あいトリ 文化庁補助金問題
あいちトリエンナーレ2019は、文化庁の補助事業として採択され、補助金の7800万円が交付予定でした。
2019年9月に突如、全額不交付扱いとなり、その後、2020年3月に、不交付が撤回され一部減額にて交付が決定しています。
ここではその流れと、不交付になった理由を見ていきます。
2019年5月30日 補助金交付申請提出
2019年7月
2019年8月2日 菅官房長官と柴山文科相の発言
あいちトリエンナーレの開幕2日目のこの日、菅官房長官(当時)は、会見で、文化庁の補助金について、トリエンナーレに否定的な発言をしています。
「『あいちトリエンナーレ』は文化庁の補助事業として採択されている。審査の時点では、具体的な展示内容の記載はなかったことから、補助金の交付決定では事実関係を確認、精査したうえで適切に対応していきたい」
また、同日に、柴山文科相が、会見で同じく否定的な発言をしています。
「事業の趣旨に合致しているかという観点で審査を行ったが、具体的な展示内容についての記載はなかった」
「実施計画書の企画内容や本事業の目的と照らし合わせて確認すべき点が見受けられるので、補助金の交付にあたっては、そういった事実関係を確認したうえで、適切に対応していきたい」
「具体的な展示内容についての記載がなかった」とは
菅官房長官も柴山文科相も、「具体的な展示内容についての記載がなかった」と言っています。これは、申請内容がずさんである、という意味ではありません。
あいちトリエンナーレ2019が利用した「2019年度文化資源活用事業費補助金 日本博を契機とする文化資源コンテンツ創成事業 文化資源活用推進事業」の募集案内によると、審査の視点が明確に書かれています。
これを見ても分かるように、また、大臣自身が「事業の趣旨に合致しているかという観点で審査を行った」と言っているように、もともと展示内容を審査するものではありませんでした。
文化庁が補助金を拠出するのは地方公共団体に対してであることや、芸術祭レベルの規模の大きなものの募集になっているためか、主眼が、事業計画や資金計画に置かれています。
補助金交付の流れは、①文化庁補助事業としての採択の申請→②採択決定→③補助金交付申請(内容は採択時とほぼ同じ)→④事業実施→⑤実績報告書の提出→⑥実績報告書を審査し、補助金交付 です。
あいちトリエンナーレ2019の場合、開催前に③の手続きまで終わっていました。
また、先ほどの募集案内の後ろの方に、申請書様式も載っています。これをみても、具体的な展示内容を書く欄はありません。(申請書と言うか実施計画書です)。文化庁にも電話で具体的な展示内容の記載が必要なのか確認しましたが、「申請時に展示が決まっていれば書くこともある」とのことでした。審査項目にもないので、当たり前と言えば当たり前ですね。
実際、補助金の採択申請・決定時には、作品は全部は決まっていませんでしたので、書きようがありませんね。
また、あいちトリエンナーレ2019と同時期に採択された補助事業は、これだけあります。https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/kobo/pdf/r1413006_04.pdf
これら全部に展示(出展)される作品を文化庁が審査したら、大変な労力です。展示リストを見ただけで分かるような専門家が文化庁側に必要になりますし、莫大な時間とリソースが必要になります。
では、なぜこの方法で申請が通るのかというと、「文化芸術基本法」にその根拠があります。
第二条 文化芸術に関する施策の推進に当たっては,文化芸術活動を行う者の自主性が十分に尊重されなければならない。
法に基づき、行政が、展示の自主性を重んじることになっているのです。
なお、菅官房長官の発言に、日本ペンクラブなどが、抗議の声明を出しています。
文化庁補助金不交付決定
文化庁は、2019年9月26日、前触れもなくいきなり、あいちトリエンナーレ2019に対して、補助金不交付を決定しました。
その理由が以下のように述べられています。
【理由】
補助金申請者である愛知県は,展覧会の開催に当たり,来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず,それらの事実を申告することなく採択の決定通知を受領した上,補助金交付申請書を提出し,その後の審査段階においても,文化庁から問合せを受けるまでそれらの事実を申告しませんでした。
これにより,審査の視点において重要な点である,[1]実現可能な内容になっているか,[2]事業の継続が見込まれるか,の2点において,文化庁として適正な審査を行うことができませんでした。
かかる行為は,補助事業の申請手続において,不適当な行為であったと評価しました。(あいちトリエンナーレに対する補助金の取扱いについて)
審査ができなかった理由として挙げられている
[1]実現可能な内容になっているか
[2]事業の継続が見込まれるか
については、「審査の視点」の上から2つ目、6つ目に該当します。
この内容について県の担当者に伺ったところ、これは、一部の展示が中止になったことは、補助対象事業の一部が欠けたということであり、その部分について事業の補助金が出せないとの判断だったようです。
文化庁は、把握している事実関係として下記を挙げています。
【参考:事実関係】
(◆ 文化庁による愛知県に対する事実確認により判明した事実)
○3月 8日 愛知県から,文化資源活用推進事業に対する応募書類受理
◆4月中旬以降 あいちトリエンナーレ実行委員会事務局が,企画展の具体的展示内容を把握
会場の安全や円滑な運営についての重大な懸念から,芸術祭を円滑に運営す
