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とにかくやりたいことがたくさんある【現代美術家・八木智弘】

2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。

今回は、10月7日(金)〜10月10日(祝・月)に在廊する現代美術家、八木智弘(やぎ ともひろ)さんをご紹介します!

プロフィール

1984年兵庫県生まれ。愛媛県在住。AU所属。

宝塚造形美術大学美術学科洋画科卒業。在学中に元具体美術協会のメンバー、嶋本昭三に師事。「人の真似をするな」という訓えのもと活動を共にし、糸に出会う。織るでもなく、縫うでもなく、独自のアートを展開する。

超独自性。整いつつ綺麗でありながら混沌としていて、見た人の心を動かす、もの作り。そして何より自分自身が楽しみ、良いと思うまで作り続ける事を意識して制作中。

※AU…兵庫県を中心に活動しているアーティスト団体。正式名称はArt Unidentified。前身はアーティスト・ユニオン(Artist Union)という名前で、1960年代に活躍したジャンルを超えたアーティスト達が結集して1975年に結成された。

※嶋本昭三…具体美術協会の設立メンバーで、世界4大アーティストに選ばれた芸術家。具体の精神「人の真似をするな。今までにないものを作れ。」嶋本の「人を驚かせること。」をモットーに、2013年に没するまで、歩みを止めることなく制作を続けた。大砲を使って炸裂させて作る大砲絵画作品、瓶詰めした絵具をキャンバスに投げつける絵画作品、ヘリコプターから落下させたりクレーンに吊り上げられ落下し炸裂させて作るビン投げ絵画作品、世界最小芸術1億分の66.7mのナノアート作品、絵具を水面の弧を描くように何重にも落として描く渦巻き絵画作品、作品を破く穴の作品など、創造的なアートを世界にアピールし続けた。

普段の生活の中にアートはたくさんある

ーこれまでの経歴について教えてください。アートの道に進むきっかけはありましたか?

実は、進路としてはなんとなく、という理由で芸大を目指しました(笑)それまでは油絵を描いたことがなかったのですが、祖父が画家だったので、絵を教えてもらってましたね。祖父は油絵を描く人だったので、影響を受けて、洋画コースを選択しました。

大学入学時は完全ど素人の状態だったので、とりあえず自分のできるようにやってみようと。最初の課題である自画像は、画材を買えなかったので、周りにある素材でコラージュで作りました。具象ではなく抽象をやりたい、と主張して(笑)

嶋本先生とは大学の授業で出会いました。授業では、「大学に行かなくてもいいからアトリエに来い」とおっしゃっていたので、4年間学校にあまり通わず、アトリエに通っていましたね(笑)常に誰かがいましたし、変な人がいて面白かったんです。いろんな人とワイワイ話して帰る日常でした。そのおかげでだんだんアートが面白いと思うようになり、制作意欲が湧いてきたんです。

嶋本先生のところにいると、様々な依頼があります。商店街の企画や、展示会への出展依頼、その他様々なものづくり…色々な人と関わり合って、とにかくやりたいことをやってきました。大学の授業には出ていなかったので、自分が参加した様々な企画のレポートを書いて、単位をギリギリ取得。結局油絵は1枚しか描かずに卒業しましたね(笑)

就活はしていなかったのですが、大学卒業後は運良く絵画教室の求人があり、絵の先生として働いていました。さらに、嶋本先生の紹介で「さをり織り」の機織りの先生としても働き始め、障害者施設や高齢者に対し、素材や色の組み合わせを使って感性をどう表現するか教えていました。自分流でOKなのが「さをり織り」の良いところですね。

嶋本先生の知り合いで、美容学校の理事長がいらっしゃったので、美容学校の講師を頼まれたこともあります。文化論の授業だったのですが、むしろ面白い生き方や考え方について教えてほしいと言われ、好き勝手にやらせてもらいました。教室外で授業をしたり、商店街で生徒のアイデアをもとに人をつかった実験をしてみたり…みんなで面白いことを色々やってみると、すごく盛り上がるんですよね。「行動自体がアート」というのは具体美術の概念でもあります。「こんなことやってなくない?」というアイデアからワクワクすることを心底楽しんでやっています。普段の生活の中にアートはたくさんあるんですよね。

ー固定概念にとらわれない八木さんの生活、ファンキーでとても楽しそうです!

