世界の舞台から三豊へ【四代田辺竹雲斎】
2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」。
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。
今回は、8月19日(金)〜21日(日)に在廊する竹工芸家、四代田辺竹雲斎さんをご紹介します!
プロフィール
竹工芸の世界から現代アートの分野へ
ー代々続く、竹工芸の家庭に生まれ、四代目となる竹雲斎さん。幼少期から竹工芸を志していたのでしょうか?
そうですね。生まれた時から竹が周りにありましたし、父も母も祖父もみんな竹工芸家で、工房には父の弟子の職人さんたちが毎日いらっしゃって。本当に作り手と竹に囲まれて育ってきました。両親の教育も、竹工芸家に育てるためのものでしたので、自然と「将来は竹工芸の仕事をするんだ」と何も疑わずに幼少期を過ごしてきました。
高校時代は昼間に美術系の高校に行き、夜は美術の専門学校に通って、東京藝術大学に進学するための日々を送っていました。絵を描いたり、彫刻科を目指していたので彫刻も作っていました。その頃は何の疑いもなく、将来、家業を継ぐことを見据えながら、日本で一番の大学に入りたいと必死でやっていたんです。
その後大学に無事受かり、地元を出て東京に出た時に、色々な世界が見えてくる中で、「何を本当にしたいのか」「竹工芸というレールに乗ったままでいいのか」すごく悩んだ時期がありました。大学に行かなくなったり、留年したりもして、その間に様々な種類のアルバイトをしてみました。お絵かき教室を開いたり、海外で英語を使った仕事に就いてみたいと思ったり…自分自身がどうあるべきか、苦しんで悩んでいた、不安定な時期を3〜4年ほど過ごしました。
色々なことを試している中で、すごく面白い体験をしたり、達成感もあったのですが、やはり自分が一番やらないといけないことから逃げているような気がしたんです。「本当にやりたいことは別にあるのではないか」「自分はやはり竹をしないといけない人生なのかな」と、改めて、心から思えるようになりました。「竹をやらないと一生後悔するな」と考え、実家の工房に戻りました。
現在では、当時やりたかった海外での仕事を竹を通してできていたり、竹の教室をしたり、小学校に行って竹のワークショップをしたり、その当時やりたかったことを全て竹を通して叶えられています。結局は、竹の活動の中で自分のやりたいことが全部入っていたんですよね。
今思うと、レールに乗ってそのまま竹の仕事をするよりも、すごく苦しんで悩んだ時期があってよかったな、とすごく思います。
ー竹雲斎さんといえば、代々の技術・精神を受け継ぐ伝統的な作品の他に、インスタレーションや現代性の強い竹の立体作品が印象的です。現代性の強い作品群はいつ頃から制作されているのでしょうか?制作のきっかけや理由を教えてください。
2001年に海外の展覧会に参加する機会があり、海外市場の大きさや、海外のアートに対する強い思い、たくさんのコレクターがいることなどを実際に体験し、「海外に出たい」という気持ちが強くなりました。
「工芸」という分野は、世界の市場には存在しないんです。世界市場では、キリスト教からくる「絵画」、「彫刻」、そして「現代アート」の3つが主流になります。工芸は装飾美術になるので、下の位になってしまうんです。
また、海外にもコレクターはたくさんいたのですが、ファンは60歳以上の自然志向の裕福な年配の方が多く、「どうやったらもっと世界中に広げられるんだろう」と悩んで、壁にぶち当たっている時期がありました。
そんな折、2009年にロンドンで展覧会をしたときに、ロイヤルアカデミーで「アニッシュ・カプーア」が個展をしているのを見にいきました。そこで、大砲から大量の赤いワックスをぶちまける作品を発表しており、インパクトがとても強かったんです。「体と心が震える」くらい感動しました。
その時にも、インドの方がいたり、アジア系の方がいたり、中東の方がいたりしたのですが、皆さん感動してる雰囲気があって、こういう「インパクトのあるもの」や、「体感すること」をアートとしてやらないと、「なかなか世界中の人に竹の良さを知ってもらうことができない」と感じたんです。これを機に、何か大きなもの、インパクトのあるものをやろうと思い、インスタレーションを始めました。
一番最初は、竹でお茶室を作りました。雪で作られたかまくらのようなイメージで、中に入ってお茶を飲めるようなインスタレーションを日本でやりました。すると、若いカップルが入ってきてくれたり、子供が喜んで入ってくれたりと、今までの展覧会と全然違う反応がありました。大きくて中に入れるもの、触れるようなものは竹の可能性を広げてくれる、と確信し、それから現在のようなスタイルに進化していった形です。
ーインスタレーションの作品は、世界中のたくさんの方に、「竹の良さを伝えたい」、という気持ちが根幹にあってスタートしたんですね。
工芸という形から現代アートに昇華しないと、世界のアート市場の枠組みに入れないですし、人に伝えるのが難しいんです。また、「体感する」「体で感じる」というのがやはり必要です。
自分がアニッシュ・カプーアの展覧会で感じたような「震えるくらいの感動」を竹の作品でもいろんな方に体験してほしいと思っています。子供さんも遊んだり、触ったりして、竹と触れ合えるようなアートであれば嬉しいなと。インスタレーション作品を通して、実は竹工芸には長く伝統的な歴史があるんだよ、という伝え方をできたらいいなと思っています。
世界各地での展示やハイブランドとのコラボレーション
ー海外での展示の様子や、現地の方の反応について教えていただけますか?