るための展示方法等について調整を実施
○4月25日付 有識者による審査会を経て,文化庁より採択通知発出
○5月30日 愛知県から補助金交付申請書を受理
◆6月中旬 あいちトリエンナーレ実行委員会事務局が,大村愛知県知事に展示内容及び
展示方法について報告
○8月1日 あいちトリエンナーレ,開会 (企画展は4日以降中止)
◆8月4日以降 「表現の不自由展 その後」,中止
また、文化庁は、事業の一部が展示不可(事業中止)になったことを、事業全体と一体不可分として、補助金全額不交付としています。
また,「文化資源活用推進事業」では,申請された事業は事業全体として審査するものであり,さらに,当該事業については,申請金額も同事業全体として不可分一体な申請がなされています。これらを総合的に判断し,補助金適正化法第6条等により補助金は全額不交付とします。
虚偽申請ではないのか
文化庁の補助金の不交付の理由を、愛知県による虚偽申請(作品を偽って申請した)が原因だったとする意見があるようですが、上記で述べた通り、作品を申請する仕組みはありませんので、虚偽申請は行いようがありません。
展示中止と言う、補助金交付の対象事業が途中で止まってしまったことについて、その展示中止に関係しそうな情報の提供がなかったことを、文化庁は問題視しているということになります。
また、虚偽申請が本当だとするなら、補助金に対する詐欺事件になります。公務員は犯罪があると思われるときには告発しなければならないという告発義務がありますが、それが1年経つ今もなされていない時点で、虚偽申請はなかったと見るのが普通でしょう。
文化庁補助金不交付の決定プロセス
文化庁は、外部有識者による審査委員会を経て、あいちトリエンナーレ2019を補助事業に採択していましたが、不交付は事務方による内部審査だけで決まりました。これに反発し、審査委員を務めた大学特命教授が辞任しています。
この方によれば、審査委員会に諮っていないこと、事務方の議事録が残っていないこと、不交付の根拠が薄いこと、が、問題として挙げられています。
補助金不交付決定を受け、県の対応は
愛知県は当初、文化庁に対して訴訟の構えを見せていましたが、令和元年10月24日 愛知県は文化庁の決定を「問題とされている企画展は106ある企画の1つで、予算も全体の0.3%にすぎないにもかかわらず、全額不交付になったのは裁量権を逸脱している」「今回の決定は処分の理由に具体的な事実が特定されていないうえ、ずさんな調査や審査であり違法で不当だ」として、文化庁に対し不服申し立てを行いました。(NHK政治マガジン 2019年10月23日)
文化庁補助金不交付決定に対する抗議の声
補助金不交付を受けて、文化庁に対し様々な方面から批判の声が上がりました。文化庁の対応がいわゆる「検閲」に相当するものとしての批判の声が多く上がりました。
様々な方面の論者さんも文化庁の対応を批判しています。
愛知県は補助金交付に対する意見書を提出
2020年3月19日、愛知県は、文化庁に対して、補助金交付に対する意見書と、補助金金額の変更申請を提出、同時に不服申し出を取下げました。
補助金の一部減額での交付決定
2020年3月23日、文化庁は最終的に、補助金の一部を減額して、補助金交付決定をしました。
【理由】
補助金申請者である愛知県から,令和元年10月24日に文化庁に対し,令和元年9月26日の不交付決定に対する不服申出があり,その後,文化庁は,愛知県に不服申出の理由に関する照会を行ってきましたが,その結果,詳細な事実経過が明らかとなりました(別添「参考:事実関係」参照)。
このような事実経過を踏まえ,令和2年3月19日付けで,愛知県から意見書が提出されました。同意見書において,愛知県から,文化庁に対し,不交付理由に関して,補助金の申請を行った令和元年5月30日よりも前の段階から,来場者を含め展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような事態への懸念が想定されたにもかかわらず,これを申告しなかったことは遺憾であり,今後は,これまで以上に,連絡を密にする,との見解が示された上,平成31年4月25日付けの交付申請書の申請額から展示会場の安全や事業の円滑な運営にかかる懸念に関連する経費等を減額する旨の申出がなされました。
文化庁は,愛知県が前記のとおり遺憾の意を示した上で今後の改善を表明したこと,展示会場の安全や事業の円滑な運営にかかる懸念に関連する経費等の減額を内容とする変更申請がなされたこと等を踏まえて判断し,当該事業については,愛知県から変更申請のあった金額(6,661万9千円)について,交付決定を行うこととしました。
(あいちトリエンナーレに対する補助金の取扱いについて)
9月の不交付時に文化庁から指摘を受けた内容を愛知県が遺憾だと認め改善案を提示したことと、経費の減額を申し出たことで、減額交付となりました。
補助金交付を受けた反応
いわゆる「検閲」になることが避けられた格好になりましたが、補助金交付が必ずしもハッピーエンドではないとする記事もありました。
補助金交付まとめ
文化庁からの補助金の交付は、手続き論に終始し、作品の内容に踏み込んだ形にはなりませんでした。
またその手続き内でも、虚偽の申請があったのではないか、補助金詐欺があったのではないかと言われることもあるようですが、最終的に減額であっても交付されたことを考えると、その指摘は当たらないと考えます。文化庁が犯罪行為を見逃したことになるからです。
また、不交付や減額の理由に、作品内容に対する指摘がないこと、ましてや作品が違法であるなどの指摘はないことから、作品自体が問題視されているものではなく、違法なものではないと言ってよいと思います。