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「今」という時間を表現するパフォーマー【美術家・松田真魚】

2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。

今回は、8月19日〜21日に在廊する美術家、松田真魚(まつだまお)さんをご紹介します!

プロフィール


1969年大阪府生まれ。現在も大阪府在住。AU所属。
美術家。

大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業。卒業後の2011年−2016年 京都慈照寺研修道場、いけばな、無双真古流など、自分自身の一番近くにある自然である身体に興味を持ちBUTOHを始める。プラント機械設計などの経験を経て、いけばなの思想に感銘を受け、作品制作再開。2016年、芸術団体’art Unidentified'に参加、現在に至る。
何ものにも囚われない自由な心と精神を持って制作された作品によって、見る人々に生まれて来た理由を、生きることの感動をダイレクトに伝えることを大切にしています。

※AU…兵庫県を中心に活動しているアーティスト団体。正式名称はArt Unidentified。前身はアーティスト・ユニオン(Artist Union)という名前で、1960年代に活躍したジャンルを超えたアーティスト達が結集して1975年に結成された。

※嶋本昭三…具体美術協会の設立メンバーで、世界4大アーティストに選ばれた芸術家。具体の精神「人の真似をするな。今までにないものを作れ。」嶋本の「人を驚かせること。」をモットーに、2013年に没するまで、歩みを止めることなく制作を続けた。大砲を使って炸裂させて作る大砲絵画作品、瓶詰めした絵具をキャンバスに投げつける絵画作品、ヘリコプターから落下させたりクレーンに吊り上げられ落下し炸裂させて作るビン投げ絵画作品、世界最小芸術1億分の66.7mのナノアート作品、絵具を水面の弧を描くように何重にも落として描く渦巻き絵画作品、作品を破く穴の作品など、創造的なアートを世界にアピールし続けた。

舞踏・BUTOHとの出会いを経て現代アーティストへ

ー芸術大学に通っていた松田さん。これまでの経歴について教えてください。

美術系の大学に通っていた当時からパフォーマンスに興味があり、卒業後は舞踏(BUTOH)や身体表現について学んでいました。「舞踏・BUTOH」というのは、1950年代に日本から起こった前衛芸術のジャンルです。田中泯(たなかみん)さんという、世界を舞台に活躍されている日本の舞踏家が現在もいらっしゃいます。日本から世界に発信している分野なんです。

私がBUTOHに興味を持ったのは、自我が発達してくる中で、「自分の思ってる世界とは違うものが体にある」と感じたことがきっかけです。自分の体は「一番身近にある自然」で、自分の体の中に、自分ではどうしようもない、制御不能な感じの自然があると思ったんです。
学生時代にインドに行ったことも一つのきっかけだと思うのですが、自分のアイデンティティや身体に対して強い興味がありました。

過去作品

30代の時は、自動車整備の免許を取る学校で機械系の勉強をした後に、設計事務所で仕事をしていました。オートCADを覚えてプラント設計の仕事をしていた時期です。仕事をしながらも、アートはずっと興味があり、アートイベントやBUTOH、絵画もよく見に行っていたのですが、日常に追われてなかなか取り組めず…湧き上がる制作意欲にウズウズして、現代アートの制作を始めたのが9年前くらいからです。

ーAUの会員として活動していくきっかけについて教えてください。

現代アートの制作を始め、神戸のギャラリーで個展をしたときに出会ったのが、当時からAUメンバーだった高田雄平さんや八木智弘さんでした。たまたまそこはAUの皆さんが立ち上げたギャラリーだったんです!その後、AUの公募展に誘われて、作品を出すようになって、AUに所属することになった、という経緯です。

これまで取り組んできた作風について

過去作品

ー松田さんの作風は、ステンレスなどの金属を使っており特徴的だと感じています。

これは、機械設計の時の経験と、配管工の会社をしていた実家から廃材がたくさん出たのがきっかけだと思います。当時やっていた生花と、実家の倉庫に大量のパイプが並んでいる様子がリンクして、今の作風になりました。

