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「平穏死」その妨げになった者・・・

 特養で高齢者の自然な旅立ちをお支えしたい、との思いで、社会福祉法人に就職して10年。今ではやっと、思いを共有し同じ方向を向いてケアに当たって下さる仲間が増えました
一筋縄ではいきませんでした・・・その10年の中での一つの大きな山場を振り返りたいと思います。


何故、特養の看護師になったのか

 訪問看護を長年している時、老衰の方自宅で亡くなる事が出来ませんでした。介護者が先に参ってしまうからです。
在宅でお世話していた高齢者の方が、ショートステイを利用するようになり、老健を利用するようになり、そのうち特養に空きが出て入所されるという流れが多かったのです。
介護者はほっとして、長年の肩の荷を下ろされる・・・
どこかに、罪悪感を持ち合わせながら・・・
施設に入居後、しばらくして亡くなったことを伺うと、施設でではなく、ほぼ100%が最期は病院だったと聞いたのです。
病院で亡くなるということは・・・・

どんな最期だったかは容易に想像できました。

高齢者が亡くなることは自然な事なのに、生活の場でそれは実現できないんだなぁと感じました。
それならば、そうできる場所を作ればいい・・・そんな事を考えている時に、前施設長に誘っていただき、特別養護老人ホームの看護師になることにしました。

面接での意見交換

 自分の思いを伝え、新しい特養の肝となる高齢者の「看取り」について話をし、快諾していただきました。
常勤医師は「私もな、糖尿病の人に甘いもん食べさせたいねん」「我慢させとうないねん」「自然がいいよな~」そう言って下さいました。
お互い、協力しつつ同じ方向を向いていけるものだと考えていました。
ところが

 おいしいもは人を幸せにする

あれ?面接で言っていたことと違う・・・

 あるご利用者が、誤嚥性肺炎で入院後、治療は終了したがもう食べられない状態となり、施設に戻ってくる話があった時、常勤医師が大反対をしました。
「ここはな、生活をする場所や、死にに帰ってくるところと違う」
「家族がそれを望んだって、ここはそういう所やない」
「そんなんやったら、療養型の病院か、老健に行き・・・」と憤慨しています。
「あんたが言ってた看取りは、だんだんと自然に亡くなることやろ、ここで過ごしていたその流れやったらわかるが、いったん入院したらもうあかんわ、帰ってくることは許さん!!」

ご家族は もう医療的な処置は望んでいません、どうか4年過ごしたこの施設で最期を過ごさせてあげたいです。とご家族と我々の思いを伝えたのですが・・・・

「医療的なことがいらんのやったら、家に連れて帰ったらええ
と、もう聞く耳を持ちません。
(帰れるもんなら、帰っとるわ!)

生活の場での「平穏死」妨げになったのは、医師だったのです・・・

ご家族も私たちもどうしていいのかわからない・・・

あんたの考え方はおかしい

『「死」は生活の延長線上にある一部だ』と伝えると、「あんたの考え方はおかしい、その家族が良いと言っても、ほかの親戚とか出て来て訴えられたら、あんたが責任取れるのか?」

面接の時に話をしていた相手とは思えない豹変ぶりにうろたえました。
家族は医師や施設長宛てに、とても丁寧な手紙を何通も書かれました。

私も腹をくくりました。
私の考え方がおかしいのであれば、辞めなければならないと。

施設長登場・・・

施設長は、家族からの手紙を受け取りこう言いました・・・
「こんなに施設に帰ってきたいということは、それまでみんなが本当に素敵な関わりをしてくれてたからやね・・・」とスタッフを認め褒めてくださいました。とても嬉しかったです。
「ご家族の思いも、スタッフの思いも十分わかりました。後のことは、私が責任を取ります。ご家族の思い通り戻ってきてもらいましょう。

他で、協力して下さる医師とも連携がとれて、その後無事にその方は施設に戻って来られ、約50日を施設で過ごし、旅立たれました。
とても穏やかな旅立ち(平穏死)に、残された者の心には温かい感謝の気持ちがあふれたのでした。

家族も大変喜んで下さいました。

きっとあの世でご主人に会っているかな・・・

施設で看取りをするということ

 絶対に医師の診断が必要です。
そして、多職種の連携が必要です。
口では同じような事を言っていても、いざとなると、些細な意見の違いが今後の方向性を分段してしまう、そんな経験をしました。

今では、施設での看取りに関して理解を示し、協力して下さる医師も4名に増え心強い限りです。

直接関わるのは、現場の介護職員
ご入居からトータルコーディネートするケアマネ、生活相談員
医療的な観察、今後の予測、家族への説明などを看護師
食事や栄養の事を管理栄養士
かゆい所に手が届く機能訓練指導員
全般に広くお世話して下さる事務職員、守衛さん、清掃スタッフ
みんなで協力して、人ひとりの人生の総仕上げをしていくんだという意識が大切だと感じています。

高齢者の「平穏死」もっと広げていきたい・・・
施設はそのお手本になりたい、と思います。

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