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King Gnuのライブが良すぎた話

※記事の中盤以降にはKing Gnuの最新のライブツアー「THE GREATEST UNKNOWN」のセトリや演出のネタバレが含まれます。(筆者は京セラ1日目に参戦)

 


 炎のような熱狂から、海の底のような静けさまで。雷のような攻撃性から大地のような包容力まで。そんなありとあらゆる相反が絶妙に混ざり合い、充実した時間が過ぎていくライブだった。
 King Gnuのライブは去年の6月の長居が初めてで、聴いてる時間もファンに比べたら短いだろうにわかではあるけれども。それでも、耳に良い音楽が届けられ、心に好感触が残ったのは間違いなかった。とても幸せな瞬間だったのだ。

 そもそもツアーのタイトル、そしてアルバムのタイトルとなった「THE GREATEST UNKNOWN」には、メンバーの常田さんよりこういった言葉が添えられている。

 今回のツアーはこの意思がしっかりと反映させられているように感じた。5つの突き出した角で五芒星は作られ、その星が集まれば五つ星になる。4人のバンドと残された最後の席に聴き手が座り、星は象られて最高を作っていく。聴き手の声も手拍子も歌声も、全てをKing Gnuが受け入れてくれた時間が会場には流れていた。
 井口さんがMCの中で「2019年ごろに戻ったみたい(ニュアンス)」で語っていたが、コロナ禍前の当たり前に声を出して楽しむライブを完全な形で取り戻す…という意味もしっかりと添えられていたかもしれない。メンバーの名前を叫ぶ観客に向ける目線がとても優しくて、時折イジりながらも笑ってくれるし、新井さんか勢喜さんがふと「名前呼んでくれるの嬉しいね〜」とほんわか応えてくれたあの瞬間はすごく温かいものだった。そもそも4人とも観客を見る顔が、目が、優しい。愛と包容力を感じざるを得ないんだけど、これは私の勘違いではないと強く!思いたい。
 最後の2曲の時に井口さんが「今から全部歌って。歌詞分からなかったらワー!で良いから。」と促して、観客みんなで全力で最後に歌ったあの数分間は一生忘れないだろう。常田さんのパートは出難い低音を頑張って、井口さんの高音は結構辛くて大変で。4人と4万人で作る音の海が見えたあの時、「THE GREATEST UNKNOWN」という言葉の意味が確たるものとして建てられた気がした。
 ちなみに、この日常田さんはライブのMCを全て音で表現していたので一回もMCで喋らなかった(お前は何を言っているんだ?と思うかもしれないが、全て本当である)。唯一しっかり話してくれたのは最後の2曲に観客に歌え!と煽りまくるところだったのだが、常田さんがしっかり喋る頃には観客はもう歌いまくっていて肝心の喋りは全くと言っていいほど聞こえなかった。おもろい。

 「THE GREATEST UNKNOWN」の意味合いと、もう一つ感じたのがKing Gnuから感じられる「相反」の概念について。
 例えばボーカルの高音と低音だったり、クラシカルとロックだったり、演出だと赤と青だったり。形も質も色味も、相反する様々な両者をKing Gnuは混ぜ合わせてカオスを生み出し、そのカオスを時に美しく整え、時に歪なまま叩き出し、それらを丸ごと愛している。相対するからこその良さを理解して魅せるのが本当に上手いと感じた。
 その相反するものは観客も持っていて。盛り上がる時は精一杯声を出すし手を叩くけど、静かで深いバラードの時は声も上げず息をするのも忘れるかのように
浸って聴き入っていた。盛り上がる故の喧騒も、聴き入る故の沈黙も、相反するものでありながらどちらもひっくるめて愛そのもの。バンドの魅せる相反に観客も応対していく空間がひたすら心地良く、ライブ中もライブ後もただただ「良い時間だな〜」と噛み締める事しかできなくて、でもそれがとても幸せだった。

 まだKing Gnuのライブに行った事が無い人、少し気になっている人、違うジャンルのライブに行ってみたいな〜と思う人。今回のツアーは本当に参戦してほしい。2時間というあっという間の時間でありながら、齎される充実感と満足感が半端じゃない。一言で表すのであれば「最高級の充実感と満足感が得られるライブ」とでも言っておこうか。
 単純に良いものを見たい、聴きたいという人にこそおすすめなので、タイミングが合う方は是非足を運んでもらいたいと思う。

 

 さて、ここからは楽曲とか演出についての感想を感情のままに書き殴っていく(ネタバレが嫌な人はブラウザバックするんだぜ)。


 特に心に残った部分を羅列していくが、まず最初の'SPECIALZ'→'一途'の流れでチケット代の元は正直取った(早すぎる)。
 セトリを勝手に予想はしていたものの、「最初何歌うかな〜真っ暗闇の中でいきなり"U R MY SPECIAL"って聴こえてきたら最高だな〜」とかベタな事を考えていたら本当にそうなってしまった。OP映像が矢継ぎ早になって全てが暗転したその瞬間、だだっ広い京セラドームに鳴り響いた"U R MY SPECIAL"、それに呼応するように響く観客の反応は歓声とどよめきが混ざり合った、興奮のあまり慄いてしまっていたように思う。
 これは私の個人的な感想だが、King Gnuは'白日'などで見せるクラシカルな美しさと'一途'などで見せるアタッキングな強さという2種の音楽性が共存するのが大きな特徴だ。だが、'SPECIALZ'のようにカオティックな他者と被らないパーティーチューンも大きな武器だと思う。
 そして'SPECIALZ'の後にそのまま'一途'のイントロ。楽曲テンポが急激に上がり、観客のクラップがどんどん共鳴して楽器の大音量に負けないくらいの音量を出していた。呪術廻戦きっかけでKing Gnuを聴き始めた人も多いだろうし、この流れは求めていたものにドンピシャで「これで良いんだよ!!!これで!!!」と内心高笑いする事しかできなかった。新井さんのグリグリ抉るベースが好きすぎる。'一途'だけもう十回くらいやってくれても全然良かった。

