あいトリ 河村市長の「隠して出した」発言は矛盾だらけでとんでもにゃあ
河村市長は、あいトリで問題とされた作品(河村市長は「天皇侮辱動画」と呼んでいる)を、「隠して」出品したことを問題視しています。
しかしこの主張、嘘と矛盾だらけ。それを検証したいと思います。
1.「天皇侮辱動画」とは
あいトリの企画の一つ「表現の不自由展・その後」の中で展示された映像作品。
作家の版画作品を燃やす光景が含まれ、それが「天皇侮辱」と受け取った人によって抗議の対象になりましたが、作家の製作意図は全く異なるものでした。
詳細:あいトリ 「昭和天皇の写真を燃やす」映像作品とは(みつnote)
2.「隠した」の矛盾の検証
河村市長は、この動画作品が「隠して」展示されたと主張しています。
河村市長が主張する「隠した」件について、会見の文字起こしとともに検証します。
(1)矛盾①「「隠して展示」の証拠」
河村市長は、「展示のときに隠されていた証拠の書類」があるとし、それは、「あいトリオープン1週間ほど前に「愛知県が名古屋市に示した書類」」だとしています。
河村市長が言っている「書類」とは、7月22日に愛知県から名古屋市に提示された、「表現の不自由展・その後」の展示リストです。
この展示リストは、愛知県の発表では、「名古屋市の担当課をはじめ予想される抗議活動等により特に影響があると思われたところに情報提供したもの」(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会報告書p76)であり、問い合わせやクレームなどの影響があると思われたところに提供した情報であるとされています。
しかし、河村市長は、その書類によって「うその申し込み」があったと主張しています。
ここですでに愛知県と河村市長が言っていることとの食い違いがあります。
また、河村市長は、「申し込みの時に作品のことを言っておられたら、ちょっと待ってくれ、実行委員会をやろうと(言った)」と主張しています。
どうやら河村市長は、上記の展示リストによって自分に対して何らかの申し込みがあったが、その際に展示が「隠された」と言いたいようです。
河村市長は税金の使い方のことにも言及し、問題とされた作品に税金を使うべきではないと言っているので、河村市長の発言から、税金を展示会に使うには、作品チェックがあるのだ、と受け取る方も多いように見受けられました。
(2)矛盾②作品を間違える矛盾
河村市長の言うように、上記の展示リストで申し込みがあったとします。
河村市長の言うパート1は、過去にも「天皇コラージュ事件」で物議をかもした版画作品、パート2は、天皇侮辱とされる映像作品を指します。
河村市長が言いたいのは、会見の際、実際にあいトリで出されているのはパート2(天皇侮辱とされる映像作品)なのに、展示リストにはパート1(版画作品)が書いてある、実際と違うじゃないか!「隠した」!ということです。
展示リストの赤字部分のことを言っています。
しかし、実際には、パート1の版画作品もパート2の映像作品も両方出展されていました。
展示作品の説明ページにも、版画作品、映像作品の両方があったことが記されています。
(表現の不自由展・その後 ホームページより)
本当に河村市長はこのリストで申し込みを受けていたんでしょうか(笑)怪しくなってきました。
(3)矛盾③「書類」とリコールハガキとの矛盾
ところで、河村市長は、リコールハガキの中で、②日本兵士侮辱作品と③慰安婦像が展示されたこと自体もリコール理由として訴えています。
あいトリでは日本兵士侮辱作品など存在せずこの言い方自体デマなのですが、ここでは以下の記事を貼るにとどめ、続けます。
河村市長が申し込みに使われたと主張する展示リストには、日本兵士侮辱作品(実際には違う)も慰安婦像も写真付きで載っています(青枠部分)。
河村市長は、天皇侮辱動画(実際には違う)については、このリストに書かれていないので、「隠した」と主張しました。
そのリストに載っている他の作品は、河村市長は展示許可したってことになりますよね。
つまり、日本兵士侮辱作品(実際には違う)も、慰安婦像も、ハガキに載せるほど作品を問題視しているのに、実は自分で展示許可していた、ということになります。。。
この展示リストが申し込みに使われたとする設定、ずいぶん苦しくなってきました。。。
(4)矛盾④騒ぎ出すタイミングの矛盾
河村市長が言うように、7月22日の展示リストで「申し込み」を受け作品をチェックの上申し込み許可を出していたしていたとするならば、問題視している作品も、申し込みの時点で問題だと騒がないとおかしいですよね。
ですが、河村市長は、上記と同じ会見の中で、「直前に慰安婦像のことを知った」と言っています。
7月31日に市議会議員から「慰安婦像が出とったぞ」と聞いてびっくしりし、8月1日にある人から電話をもらい、8月2日に見に行ってびっくりした、とあります。
展示リストで申し込みを受けた設定はもうどこにいってしまったんでしょう。。それとも慰安婦像だけ展示リストから見逃していたんですかね。。
(5)矛盾⑤実際の申し込みと時系列
「申し込み」を時系列の点からも検証します。
①展示室の利用許可
あいトリの展示室利用許可(施設利用許可)は、愛知県美術館長が行うので河村市長あての「申し込み」はありません。