さらに海外だと反応がすごいんです。
例えば、お客さんがインスタレーションに抱きついて離れない人がいたり、パリではインスタレーションのある空間でダンサーがダンスを踊っていたり、ギメ東洋美術館で半年展示した時には、若い人がソファに座って何時間も作品を感じていたりしました。今までの工芸の展示会をしてもそんなに何時間も見る人はいなかったので、大変驚きました。
ブラジルでは、自分に会うために2時間待って、涙流して喜んでくれる方もいました。「なんでそんなに感動してくれるんだろう」と私がびっくりするくらい、みなさん反応してくれました。
これは、「竹」という自然の要素を使って、原始的(primitive)な「編む」という形で現代アートをしているため、自然や人の「作っていく面白さ」や「懐かしさ」「哀愁がある雰囲気」が人の心に伝わったのではないかと思っています。
やはり、プリミティブなアート・原始的な美術の良さというのは、人間が根本的に持っている美意識の琴線に触れるのかな、と海外で展示する中で思うようになりました。
ー日本国内では、アートフェア東京での最大ブースを使っての大型インスタレーションや、GUCCI並木でのインスタレーションも大きな話題となりました。華々しいご活躍の中で、今回三豊鶴での展示にもご参加いただきます。なぜ、地方の小さな会場での展示にご参加いただけたのでしょうか?
「縁」だと思います。
三豊鶴のみなさんは、「町おこし」にすごく注力されているとのことですね。ハイブランドとのコラボも重要ですが、そういった町おこしの観点で、地方でアートしていくのも重要なことだと考えています。
展示コンセプト
ー今回、三豊鶴に展示する作品について教えてください。
タイトルが「無限」です。
エネルギーが生まれて、無限に繋がっていく、というコンセプトです。
筒の形状のものをつなぎ合わせて、無限のマークのように、始まりと終わりがない形を描いています。これにはいくつか理由がありまして、筒状にしてしめ縄のようにねじっているのは、「身を清める」「神聖な空間を作る」という意味がありながら、構造的にも強くする、という側面があります。
縄のように縛りながら一つの空間を作ることで、神聖な空間を作りたい、という狙いがあります。
竹には、元々門松の材料になったり、「結界を作る」という意味があります。竹の文化的なものを引き継ぎながら、アートの形にし、「命」「自然と人との繋がり」、「無限に続く命」をテーマにしています。
今回三豊鶴さんとの展示も、人のつながりから形になりましたので、この、「人と人の繋がり」というテーマにぴったりなのではないかと思っています。展示場所は人が集うレストランとのことで、その点もピッタリですね!
ご来場いただく皆様へメッセージ
アートは人をクリエイティブにさせてくれるものです。戦争があると、アートをやるのは難しかったりしますが、本来、人の営みにおいて、アートは無くなってはいけない。人が文化を育む一つのエネルギーであって、人にとってなくてはならないものだと思っています。
今回、瀬戸内国際芸術祭も開催されるとのことで、楽しみながら、アートの力を竹と一緒に感じていただけたら嬉しいです。
三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは
皆様のお越しをお待ちしております!