担金交付通知(決定)

(1)(2)愛知県と同じ。ただし、予算は名古屋市議会で計上。

(3)平成31年4月1日 名古屋市に負担金交付申請提出

   (2)を受けて名古屋市負担分を市に申請。申請書+添付資料3枚。
   (2)で決定した事業計画と収支予算を添付しており、作品には触れ
   ていません。

[申請書]

名古屋市交付申請1

[添付書類1]

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[添付書類2]

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[添付書類3]

名古屋市申請3

名古屋市ホームページ(資料14.~14-2.)と同じ資料です。

(4)平成31年4月16日 名古屋市が負担金交付決定

  (3)の申請を受けて市の負担金交付が決定。作品について記述なし。

名古屋市交付決定

3)文化庁補助金

(1)平成31年3月8日 補助金事業に採択申請
(2)平成31年4月25日 採択決定通知
(3)令和元年5月30日 補助金交付申請
(4)補助金交付

(1)平成31年3月8日 補助金事業に採択申請

   あいちトリエンナーレは「表現の不自由展・その後」を含む「国
   際現代美術展」で、「日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事
   業(文化資源活用推進事業)」
の補助金を利用しました。

募集要項によると、提出書類は以下です。
 ・実施計画書
 ・収支予算書

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実施計画書ひな型によると、記入項目は以下です。
 1.実施計画の名称
 2.実施計画の期間
 3.実施計画の趣旨・目的
 4.実施計画の推進に関する基本的な方針(文化振興条例等との対応等)
 5.実施計画の概要
 6.「日本博」の総合テーマとの関連
 7.期待される文化的・社会的・経済的効果等
 8.文化芸術政策の実績
 9.2019年度の実施計画
   (1)2019年度実施計画の趣旨・目的
   (2)2019年度実施計画の内容
   【実施計画の内容】
   (3)観光インバウンドの拡充に資する取組
   (4)文化財・生活文化等の活用に関する取組
   (5)障害者等のバリアを取り除く取組
   (6)2019年度実施計画の達成目標
   (7)2019年度実施計画における芸・産学官連携・
      協力体制の状況
10.申請済(申請予定)の文化プログラム認証
11.新国立劇場との連携公園
12.芸術文化振興基金への応募の有無
13.具体的な事業又は取組(予定)

うち、作品内容に関係しそうな項目を、実際の申請内容からピックアップします。(情報元:愛知県県民文化局文化芸術課より写しを入手)

[3.実施計画の趣旨・目的]

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[5.実施計画の概要]

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[9.2019年度の実施計画(1)(2)]

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[13.具体的な事業または取組(予定)]

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「具体的な取り組み」においても個々の作品の記述がありません。

[添付書類]

あいちトリエンナーレのプレスリリース(名古屋市ホームページより)から、「表現の不自由展」に関する部分も、この申請に添付しています。展示会概要のみが書かれており、やはり作品については詳しく触れていません。

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※作品を申請しなくてよいのか

募集案内には「実施計画書」の作成ガイドラインがありますが、展示内容まで細かく申請するような取り決めはありません。

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同じく募集案内の「審査の視点」を見ても、作品審査の項目はありません。
文化庁にも電話で確認しましたが、作品を審査しているのではないので、作品は書いても書かなくてもよいとのことでした。

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 この補助金採択申請時には、作品の申請はなく、それが正式な申請であるということになります。

 作品を個々に審査するのではなく、事業計画や収支計画といった大枠に対して審査・承認を行っているのです。

(2)平成31年4月25日 採択決定通知
   (1)の内容を受け、採択決定。

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(3)令和元年5月30日 補助金交付申請
   (2)の結果を受けて補助金交付申請をしています。

 文化庁に確認しましたが、内容の審査は(1)の採択時に行っているため、補助金交付申請は手続きが主であるとのことです。よってここでも、作品を審査する仕組みはありません。
   