とにかくやりたいことがたくさんあるんです!正直、仕事に回す時間がない(笑)やりたいことがありすぎてほとんどの学校も休みがちな人生でした。

小学校くらいの時には、空飛ぶラジコンを作りました。高校の時は光の速度を計測していました。ものづくり系は自分で考えてなんでも工作します。バイクも好きで、17~18歳くらいの時から毎年1台は作っていますね。

ギャラリーも10年くらい運営をしていました。ものづくり担当として内装工事をしていて、内装自体が自分の作品でした。なにせDIYが好きなんです。現在、愛媛県の古民家をDIYしているのですが、とにかく楽しいですね!

接着剤を使わない糸の作風

ー八木さんといえば、糸を使った作品が印象的です。何かきっかけや理由はあるんですか?

年に2回くらい、大学の展覧会に出展しないと単位がもらえなかったのですが、ありあわせでなんとか作品を出さないといけない、という時にギリギリ出したのが糸の作品でした。

母親が手芸が好きで、刺繍をやっていたので家にたくさん糸があったんですよね。「この糸を集めて、何かせな!縫うのは無理やし…」となって、部屋にあった二重のガラス板の間に糸を入れて挟み、作品として提出しました。それがまさかの一等だったんですよ!(笑)

動機は不純でしたが、やってて楽しいんです。評価の際には30分くらい作品について話さないといけないのですが、それも得意だったので、ほぼトップの成績でしたね(笑)絵描いてないのに(笑)

そこからは糸を使うことが多くなりましたが、個人的には難しいコンセプトがあるわけでもないですし、タイトルも毎回「糸」しかつけていません。とりあえず、縫うでもなく、織るでもなく、接着剤無しでやることだけルールで決めて制作をすることで、工芸や手芸ではなく、美術作品になっているのだと思います。

それと、「糸を使った作家」として見られることが多いですが、実はそうではないんです。色々使ってみたいのですが、糸の作品の方が評価が高かったので、糸の作品が多くなっている感じですね。本来はいろいろな素材を使いたいんですよ!「糸+何か」という感じで作品を作ることも多いです。

今回制作した樽の作品について

ー三豊鶴の樽を使った作品について教えてください。

普段、制作中に糸が絡まることが多いんです。解くのが面倒なのでそのままにしておいたら、「この模様ええな!」と思ったんですよね。絡まった状態の形をこのまま留めたいと思い、初めてエポキシ樹脂で固めてみたのが17年前くらいでした。今回もエポキシ樹脂で赤い糸を固めています。

実はこの作風、「エポキシ樹脂を使ってみたい!」という気持ちから始まったんですよ、糸ではなくて(笑)。でも何せエポキシ樹脂の値段が高いので、糸を樹脂の中に浸して固めることで量を少なくする工夫をしています。ここ5年くらいは値段が安くなってきたので、封入するタイプの作品もちょいちょい作っています。

今回展示する作品のコンセプト

ー三豊鶴で展示販売する作品についても教えてください。

今回は7点展示するのですが、そのうちの4点は、アクリル板2枚の中に糸を詰め込んだ作品になります。接着剤を使っていないことを見せるために、後ろ側も透明のアクリル板にしています。

実は作業の感覚は機織りに似ていて、アクリル板に小さな1mmほどの隙間を作って、そこに糸を入れ込んでいるんです。よくみると、一本も糸が重なってないんですよ!挟まっているだけでくっついてもいないんです。

想像してみるとわかると思うのですが、アクリル板の上で糸を重ねずに丸く並べるのは糸が動いてしまって不可能なんです。ですから、糸が一本しか入らない隙間をあらかじめ作った状態で、横から糸を一本ずつ入れて、棒で円の形を作っています。無茶苦茶時間がかかりますし、油断するとバラバラになってしまうので難しいんですよ。

ご来場いただく方へのメッセージ

個人的には、「とにかく酒蔵がいい!グッときている!」という感じなので、酒蔵を見てほしいです。アートがメインじゃなくても、「酒蔵ええやん!」となってもらえれば。あれだけ歴史を感じられて、いい状態で残っていて、これからアートの拠点として発信していく場所なので、「こういう形で場所の活用ができるんだな」と思ってくれる人が世の中に増えたらいいなと思いますね。

田舎には眠っている古民家がたくさんありますが、誰かが気づかないと放置されて潰れてしまいます。ちょっとしたきっかけで見直して、古いものを残していこうという人が増えたらいいなと思います。

三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは

皆様のお越しをお待ちしております!