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お客様に最高の瞬間を届けたい。【食の仕立て屋・ラムセス】

2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。

今回は、8月26日(金)〜28日(日)、9月30日(金)〜10月2日(日)、11月3日(木)〜6日(日)を担当するシェフ、RAMSES(ラムセス)さんをご紹介します!

プロフィール

1987年 菩薩のようなスリランカ人の母とザ・昭和の男である日本人の父との間に長野県上田市にて生まれる。 野山を駆け回る中で、自然と美しい景色と人の営みが織りなす美味しい時間が食卓の原風景となる。 海の家でのアルバイトを皮切りに、カフェ、バーなども転々とし2010年小豆島の島宿真里にて本格的におもてなし修行をスタート。その後、高松市内のアイリッシュパブでの店長経験を経て、2016年に店舗を持たないフリーランスの飲食・サーヴィスマンとして独立。

 「お客様の要望に“YES”と答え続けること」をモットーに、現在は香川県を中心にバーやレストラン、ウェディングを主な舞台としている。 店に立つことに飽き足らず、コンセプチュアルなオーダーのもと、お客様のわがままを叶える『食の仕立て屋』としても活動する。 花屋のレセプションパーティ、海外VIPへのオーダーメイドディナー、グランピングのメニュー開発や店舗立ち上げなど、多岐に渡る。

 2019年の瀬戸内国際芸術祭では、ピナリー・サンピタックの作品内で、コミニュケーションアートの一部として、タイの文化や食材を融合させたタイ風本島カレーなどもプロデュース。 たかまつ国際古楽祭2021では、音食紀行とのプロモーションムービーで料理担当としても参加。

酒蔵であること、三豊の歴史を紐解き、美しい風景を内装に見立て、土地の育む文化と素材を料理しテーブルを囲み、心地よい時間を届ける“Landscape Restaurant"として表現したいと考えています。

皿の上だけでない時間をオーダーメイドで提供する

ー普段はどんな活動をされているのですか?

現在、バーやレストラン、ウェディングの現場と並行し『食の仕立て屋』として、「おいしく、たのしい時間」をお客様に合わせてオーダーメイドで提案しています。「コミュニケーション料理」などいうお客様もいます。僕の場合はシェフというよりもサーヴィスマンとしての解釈で料理を再構築し、目の前のお客様に悦んでいただける料理を普段から心がけています。「コミュニケーションを通し、お客様のわがままを叶える」というのが基本的なスタンスです。

もっと踏み込むと、「コミュニケーティブ・イノベーション」かもしれないですね。「イノベーティブ・フュージョン」というジャンルがあるのですが、さらにこれをサーヴィスマン目線で提供する、というイメージです。わかりやすく言えば、お客様によって変化する独自性と即興性の高い「創作料理」ですね(笑)

*イノベーティブ・フュージョンとは
イノベーティブとは「革新的」の意味。 料理の国籍やジャンルのどこにも属さず、自由な発想で生み出した料理や、その調理法を指します。 そしてフュージョンは「融合」。 和・洋・中などの料理の要素を独自に融合させ、創造性豊かな調理法で作られる料理などを示します。

食バンク より

相手の喜びが自分の喜びになる

ー日本では珍しい「サーヴィス」と「料理人」の両立をされているラムセスさん。長野県出身だそうですね。

長野県に生まれて、幼少期から自然の中で駆け回って育ちました。畑にいるおばあちゃんに「ただいま!」と言って帰宅し、トマトをちぎってそのまま食べたり、夏は川に行って手づかみで鮎を取ったり、とにかく「自然・食材・自分の距離が近い」環境で育ったんですよね。

母親はスリランカから日本へ来て、日本料理を必死に覚えていたので、元々家で食べる料理にフュージョン的要素がありました。もちろん家庭料理も作ってくれたんですが、日本にある限られた食材でスリランカ料理作っていたので、一般的な家庭とはちょっと違ったバックグラウンドがあるかもしれないですね。元々ボーダレスなんだと思います。

ー幼少期の経験が今に繋がっているんですね。シェフになるのではなく、サーヴィスにこだわったのはなぜでしょうか?

