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夜空でつながる(53)


秀のご両親は、記憶を失う1日前に二人が別れるという話し合いをしたことを知らず、秀が記憶がない間、こまめに秀を気遣っていた香奈子のことをやはりいい子だと思っていて、あんなに秀のことを思っている香奈子さんにどうしてそんなひどい態度をとるんだと叱られたそうだ。「これから親のことは徐々に誤解を解いていくことになるから、その間待ってもらえないか」と秀は言った。お兄さんと香奈子さんの関係も聞いたから、ご両親とお兄さんの3人を説得しなければいけないし、本当に説得できるのかなとマヤは思った。でも、秀以外には考えられないから、待ちたいとも強く思った。香奈子はストレスでずっと泣いているらしく、あしたご両親と一緒に心療内科で診てもらうことが決まったそうだ。「わたしは秀のこと信じているし、待ちたい」とマヤは伝えた。「傷は本当に大丈夫なの?」と尋ねると秀は「全治3週間くらいかなと言われてる。授業のノートは友達に借りることになるかな、香奈子はまともに話せる状態じゃないから、しばらくはマヤと会えないかもしれない」と沈んだ声で秀は言った。マヤは不安で「本当にわたしたち付き合っていいのかな」と口からこぼれ出た。「カナコさんがそんな状態で、もしかしたら心を患っているかもしれないし、幼い頃からずっとそこまで秀にこだわり続けている人と秀は別れられるの?こんな話は電話でするべきじゃないと思うけど」マヤ自身、自分の気持ちはひとつだけど、心は揺れに揺れていた。なんで普通の大学生で何の障害もない、自分たちがこんな状態になってしまったのだろう。あの海の日にタイムループして、事故を止めることができたならと思った。「俺もこんなことになるとは思っていなくて、ただ、気持ちは決まってるから」と言った。電話を永遠に続けたかったけれど、秀の傷も気になり、マヤから電話を終わらせた。電話を切ったあと、マヤは夜空を見上げた。星はあまり見えなくて、ほの明るかった。どこか星の見える遠くへ行きたい、秀とふたりでと思っていた。その頃、秀も夜空を見上げていた。そして同じようにマヤのことを考えていた。

 

夜空でつながる(53)

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