心地よさを感じてもらいたい【デザイナー・宮岡千賀】
2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」。
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。
今回は、9月16日(金)〜19日(月・祝)に在廊するデザイナー、宮岡千賀(みやおか ちか)さんをご紹介します!
プロフィール
デザイナーからイラストレーターへ
ーこれまでの経歴について教えてください。デザイナーとしてのキャリアを歩んできたそうですが、幼少期からデザインに興味があったんですか?
元々小さい時から絵を描くことや、ものづくりが好きでした。小さい時の夢が漫画家だったんです。将来は何かしらものを作る人になりたかったので、それ以外のキャリアは考えたこともありませんでした。
大学は美術大学に進学し、プロダクトデザインについて学びました。高校時代に、面白いプロダクトに触れる機会が多くなり、かっこいいなと思ったのがきっかけです。アートよりも、よりコンセプトを深く考えることが必要なジャンルなので、かっこいいと思いましたし、しっかり職業として稼げる未来も見えました。「デザイナー」という名前の響きもかっこいいと思ったんですよね(笑)
卒業後、デザイナーとして就職し、パッケージやビジュアル、ブランディングなどに携わりました。
ー順風満帆なデザイナー生活のように思えますが、なぜ、アート制作をしようと思ったんですか?
イラストを仕事で描くことが多くなったのがきっかけです。「イラスト描けるの?じゃあ描いて」という流れでどんどん依頼が増えまして、お仕事の幅が広がったんです。
大学卒業後は趣味で絵を描くことがなくなっていたのですが、仕事をきっかけにイラストレーターとしてプロジェクトに声をかけてもらえたり、商業から離れたイラストを描く機会も増えたりしました。元々興味があったアートの方の道がひらけてきた感覚がありましたね。
ところが、これまでずっと商業デザイナーとしてやってきたので、どうしても「自分の個性を出しきれない」という悩みが出来ました。デザインの時は「エゴを捨てる」「自分の個性を捨てる」ということが一番大事になります。当時描いていたイラストも、実は誰かの影響を受けているような作品で、「〇〇さんみたいなタッチで描いて欲しい」という依頼も実際にあり、カメレオンイラストレーターのような感じでした。
「私の自我ってどこにあるんだろう?」と考え始めた頃、ご縁があり、銭湯を改装したカフェをされている方が、「ギャラリーとしてスペースを貸し出し始めるので展示してみませんか?」と誘ってくださったんです。昨年の秋頃ですね。自分が商業デザイナーではなく一人の作家として展示するのが初めてだったので、何を描くかすごく悩みました。展示場所が銭湯ということもあり、人がお湯に浸かっているイラストを展示したのですが、自分の中では「このタッチ、いいかも!」と作家としてのスタート地点に立てたような気がしました。
アクリル板を使った作品も制作しました。アクリル版の裏側にカッティングシートを貼ることで奥行きが出て、さらにアクリルを重ねることで本物の水がぼけているような表現になるので、面白いなと。この作風を詰めていきたいと考えています。
今回展示する作品のコンセプト
ー今回展示する作品について教えてください。
以前、三豊鶴TOJIに宿泊した際に、実際に風呂釜のお湯に浸かりました。その時に考えたのが、「何かに浸ること」です。「思考の海に浸かる」という言葉がありますが、私の場合は何かを考えているときに、海よりもぬるま湯に浸かっている感覚が近いかなと思っています。
三豊鶴TOJIのコンセプトは「Brew A New You!」(さあ、新しい自分を醸そう!)で、「醸す」というのが重要なキーワードです。
普段、私はいろいろなアイデアが浮かんだときに、一旦寝かせておいて、また何かのタイミングで寝かせておいたアイデアを引き出すんです。この行為自体が、「醸す」「醸造する」という行為に近いものだなと考えていまして、「思考の海(ぬるま湯)に浸かって醸造されている」という作品は三豊鶴と親和性があると思いました。
今回展示するのは、単純にお湯に浸かって楽しんでいるように見えて、思考の"湯"に浸かって考えを巡らせている=醸すという意味を込めた作品です。意味も大事ですが、パッと見た時の感じ方もとても大事だと思うので、単純にフォルムに心地よさを感じてもらえるような、なんだかよくわからないけどかわいく見える作品になっていたら良いなと思います。
ご来場いただく方へのメッセージ
三豊鶴という建物自体がただただ面白いです。中に入ると、高揚感もあるけど落ち着きもある、さらに神社の中にいるような、背筋が伸びるような不思議な感覚のある場所です。
この雰囲気を自分の作品にも上手く落とし込みたいなと思っています。三豊鶴に来て感じた感覚を、私の作品を見ることでも感じてもらえたら嬉しいなと思います。
三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは
皆様のお越しをお待ちしております!