手作りの塩を使ったローカルスローフード【団欒料理人・kou】
2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」。
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。
今回は、10月7日(金)〜10月10日(祝・月)を担当するシェフ、kou(こう)さんをご紹介します!
プロフィール
「美味しい正しいきれいな食べ物」ローカルスローフード
ー料理のジャンルについて教えてください。
ローカルスローフード( local slow food)というジャンルになります。イタリアンやフレンチには分類できないので創作料理と名乗っていた時期もありましたが、現在はこちらですね。
「スローフード」という言葉は「美味しい正しいきれいな食べ物を選択する」という、イタリア発祥の世界的な草の根運動になります。「その地域の食材や風土があるからこそ、この食文化になる」という考え方をイタリアで体感し、感銘を受け、これを地元である香川県三豊市仁尾町にも根付かせていきたいと思いながら地域の素材について深堀をし、より特化した形を目指していく中で「ローカルスローフード」という言葉、考え方に行き着きました。
この地で生まれて地元を愛する身として、やはり「地元のものを使いたい」と強く意識しています。この地域では、「全国的に有名な伊吹島のいりこ」「500年以上前から作られている室本の麹」「約300年前からの続いている仁尾酢」「この地域の気候だからこそ育て始められたオリーブオイル」「みかんやレモン農家と連携している養蜂」など、素晴らしい食材があります。
これらの食材を合わせて使おうと思うと、和や洋などのジャンルにこだわらずにやっていく方が良いという結論に至り、地元の料理ではありますが「郷土料理」、というわけでもない新しいジャンルを作っているような感じです。
美食倶楽部との出会い・塩作り
ーこれまでの経歴について教えてください。
福岡県の飲食店で数年修行した後、2005年、地元三豊市仁尾町に「cafe de flots」をオープンしました。この仁尾町には、「ちょっとおしゃれなところで洋食を食べられる場所」がなかったので作りたい、と思ったのがきっかけです。この町に20年ぶりにお店ができる!ということで当時は賑わい(ザワつき?笑)ました。
その後、町おこしに関わる機会があり、活動の中で「人と人が繋がるということ」の素晴らしさを体感しました。その場に来た人同士がいつの間にか仲良くなっている、ということはとても意味・意義のあることだと感じたので、カフェでもやりたいと思ったんです。「人と人を繋ぎ団欒を作る」ということを意識して、出張料理をしてみたり、ケータリングをしてみたり、新しい活動を始めていきました。
そんな中、月に1回開催していた「団欒キッチン」というイベントが、とても評判が良かったんです。これは、地域のお母さんたちの家庭料理や郷土料理のレシピを聞いて、10種類くらいのおばんざいを用意し、初めて会う人同士がロングテーブルにランダムに座って、みんなで一緒に「いただきます」をして食べる、というものでした。レシピを学びたい人は早めの時間から集まって一緒に料理をして、終わった後は洗い物や片付けをみんなで一緒にやる中で交流を深めていきました。このイベント、リピート率がすごく高かったんです!月1回ではなく、「日常」にしていきたいなと思い、そこから2年ほど構想を練っていました。
その間に、海外で気になる場所ができました。1つ目は先述のイタリアの「スローフード協会」、2つ目はスペインの「美食の街、サンセバスチャン」で、実際に視察に行く機会を得ることができました。
イタリアでは、ミラノからバスで更に数時間走り、何もないただの草原のようなところにポツンと小さな工場が建っていて、そこで大きなパルミジャーノのチーズをたくさん作っていたんですよね。その場所の気候がチーズ作りに適しているとのことで、風土・気候・環境が合っているからこそ食文化が育まれる、ということを学びました。生ハムは元お城だったところが工房になっていて、小さな窓の開け閉めで生ハムを上手く乾燥させていて、すごいな!と思ったんですよね。日本で食べる生ハムとは全然違う美味しさで、その地域の風土があるからこそできることなんだなと感動しました。
サンセバスチャンでは、「美食」について色々な取り組みがあるのですが、その中の一つで「美食倶楽部」についてお話を伺いました。そこは女人禁制で、男性陣が休みの日に集まり、みんなで料理してみんなで一緒に食べ、共通のテーマについておしゃべりをする、というものです。現地の美食倶楽部を体験して、「みんなで作ってみんなで一緒に食べる、と言う行為」が、美味しさを作る上で大切な要素であることを再確認しました。
団欒キッチンの経験と、イタリア・スペインで学んだことを組み合わせ、2020年4月に「焚べる・食べる・しゃべるが繋がるホステル ku;bel(クーベル)」をオープンさせました。本来は色々な人が集い、交流する宿にしたかったのですが、コロナ禍ということもあり、グループや家族で宿泊してもらう一棟貸しとしてスタート。もうすぐ2年になりますが、とにかく口コミの評価が高く、リピート客も多い宿になりました。ご飯を食べて寝る、というだけではなく、お客さんとの関係を構築し、交流を大事にする宿なので、次元の違う満足度を提供できているのだと思います。
ー手作りの塩も作られているんですよね!