また、展示室利用許可は2018年11月にありましたが、この時点で、「表現の不自由展・その後」は、あいトリの企画になることも決まっていません。
よって、この時点で河村市長の言う「書類」での「申し込み」は不可能です。
詳細:「あいトリ 施設利用許可は作品が決まる前に出ていた(みつのnote)」
②名古屋市の「公金支出許可」
名古屋市の公金許可は、2019年4月。この時点で、「表現の不自由展・その後」は、あいトリの企画になることは決まっていましたが、展示の詳細は決まっていませんでした。
よって、この時点でも、河村市長の言う「書類」で「申し込み」することは不可能です。
詳細:「あいトリ 名古屋市への公金支出申請(みつのnote)」
また、名古屋市に対して実際に公金支出申請・許可された書類が公開されていますが、(名古屋市ホームページ)、この中に河村市長の言う「書類」は含まれていません。
そして、あいトリでは、「申し込み」と言える手続きはこの①②の2つのみです。
あいトリでは、芸術監督を選任し、その人やスタッフに作品の選定を任せるという方式をとっていましたので、「この作品を展示します」という申し込みをするようなプロセスにはならないんですね。
(6)矛盾⑥情報公開請求の結果から
これは決定的な証拠になるかと思います。名古屋市に情報公開請求した結果を載せておきます。
「表現の不自由展についての展示申込書類一式」は「不存在」との回答を得ております。よって、河村市長が言う展示申込書類は存在しない、そして、展示申込自体存在しないということになります。
よって、展示申込自体が存在しないので、河村市長の、「隠して展示」した、という主張自体、事実ではないということになります。
ところで、あいトリには「表現の不自由展・その後」を含め106の企画があり、日によって演目が変わる会場もありました。
河村市長が「展示申し込みがあった」と言い張るなら、「表現の不自由展」以外の作品も「申し込み」を受け、内容のチェックをした上で「許可」していないとおかしいですよね。
そこで、「表現の不自由展」以外の展示リストがあるのか、また、「表現の不自由展」以外の作品について申し込み書類がある、についても名古屋市に開示請求しました(下記緑字部分)。
結果、それらもやはり「不存在」との回答でした。
それは、あいトリにおいて、「表現の不自由展」に関わらずいかなる作品も、作品リストを出して申し込みの許可を受けるようなプロセスはないことを意味します。
(7)リストに明記がないのは「隠した」ことになるか
ところでなぜこのリストに天皇映像作品のことが書かれなかったのでしょうか。
この展示リストには、「(+資料展示)」と書かれています。
なぜ天皇映像作品が「資料」と書かれているかというと、作家にとっては、天皇映像作品は、メインの天皇版画作品の付属資料の位置づけだったからです。
また、上記のリストを作った事務局メンバーはその当時は内容を知らなかったとされています。
「隠した」可能性があるとすればこの点だけなのですが、これは名古屋市と愛知県との訴訟の争点となっています。故意に隠したのか、伝達が行き届いていなくてそうなったのか。
2022年5月25日名古屋地方裁判所が出した第一審の判決では、「あいトリ実行委側に問題はなかった」としています。
(8)「隠して展示」は嘘
以上により、河村市長の、展示リストから問題作品を「隠した」という主張はとても矛盾が多いことになります。
仮にその主張を正しいとするならば、今度は、慰安婦像を展示の直前に知ったという主張とは矛盾しますし、同じ展示リストに、慰安婦像や日本兵士侮辱作品(実際には違う)が載っていたので自分で許可したことになるのに、これらの作品が展示されたことを怒るのも矛盾しています。
のちに河村市長は他の雑誌への寄稿でも、慰安婦像の出展を7月31日に知ったと記しています。
そうしたことからも、展示リストから問題作品を「隠した」という主張は矛盾だらけであり、嘘であると断言できます。
3.出展作家による「隠した」と混同
2.で見てきたのとは別の切り口になりますが、河村市長は、出展作家の一人が「隠した」と言っていることも問題として取り上げています。
作家の一人中垣氏(河村市長がリコール理由にしていた「日本兵侮辱作品(実際はそうではない)の作家)が、「表現の不自由展」実行委員会から、「慰安婦像が出ているから問題になる、だから隠してやろうと言われた」としています。
そしてそれを、「本当のことを言ったら認められないだろうと。だから隠したんだと思いますよ。」と主張しています。
あれ?「隠した」と言ってたの、慰安婦像じゃなくて、「天皇侮辱動画(実際には違う)」のことじゃなかったでしたっけ?話が変わってますけど。。
そして、河村市長が参照しているAbemaTVでの中垣氏の発言は、以下です。
中垣氏は、『普通には出さない。隠して出す。中に慰安婦の像がある。これは今出したら問題だから』と言われた」としています。
ここで作家が「隠した」と言っているのは、記事中にも、「この“隠す”が意味するのは、作品の展示内容を事前に開示しないこと」とあるように、展示の申し込みのことではなく、「対外告知」から「隠した」の意味です。