基本的に、「他者との関係において、相手の喜びが自分の喜びになる」んです。この考え方が一番大きいと思います。自分発信の表現というよりも、相手がどんな状況でどうなっているのかということを自分の目で見て分析し、さらにお客様に合わせて再提案する、良い意味で「期待を裏切って喜ばせること」の方が楽しいと感じます。

この視点は普通の料理とは違うのかもしれませんね。この考え方がサーヴィスマンとして根底にある部分だと思います。昔からサプライズもわりと好きでした(笑)

茶道にも通ずる、サーヴィスと料理の両立のあり方

ー日本では、海外に比べると「サーヴィス」という職業自体が確立されていないと感じます。そんな中、日本で活動されている理由はありますか?

これはたまたまですね〜香川に来たのも半分はノリと勢いです(笑)

やはり海外に出るのであれば、自分のルーツである日本のことを事前によく知っておかなければならないと思ったんです。2010年当時、新卒でホテルに就職したいと思っていたのですが、日本についてよく学ぶため、就職先を旅館に切り替えました。日本のおもてなしを学んだ上で海外に出るのは面白いだろう、と思って。気づけば早10年経ちました。

現在お茶の稽古もやっているのですが、とても面白いですね。始めて1年経ちますが、ようやく楽しくなってきて、日本のおもてなしの片鱗がようやく見えてきました。

現代の日本の生活様式は洋風に寄っていると思うんです。しかし、結婚式でご親戚が着物を着ることもあるように、ハレの場ではきちんと日本的なものも尊重されているので、「今の時代に即したおもてなし」が必要なんだろうな、と感じています。

常に変化することが前提の中で日々模索しているので、まるでサーフィンのようだなと。僕がお客様と向き合った時には、同じお客様だったとしても以前と同じ状態の人はいないですし、時代とともに人も入れ替わります。その中で最適解としてどんなことができるか、ということをずっとやっています。ある意味"沼"ですね(笑)

直近では、古代エジプトをテーマにした「なまえのない世界展」というイベントで、フードパフォーマンスをする機会がありました。全3回の中で、ゲストに合わせプレゼンテーションを変えました。もちろん、基本構成は同じなんですが、年齢や時間帯、全体の雰囲気によって結果的に一期一会の世界がそこにありましたね。

ー瞬発力や、臨機応変な対応力が必要になりそうです!

そうですね。瞬発力や対応力は10年以上続けていた剣道で培われたかもしれないですね。
実はこの提供スタイル、お茶の世界も近いところがあって、「即今(そっこん)」という、「今ここ、この瞬間が大事である」という考え方があるのですが、「その瞬間のお客様それぞれに対してその場で対応する」自分のやり方に通じているんです。

また、お茶は、実は「一客一亭」と言って、必ずお出迎えから料理からおもてなしまで一人でやることが最も基本的な考えです。「サーヴィスをする人間が料理もすることは、実は不自然ではない」ということを古くから実践してきた歴史がある世界なんです。

2021年の夏、初めてお茶会をやる機会があり、このことを深く理解しました。分業する前に、一旦全てを自分の中に落とし込むことの方が理にかなっていたのではないか、と感じましたね。

今回三豊鶴でのコンセプト

ー今回、三豊鶴では3週に渡って担当していただきますが、もしかして、これは全部違うメニュー・仕掛けになるんですかね?

自分でも怖いくらい、全く違う感じになると思います!今回はコラボするアーティストさんそれぞれに考えたコンセプトに即して料理や空間を表現する予定です。
僕の場合は料理を届ける、というよりも、「食べるという行為を通して空間や時間を届ける」ことにこだわっていますので。これが僕なりのサーヴィスの視点なんです。

あまりネタバレになるから言いたくはないんですが(笑)、ヒントで言うと、8月26日〜28日にはエコロジカル・アーティストの高田雄平さんとコラボして、廃材を使ったテーブルコーディネートなどを考え中です。また、ロスフラワーを使ってテーブル装飾にしようかなとか…

9月30日〜10月2日の松井コーヘーさんとのコラボでは、五感と飢えを裏テーマにアプローチします。最終週の11月3日〜6日は、スパイス遊び人の堕天使カッキーとのシェフコラボになるので、2人の人生がクロスオーバーします。まだまだ仕掛けを考えていますので、お楽しみに!

ご来場いただく皆様へのメッセージ

「美味しい」だけではない、特別な食体験を求めている方に来ていただきたいですね!3回ともそれぞれ異なる食体験・時間をご用意しているので、全ての回に来てほしいです。僕自身にも予測できない、誰にも想像できないような遊び心のある空間・時間です。

三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは

皆様のお越しをお待ちしております!