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祖母と作ったクリスマスツリー

クリスマスの思い出は、どんな人にだってある。

その思い出は、子どもの頃サンタさんにもらったプレゼント、恋人と見た夜景、家族とクリスマスケーキを食べたことなど、いろいろあるはずだ。

私はクリスマスになると、亡くなった祖母を思い出す。
工作が好きだった祖母の家には、作りかけのクリスマスツリーキットがあった。

私がニートをしていた頃、そのクリスマスツリーキットを完成させるお手伝いをしたことがあった。

毎年、当時祖母と作ったクリスマスツリーを部屋に飾る。



この記事を書く理由は、noteのお題【#エンジンがかかった瞬間】に投稿するからである。

お題に沿ったクリスマスの思い出があるので、文章を書きたくなった。

今の仕事に就いたきっかけを誰かに伝えるために、これから、自分語りを始める。


最後まで読んでもらえるように、がんばる。





私は、表現するのが苦手な子どもだった。
大人の前で大声で笑うことに躊躇し、子どもたちの集団の中ではとにかく目立たないように振る舞う、とにかく内気な子どもだった。
私は、祖母が好きだった。

小学校の頃、大型連休は必ず祖母の家へ行った。
遠方から年の近いいとこたちが祖母の家に集まり、祖母指導のもと工作をしたり、近くの公園で花火をしたり、宝塚ファミリーランド(遊園地)に行った。
窮屈な学校生活も、大型連休に祖母の家に行く楽しみがあるから耐えることができた。


みんなで工作をすると祖母が「みっちゃんは手先が器用やね〜」と言ってくれるのが嬉しかった。
祖母は、家に友人を呼び、お茶や絵を教えたり、祖母自身も油絵や万華鏡制作を習っていた。
祖母と私は、よく絵の話をした。




私は短大を卒業後、20代の大半は就職浪人の延長で、フリーターをしていた。
20代後半に差し掛かった頃、突拍子もなくマンガを描き始めた。
職場の同僚に、マンガ新人賞に応募しよう賞金と誘われたのがきっかけだった。
一攫千金を狙い、同僚がシナリオ、私が作画を担当することになったが、3ヶ月で自然消滅。
同僚は就職し、私はそのままマンガを描き続けた。

マンガを描くのは楽しかったが、一話を描き切ることができず、新人賞にも作品を応募せず、出版社へ持ち込みにも行かなかった。
マンガ家のなり方がわからなかったので、どうやったらマンガ家になれるかネット検索する日々が続いた。
そこには「マンガ家になれる人は一握り」だの「二十歳をすぎるとマンガ家にはなれない」などが書かれていた。

マンガ家を目指していることは誰にも言わなかった。

「漫画家になれたら」人に公表しようと、ぼやけたゴールを心に秘めながら、時間が流れた。


祖母とクリスマスツリーを作っている時、「実はマンガ家になりたくて…」と何度も言おうとしたが、やはり勇気が出なかった。
マンガ家になりたい想いだけは強く、行動が伴っていないことを自分でわかっていた。



祖母が亡くなったのは、クリスマスツリーを作った1年後のことだった。
祖母は風邪もほとんど引かない病気知らずだったので、当然長生きすると思っていた。

祖母は、いつまでも定職に就かない私を気にかけていた。
アルバイトを転々とする私を見てもなにも言わず、むしろ客としてバイト先の店に来てくれたりした。

祖母はありのままの私を受け入れてくれていたが、私は自分自身を受け入れられずにいた。

死に向かう祖母を前に、私は思った。
自分に嘘をつき続けた状態で、今まで祖母とちゃんと向き合って話ができたのだろうか。
やりたい事を見つけたのに、その世界に足を踏み入れる勇気が出ない。
世間から浮いている息苦しい感覚はいつまで続くのかと悶々とし、何をするにも自信が持てない。
カビの生えたような日々を送る私を見て、祖母はどう思っていたんだろう。

せめて「やりたいことを見つけた」とだけ伝えたかったが、祖母の病気は私の話が聞ける状態ではないほど進行していた。

祖母の葬儀が終わった翌日のこと。
私は東京の漫画出版社に2社電話をかけ、作品を持ち込む予定を取り合った。
電話を切ったあと、読み切りマンガを1ヶ月で一本描きあげ、東京へ持ち込みに行った。
2社のうち1社だけ、担当編集がついた。

出版社に電話をかけた時、なぜそうしたかよく覚えていない。
しかし、今電話しなければマンガ家になることは一生できないと思った。



今、私はマンガ家をしている。
祖母が生きている時に、マンガ家になっていたら、どんな関係を祖母と築けただろうか。
人生に迷走していた頃よりも、深い話ができたのだろうか。

毎年、クリスマスの時期になると、祖母と作ったクリスマスツリーを部屋に飾り、眺める。

ツリーに飾っている小物一つ一つに、祖母との会話を思い出す。
その時もやはり祖母は、「みっちゃんは手先が器用やねぇ〜」と言ってくれた。

来月は、祖母の七回忌になる。

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