表現の不自由展の作品が一般に公開されたのは、あいトリ開幕前日の7月31日でした。この日に報道発表と関係者への内覧会が行われています。
「表現の不自由展・その後」の展示内容は、ギリギリまで一般公開されませんでした。それは、過去の表現の不自由展でも行き過ぎた抗議があり、県警からのアドバイスに基づくものでした。(あいちトリエンナーレのあり方検証委員会報告書p34より)
あいちトリエンナーレのあり方検証委員会報告書p34によると、あいトリ実行委員会は、警備(警察)への相談は5月から始めており、早い段階から情報を共有し、警備体制の準備をしていたようです。
6月29日の記者発表の時点で出品作品のガイダンスをする予定だったのがそれを見送ったのも、県警のアドバイスとされています。
普通に考えて、作家が、申し込みの時に隠されたかどうかなど、気にしませんし、展示を企画する側も、あえて作家にそういうことは言いませんよね。一般に対外告知するのかどうかの方が作家にとっては重大問題です。
よって河村市長は、展示申し込みの時に「隠した」ことと、一般公開から「隠した」ということを、意図的なのかどうか、混同している、ということになります。また、天皇侮辱動画(実際には違う)と慰安婦像も混同。
ご自身の「隠して展示」論をこれで強化したかったのでしょうが、全く見当違いなものでした。。。
なお、中垣氏は上記のAbemaTV後のイベントで、「隠した」事の真相を理解し、中垣氏の怒りはそこで解消しています。
そして中垣氏はあいトリ後に、表現の自由を封じる政治や社会状況に危機感を強め、風刺を込め、「時代(とき)の肖像-愛知の絶滅危惧(きぐ)種」という新作を制作しています。
誰をモデルにした作品でしょう・・・?
4.愛知県の資料では河村市長の発言を検証済み
愛知県では、上記の会見を含む、河村市長の会見での発言を、検証して発表しています。
引用した河村市長の会見での発言は、「隠した」に関連する以外にも、矛盾がたくさんあるようです。
愛知県の方でこうして報告書にまとめ、河村市長の発言の矛盾も指摘され公開されていてもお構いなしに、河村市長は事実でない持論をあちこちで展開し続けるわけです。
5.本当に「隠した」ならリコールとか不払いとかやってる場合じゃない
河村市長が言う通り、「申し込み時に隠した」が事実ならば、河村市長が常々「あいトリは公共事業だ」と言っているので、その行為は公金詐取などの犯罪相当になります。
リコールだ、負担金不払いだ、などやっている場合ではありません。
早急に刑事告発する必要がある事件です。
また、関わっている公務員は、犯罪があると思われるときは、告発しなければならない義務があります。
しかし、あいトリには多くの県庁・市役所職員が関わっていましたが、未だにこの件で誰も告発をしていません。河村市長自身も告発できるにもかかわらず行っていません。
何をしているのでしょう。。。国民市民を守りたいと本気で思うなら。河村市長が言うことが正しいなら。やるべきはリコールではなく、早急に告発し捜査案件にすることです。
なぜそうしないのでしょう。できないんでしょうか。できないんですよね。事実ではないんだから。
それでも市長の言うことを信じる!と言う方は、ぜひ河村市長に、「隠して展示」の件で告発をお願いしてください。
6.人間はうそをついてもいいかという問題です、これは。
そうですね、河村市長。
まとめ
このように、河村市長はの主張には矛盾が多くあり、同じ会見の中ですら矛盾することを言っています。
にわかに信じがたいことですが、現職市長がこのような事実とは言い難い情報を使って人の感情を煽りリコール運動を扇動していたのです。 河村市長は、事実でないと指摘を受けても、街宣や動画など反論が返ってこないところを選んで一方的に自身の主張を述べてきました。
また、この「隠した」に関わる一連は、河村市長の主張の中でも肝になろうかと思います。少し調べるだけで矛盾だらけなのに、上記で引用した会見にいた記者ですらそれをしようとしませんでした。もし誰かしっかりと間違いを指摘する人がいたなら、河村市長もこれだけすぐばれる嘘をついて暴走するようなことはなかったのではないか、市民もここまで騙されずに済んだのではないか、と、思わずにいられません。
私は、できればこういうまとめは、マスコミや政党の方にやってほしかったと思っています。私個人でできる調査など限りがあり、もちろん市長という立場での絶大な発言力に比べたら、私個人の発言力など微々たるものです。どれだけ恫喝されようと、ちゃんと市長の間違いを正面から指摘する存在が、名古屋市にいてほしいと願います。
もしこれをもとに河村市長や名古屋市に対して何らかのアクションを起こそうとお考えだったり、まとめの作成をお考えの方がいらっしゃいましたら、お声掛けいただけましたら幸いです。これまで情報公開請求した資料をお渡しすることができます。
またこういう事実ではないことを誰一人自分の目で確認することなく、集団で感情的になり突っ走っていった結果、一県の知事のリコール運動が起こり、不正まで起こりました。発端が事実でない運動は、さらに嘘を呼びます。
どうか一人でも多くの人にこの事実が伝わりますように。事実が嘘を駆逐しますように。嘘をつく人が権力を持つ世の中ではなくなりますように。