申請時は(1)の
・実施計画書
・収支予算書
の一部修正です。

 実施計画書についてポイントになる部分をピックアップします。

[申請書]

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[3.実施計画の趣旨・目的]

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[5.実施計画の概要]

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[9.2019年度の実施計画(1)(2)]

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[13.具体的な事業または取組(予定)]

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(4)補助金交付

 その後、あいちトリエンナーレ2019の開催を経て、会期中に補助金不交付が決定したり、その後一部減額にて交付されるという結末を迎えています。詳細はこちら(あいトリ 文化庁補助金問題)にてまとめましたのでご覧ください。

なぜ申請書に作品が添付されないのか

 上記で申請時に作品リストの添付がないことが分かりました。これは、このような芸術祭での公金支出の審査は、「事業計画(コンセプト)」と「資金計画」に対して行われるからです。

 この仕組みをとるのに、法的にも根拠があります。

憲法第21条

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

文化芸術基本法

第二条 文化芸術に関する施策の推進に当たっては,文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない。(文化芸術基本法本文より)

 公権力が作品内容に踏み込んで是非の判断をしないような仕組みが実際にとられている、というわけですね。

管理が杜撰ではないの?

公権力が作品内容に踏み込まないことが、管理がずさんであると感じる人がいるようですが、作品決定までの経緯にもある通り、スタッフは出品候補リスト、作品リストを準備しており、管理がされている様子がうかがえます。

作品をリストに選定する際に、これはいい、これは悪い、を公権力が決めることが法に触れる行為となるわけです。


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公金を使うのだから内容に踏み込んで当然?

公金を支出するんだから、内容まで踏み込んで審査をして当然だという声も聞かれました。

しかし、公権力が作品に踏み込んで判断をすることは、前章で触れた通り、法に触れる可能性があります。

また、同じ要件で公金の支出を受けるのに、ある作品だけダメだと判断することは、平等の考えにもそぐいません。税金はいろいろな考えを持つ人が払っており公権力は平等にサービスを提供する必要があります。そのためには公権力が内容判断に踏み込まず表現の場を提供する必要があります。

物理的にも全作品審査は難しい

なお、おいちトリエンナーレと同時期に文化庁の補助金の採択が決まった事業はこれだけあります。

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あいちトリエンナーレの補助対象だけで、5会場81組のアーティストです。他も同規模の事業だとすると、仮に作品審査を必要とした場合、短期間に膨大な数の作品の審査をしなければならないということになり、すべての作品を審査できるだけの眼を持った人間を文化庁側に用意しなければいけないことになります。

 また全国で見れば、文化庁の補助金対象でなくても相当数の公的機関が絡むイベントが開催されています。

 どれだけの人員を動員しどれだけのコストをかければそれらの審査ができるのでしょうか。
 今日この瞬間にも生まれているかもしれない作品を即座に審査できる人がいるのでしょうか。

まとめ

 このように、芸術祭の公金支出においては、事業計画や収支計画と言った大枠に対して承認されるのであって、作品内容一つ一つを審査しているのではないことが分かりました。

 また、その公金支出が決まったのは作品が決まる前であって、時系列から見ても、作品を見て許可することはできないことが分かりました。

 実は私が本格的にあいちトリエンナーレ2019のことを調べよう、と思ったのは、あいトリにおいて「虚偽申請があった」と言われていることがきっかけでした。

 本当にそんなにひどいことが行われていたんだろうかと、資料や記事(一次ソースになるもの)を読んで、県への情報公開請求をかけたりしました。結果、上記の結果になり、「虚偽申請」はないのだと、分かりました。

 同時に、リコールを応援する自称「ジャーナリスト」たちが、私でも調べればわかることなのに調べもせず、こぞって「虚偽申請」があった、と言い張ることのおかしさも分かりました。

 そうしたことからなおさらこのリコールには賛成してはいけないという気持ちを強くしたのでした。