制作時には、いろんな金属を見たり、展示する場所によってインスピレーションが浮かんできます。徐々に目に留まったものをもらいながら、イメージを作っているので、実は材料にこだわりはなく、様々なものを使っています。

自分の家にある配管材料を子どもの時から見ているのと、プラント仕事をしていた時に金属系の材料を見る機会が多かったので、その時のことが今もつながっていると感じています。

今回ペイントした樽の作品について

三豊鶴にある酒樽内へのペイント

ー三豊鶴の酒樽にペイントしていただいた際には、かなり鮮やかな色を使われていて、目を惹く作品となりました。

私的にはものすごい珍しい色使いになりました。経年劣化で錆が付いたり、色が変化していくような侘び寂びがすごく好きだったので、これまでは素材そのままを使うことが多かったんです。日本人の美学なんでしょうかね。

それが、昨年11月のAUグループ展の時からものすごく色を使うようになりました。当時はなぜなのか自分でもわからず…ところが、今年に入ってウクライナが戦争に入り、テレビで戦争の映像を見る中で、瓦礫がみんな同じ色に見えてきたんです。ウクライナで展示をする話があったので、ウクライナはとても身近な存在でした。

もっと、生命の色は美しく、激しいものだと思うんです。光が反射して、綺麗なはずです。ウクライナの無惨な映像を見て、その抵抗から、これまでの侘び寂びと正反対の方向である鮮やかな色彩になったのかなと思うようになりました。

制作中の様子

今回展示させていただく三豊鶴は、光がとっても綺麗な場所だなと思います。普段大阪に住んでいるので尚更感じるのかもしれませんが、空気中の光が直接輝くような感じで、自然がとても綺麗です。色に、直接光が反射して、綺麗に見えているのかな、と。

今回は蔵の中に展示するということで、どう光を取り込むか、という点を意識しました。階段のようにステンレス板を曲げて、光を導き、生命の色をテーマに、「今」の時代を表現しようと思っています。

やはり、戦争の映像を見て、目から入ってくる印象が焼きついています。今回のウクライナでの戦争がきっかけで自分の作品が変わったと感じています。今になって思えば、表現速度がいつもよりスピーディーになっていると感じますし、「死へ向かうことに対する反発」なのかもしれません。

今回展示する作品とパフォーマンスについて

過去作品

ー今回三豊鶴で展示する作品について教えてください。

今回は、100号サイズ1点、10号サイズ1点とSMサイズを5点展示するのですが、これらの作品は全て、パフォーマンスで出来上がった作品です。

普段、ライブハウスなどで音楽家、ポエトリー、BUTOH(舞踏)の方々と一緒に、足で絵を描くライブパフォーマンスをしています。これは、「人々の一歩」や「足取り」を意味していて、「予定調和ではない中で次のステップへつながるように、未来に向かって何かできないか」というチャレンジをしているんです。

このパフォーマンスで出来上がった作品を、日記のように記録している作品群があり、今回も「記録としての展示」をします。

パフォーマンスというのは、「今」という時間の連続なんです。新型コロナウイルスの蔓延で、世界中で人と人が分断されるような悲しいことが多かったですけど、もっと別のコミュニケーションの方向性があるのではないか、という提示になればいいなと思います。

※松田さんのパフォーマンスは、8月20日(土)17:00〜と、8月21日(日)14:00〜、三豊鶴TOJI (本蔵)入り口付近で実施予定です。

ご来場いただく方へのメッセージ

三豊鶴の建物と、シェフの美味しい料理と、そこでの出会いを感じていただき、その時に出会う皆様とパフォーマンスメンバーみんなで、その瞬間を楽しんで何か感じていただけたら嬉しいです。

三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは

皆様のお越しをお待ちしております!