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つながらない電話(45)

しかし、「俺は絶対に認めないからな」と優は言う。「そこまで、香奈子が大事なら兄貴が自分で守ってやればいいじゃないか。どうしてそうしないんだ」そう言って秀は部屋に戻った。
 秀は、今はまだ、マヤにも香奈子にも中途半端な状態だから、きちんとけじめをつけてから、マヤにちゃんと伝えたいが、この1年の香奈子の自分への思いの大きさも知っていたから、別れを切り出すのは、気持ちが重かった。自分の気持ちははっきりマヤにあるのは実感したが、そういう思いを抱く相手ができたから、自分に向いている香奈子の思いも初めて理解できた。じっとしていると余計なことを考えるので、ランニングに出かけた。
 その頃、マヤは家に帰っていたが、奈津に電話して、散々話を聞かせていた。奈津も最初は興味津々で聞いていたが、最後は、「はいはい、わかった、わかった。また、あした学校で聞くよ」とあきれるぐらい舞い上がっていた。
 一方で、1時間のランニングの後、秀は香奈子に電話をかけていた。なかなかつながらなかった。「もしもし、香奈子、秀だけど、あした会えないかな」「ごめん、秀。あしたはちょっと予定があって、会えない。しばらく忙しいから、こちらから連絡するね。じゃあ、またね」とすぐ電話を切られてしまった。おかしい、いつもの香奈子なら、最低30分は話すのにと秀は思った。自分からの誘いを断ることもほぼないことだった。自分と話す前に優と話したのかもしれないとちらっと思った。実際、その推測は正しく、優はすぐに香奈子に連絡を取っていた。マヤには香奈子にすぐ連絡すると言ったのに実行できないから連絡しづらい。でも、いつかは香奈子との関係に、区切りをつけなければいけないと思っていた。

つながらない電話(45)

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