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「ふくすけ 2024-歌舞伎町黙示録」狂乱が現実にはみ出してきてないか?【観劇感想文】

ロームシアター京都で「ふくすけ」を観てきました。

2024年で4回目の演目。
私自身は再演を映像で、再再演を劇場で観たことのある作品です。

ともかく強烈な毒気と破滅的な展開に圧倒された印象が強く残っていて、とりわけ「ふくすけ」役の阿部さんが表現する狂気とおかしみは唯一無二でした。

そう思っていたので、今回大幅に脚本に手が加わり、ふくすけ役も岸井さんがされるということで、どう変わるんだろう…と戦々恐々だったわけですが、変わった部分と変わらなかった部分含めて間違いなく「ふくすけ」らしさに満ちていて、とても良かったです。

2024年版は、簡単に言えば自分としては二組の夫婦の複雑な愛憎に、「ふくすけ」が狂言回しとして絡み、巻き込み巻き込まれ、完膚なきまでの破滅へと至っていく物語のように感じました。

コオロギとサカエ、暴力的に支配する夫とただ付き従うような盲目の妻。
ヒデイチとマス、妻を一心に探しさまよう吃音の夫と不安定な精神を抱えながら奇妙な成り上がりを果たしていく妻。

彼ら彼女らの間にある感情は、エゴまみれなようで純粋なようで、愛憎が反転してあまりにもドロドロとしていて一定しない。その愛情の不安定さは、自分自身に自信が持てない弱さが内包されているかのようで、「なんて奴だ」と突き放せない。見守る気持ちと蔑む気持ち、どうにかなれよとどうにでもなってしまえが混ぜこぜになり、やがて至る運命も、哀れなばかりなのに「こうなるしかなかった」という納得を得られてしまう。人物の身勝手さが、生々しいのですね。

だから最後のヒデイチの復讐には喝采を浴びせたくなる。よくやったな、やりきったな、という拍手を打ちたくなる。あれだけむちゃくちゃな物語なのに、そのスッとさせる結末へきちんと導くのは、巧いところだと思いました。

そして今回のふくすけ。
岸井さんが小柄な体を思い切り使って表現したふくすけは、不気味さやおぞましさよりもどこかコケティッシュな、ハリポタのドビーのようなマスコット的な印象を感じましたが、2024年版のショーアップされた内容にはとてもマッチしたキャラクタになっていました。

阿部さんのふくすけとは完全に別物です。けれど間違いなく今回の脚本の「ふくすけ」は彼女演じるふくすけが一番ふさわしいと思いました。

筋書きそのものは「そう言えばこんな話だったかな」と記憶が甦るほど、原型は残っていたように思います。

存分に毒々しくて救いがなくて何の忖度もなく、善人も悪人も金持ちも貧乏人も皆勝手なことをして勝手に死んでいく。

そんな生々しい「もののあわれ」を、徹底的に叩きつけてくる。

そしてこの狂乱に満ちたお話を、ありえない空想話として笑い飛ばせないほど、現代社会はひび割れつつあるとも思いました。都知事選の政見放送の醜さは、演劇を凌駕していました。

こんなおぞましい「歌舞伎町黙示録」をただ笑い飛ばせない現実のほうが狂い出しているように思ったのでした。

「ふくすけ」2024年版、物語はとても面白かったです。
この狂乱のエンタメが、ただエンタメであり続けますように。

パンフ表紙。強烈だけど内容にはぴったり。

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