見出し画像

スポーツ選手のインタビューから

 このコロナ蔓延の時期だからか、テレビのニュースやワイトジョーの現状をほぼ伝えようとする「報道」をわざわざ避けるようにして、つい「北京オリンピック」の競技を見てしまう。 毎日のように駅でスレ違うディズニーランドに向かう若い人々の印象とも重なるが、オリンピック競技を見るのもちょっとした現実逃避のようで心苦しくもある。

 あの世界的に有名なスケート選手が不運にもメダルを逃した。競技や演技について何もわからないものの、事後のインタビューで涙をにじませ答えている姿を画面で偶然見た。確か「努力しても報いられないんだな、、、、 (とわかった )」というように答えていた。この「報いられない」というのはもちろん「メダル」を指していることは誰にでもわかる。彼はよく努力していることも想像できる。しかし、スポーツ選手は皆そうだ。決してオリンピック選手だけでが特別な努力をしているというものでもないだろう。ただ、彼には「優勝」や「メダル」が一つの重責のようにのしかかっていたという事実もあれば、彼なりの自信やプライドもあっただろう。その点を考慮すれば「努力しても、、、、」と思わず?つぶやいてしまったことは仕方ない。茫然自失とは違うが、まだ若い彼が試合に負けてしっかり話せるわけもない。インタビューに答えることは酷だが、ケジメはとりあえずつけなくてはいけないという、こちらの方が重責とも思えた。涙は次に繋げて欲しい。

 さて、この「努力は報いられない」という言葉を私たちの「写真」の世界に置き換えるとどうか、先ほどから考え続けている。まだ答えは出てこない。

 よく知らない方々もいるだろうが、「写真」にも「メダル」のようなものがある。「賞」だ。ここで詳しく細かくその辺りの経緯や状況などについて書き記すのは面倒なのでやめておくが、若いスポーツ選手が究極として目指す出来事がオリンピックのような試合の舞台だとすると、若い写真家の皆さんは何を目指しているかといういうことになる。もちろん、スポーツと写真表現は大きく違うものだが、みんながみんなメダルを獲ることをその目的に置いているというものでもない。ただし、良い意味で競い合う場も生まれるし、一つの「成果」を目標とすることもある。写真展や写真集制作は多くの写真家が普通に行き着く先として考えている。ある時代から始まった「公募展」もまた目標としている若い人々に支えられ続けてきた。写真の賞はその先にあるといっていい。当然誰もがその先を目指しているわけでもない。それは単なる結果であると自然に考えている写真家も多いだろう。結論から先にいえばそれでよい。

 一方で写真集を出版した出版社もデザイナーも写真家とワンチームのようにして「賞」を目指すという構図が近年できてきた。もちろんそれも否定はしない。そしてそこに「努力」もあるはず。そのあたりは、なんとなく年末の「レコード大賞」のような趣が感じられ、11月、12月に射程を合わせて写真集も数多く出版される。写真賞の推薦がこの時期あるからだ。いろいろみなさんご苦労さん !と声をかけてあげたくなる。そういう共同作業としての「作品」が社会的にも表現としても自律している時代だから悪いこともない。そして、作品の中には、やはり撮り手である写真家の努力の賜物である写真の集積が心を動かすものも多い。それが基本ともいえる。

 一人で、あるいはワンチームで写真の努力。実は、それがここにきて、ちょっと形が変わってきたかもしれないという予兆を感じている。ここではさらに詳しく書けないが、この時代の努力、写真表現の努力そのものが、かつてのそれとびっくりするぐらいの隔たりを生んでいるということ。そして、この新しい努力が自然に報いられてしまうという驚き。これまで、スケート選手のように転んでは起き、起きては転び、何度も練習を積んできた努力よりも、全く違う日々の集積が功を奏する、報いられてしまう未来がやってきたのだ。驚きと同時にこれは(個人的な好みを離れて)ちょっと面白い。

  インタビューに律儀に、しかし悔しさをにじませて「努力」を語り、それが報いられなかった選手。実は彼とはまたた違う、スーパーな選手たちがもう次の世代として誕生しているかもしれない。「結果でしかない」と誰もがいうのはわかっているが、その結果を導き出す経緯にこの時代の新たな感性が介入してくるのではないか。門外漢のスポーツはともかく「写真」の世界ではもうそれが起こっている。

「努力すれば報いられる」というわけでもない。しかし私たちは断片として漠然とした努力を忘れないだろう。

 


古くから様々な読者に支持されてきた「アサヒカメラ」も2020年休刊となり、カメラ(機材)はともかくとして、写真にまつわる話を書ける媒体が少なくなっています。写真は面白いですし、いいものです。撮る側として、あるいは見る側にもまわり、写真を考えていきたいと思っています。