町おこしに関わっていた時に、地域の文化や歴史を学んでいる中で、この仁尾町がかつて塩業で栄えた町だったことを知りました。親世代まで当たり前だったことが自分たちの世代では知られていないことにも衝撃を受けましたね。普通に塩作りをしたのでは持続することが厳しくなるでしょうから、「料理人が作る塩」という視点を活かし、新しい価値を作ることができれば持続していくことが可能になるのではないかと考え、塩作りを始めたのが2015年ごろです。カフェの前の父母ヶ浜の海水を汲み上げて、薪の炎で炊いて手間暇かけて塩を作っています。
火加減を操ることにより結晶のサイズやミネラルのバランスを変化させたり、色を変えてみたり、さまざまなものを作っていたのですが、ある時「満月の日の海水を汲んでみたらどうなるんだろう?」と思い立って作ってみたところ、普段の塩と全然違う味ができたんです!また、新月の日でも作ってみたら、これまた全然違う味になりました。
現在では10種類以上の塩を作っていまして、同じ素材でも、例えば「シンプルに桃を味わうならこれ」「桃をソースにして食べるならこれ」「スイーツとして桃を食べるならこれ」という風に使い分けることができるようになりました。地域の食材だけではなく、環境を含めて丸ごと食を楽しむことができるのが自分の料理の魅力なのかな、と思っています。これがローカルスローフードなのではないかなと感じています。
アートとの出会い
ー2020年に行われた父母ヶ浜芸術祭vol.0と言うイベントでは、アーティストとして参加されたそうですね。
アーティストとして参加してほしい、とオファーされまして。そもそも「アートとは何ぞや?」「アーティストとはなんだ?」と思い、初めて勉強しました。それまでは「こういう人が、これくらいの予算で、このシチュエーションで食べたい」というオーダーに対し、その中で満足していただける料理を考え、提供し、美味しかったと言ってもらう料理を作っていたんですよね。
言うなれば「経営者としての料理人の視点」というものだったことに気付きました。
ではアーティストとしてはどうなのか、と考えたときに、「自分がなぜ料理をしているのか」という考え、哲学のようなものを表現しようと思いました。乱暴な言い方をすると、「美味しいか美味しくないかはあまり重要ではなく、見た人食べた人が何を体感し、何を感じるのか」という受動的ではなく、主体的に料理とその時間に向き合う形を作りたいと思ったんです。
これが「アーティストとしての料理人の視点」ですね。
また、「サイトスペシフィックアート」という言葉を知り、父母ヶ浜芸術祭でも「この場所にしかできない表現、この環境だからこそできる表現」を目指しました。波打ち際にロングテーブルを持ってきて、参加者には裸足で砂浜を歩いてもらって、風を感じ、砂を感じ、波の音や匂いを感じながら、味覚に着目したコース料理を食べてもらいました。このエリアだからできるアートになったんじゃないかと思います。
ーサイトスペシフィックとローカルスローフードは似たような考え方かもしれないですね!
そうですね!三豊鶴でも、この場所でしか食べられない食体験にしますので、お楽しみに!
三豊鶴で実施するコンセプト
ーでは、三豊鶴で提供する料理について詳しく教えてもらえますか?
ベースとして、僕にしかできないもの全面に出したいと思っていますので、一番のキーワードはやはり「塩」になります。月の満ち欠けと火加減を調整して作った10種類以上の味の塩と、地域の野菜やフルーツで色をつけたカラーソルト10種類以上を作っていますので、これらを織り交ぜながら、その時・その場所・その素材たちにとってより良い最適な物語を詰め込んだ料理を作ります。もちろん美味しい料理にまとめますよ!
また、アーティストさんとのコラボレーションも考えています。糸を使った作風の八木智弘さんからインスピレーションを受け、糸を料理の中に表現し、「紡ぐ」「繋がる」ということが連想できるようなものを作りたいです。また、盛り付けに使い終わった後の糸を使ってアート作品を作れないかな…とか妄想中です。もしアート作品の制作ができるのであれば、お客さんも作品制作者の一人となれるので、生産者と消費者の壁が壊れて、いい関係性が作れるかなと。
(*コロナウィルスの状況を踏まえながら調整していきます)
更に、コース料理の後に団欒の時間を作りたいと思っています。食べて終わり、となるのではなく、食べた後でその時に集まった人たちで話をする、というのが何よりものご馳走だと思っています。
「普段使っている塩が自分にとって正しい塩なのかどうか」を考えるきっかけにもしてほしいです。日常の中で、正しい綺麗なものを選ぼう、と思うきっかけを作れれば、今回のkouの存在意義があるかなと思います。
ご来場いただく皆様へのメッセージ
「食を楽しむと言うのはこういうことなのか?」と気付ける食事会になると思います。受け身で味わうのではなく、能動的、主体的に美味しさを味わう、ということを体感していただけると思います。
個人的には、普段忙しくて食べることを意識していない人や、食にあまり興味がない人にほど来てほしいですね。ただ美味しいのではなく、考えるきっかけの一つになると思います。何よりも大切なのは繋がることです。思いを持った生産者、料理人、アーティストと繋がることが三豊鶴での食卓の意味だと思いますので、閉塞感や孤独感のある人、今の世の中に鬱々としてる人に来てもらえると、「意外と世の中みんなは繋がっていて、知り合い、助け合うことで豊かになる」ということをリアルに感じられるかと思います。何かのきっかけづくりや、スイッチを変えたい人には面白いと思いますので、繋がりたい人、お待ちしております!
みんなで三豊鶴で醸されることを楽しみにしています!!!
三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは
皆様のお越しをお待ちしております!