 そして私は4曲目の'STARDOM'にて早くも泣き出した。歌ってくれるとは思っていたがこんなに早く来るとは。
 ちなみに私がKing Gnuのライブに行きたい!と考えるようになったのはこの曲がきっかけである。常田さんがXに載せていた動画を見て、「これを生で見たい!!見るまで死ねない!!」と家の布団の中でぶち上がってしまったのだ。

 長居の時よりも炎の数は明らかに増えていたし、アルバムのアレンジを用いて熱さと盛り上がり具合はしっかり天元突破。。照明も相まってもしかして舞台燃えてる…?と勘違いするくらいの赤、オレンジ、そして熱気。最後のコーラスでドン!とモニターに映される「STARDOM」の言葉で私の涙腺はしっかりと焼かれた。
 このKing Gnuというバンド、ベタな演出の入れどころが本当にうますぎる。自分達の音楽やビジュアルが好きな人間が何を求めているか、そして自分達が何をやりたいか、その差し引きの塩梅が上手すぎる。'STARDOM'も最初と同様に「これで良いんだよ!!!これで!!!」になってしまい、心の中のサンドバッグを興奮のあまり叩き殴っていた。

 ここまでは比較的盛り上がる曲を挙げたが、次に話すのはMC後の'硝子窓'だ。常田さんが音でMCしたと前述したが、MC中にチラチラと弾いていたピアノがそのまま曲のイントロになってそのまま井口さんが歌い出した時は思わず「どない!?!?!?」とツッコミを入れかけたが、それをしっかり飲み込んで聴き入る。
 この'硝子窓'という楽曲、言葉を選ばずに言ってしまうならちょっとエッチすぎる。歌詞に直接的な表現は無いのに、醸し出される雰囲気の密度がすごく濃い。でも心地良くて上品。真綿で首を絞めるっていう表現とか、この曲のためになるのかもしれない。攻撃的な曲もあるのに'硝子窓'とか'白日'みたいな美しい曲も共存して、それらがグラデーションのように全て繋がっているから、曲単体やアルバム通して聴くよりも何倍も情報量が膨れ上がって聴かされる。前述の充実感や満足感はこの辺りが起因しているのもあるかもしれない。

 そしてライブ中盤の一つのピークとなったアルバムの新曲'阿修羅'。この曲、単刀直入に言うとめちゃくちゃ好き。

 初見の時は「KPOPみたいなの作ってる!」と思ったが、聴けば聴くほどKing Gnu最高〜卍〜になってしまう名曲。こういうぶっとい低音とサラッと流れるリズムが繰り返されるインスト、本当に癖になる。前述の相反の混ざり合いの要素がしっかり昇華されてるし、ライブバージョンの勢喜さんのドラムが最高。気が付いたら一瞬で終わってしまった。二十回はやってほしかったのに。

 最後にアンコールの'飛行艇'だけ話させてほしい。
 このブログの最初にも話しているが、私が初めて行ったKing Gnuのライブは去年5月の長居だ。あの時の'飛行艇'は今でも覚えている。’開会式’の流れる中で現れた彼らが、拍手が埋め尽くすスタジアムの視線を一手に集め、その瞬間流れた'飛空挺'のイントロ。
 これ分かってくれる人いると思うんだけど、あのギターのイントロってただの音の羅列のはずなのに景色が見えるんだよね。曇天の灰色、コンクリの灰色、刻まれた車輪の跡、燻る火、そこらで漂う煙。モノクロの中に赤だけある世界が、たった一本のギターの音の羅列だけで全部表現されてる。
 「楽器が超絶上手い人は音だけで景色と香りがする」っていう持論があって、過去に聴いてきたクラシックのオーケストラとかソリストの中にそういう人が時々いたんだけど、まさかそれをロックバンドで感じるとは。あの時の衝撃を今でも覚えている。
 その衝撃をまさか、このライブの最後の最後で思い出すなんて思わなかった。そもそも前回のライブの最初の曲を今回最後にやるとも思っていなくて、完全に虚をつかれた形になったわけで。過去の衝撃と今の衝撃がぶつかって気が付いたら歌いながら泣いてた。すごく好きな歌だったから余計に。
 '飛行艇'の最後のサビでモニターが切り替わって、このライブで初めてKing Gnu4人の姿がバンって映された瞬間があった。その時に常田さんの「THE GREATEST UNKNOWN」の拙文を思い出したのだ。今この瞬間、最高の五つ星が作られたのだと。耳にも目にも焼き付けて、絶対にこの瞬間を忘れさせないという意思が感じられて震えた。本当にかっこいい。King Gnuってすごくかっこいい人たちなんだって、改めて思わせられたのが'飛行艇'だったんだよ。

 長々書いたけどこの記事読んだ人全員King Gnuのライブ行ってください!!通い詰めてるわけでも無いのにもうベタ褒めするしかできない。行って後悔はしないってミトラが保証するんで、迷ってる人は調べてみてください。
 最後に'飛行艇'のリンクだけ貼っとくわ。みんな、偉大なる無名になろう。


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