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第14回 カウンセラーのTシャツと言葉のサラダ  サバイバルホラーではない精神科病院と絵本

カウンセラーとスタッフの日常会話の記録です。

Mi代表:深層心理学が専門のカウンセラー。Mitoce代表。
すたっふ:カウンセラー見習いのスタッフ。少々オタクらしい。


すた:最近、友人と話をしていて、まだまだ精神科病院に対する偏見って根深くあるのだなと思いました。 

Mi代:どのような話でしたか?

すた:精神科病院といえば、思いつくのがまずはロボトミー※で、そのあとに電気ショック※だそうです。それで精神科病院は恐ろしくて、怖い場所というイメージがあるみたいで。
アイスクリームの棒でさえも持ち込みが禁止!のかなり厳しい場所だと思っているようです。私は精神科病院に実習に行ったときは、患者さんがアイスクリームを食べているのを、横で一緒に座って待っていたという経験があったので。そんなことはないのになぁ、と思ったのですが。

 Mi代:飲み込む危険がある人には当然、そのような制限がかかることがありますが。そうでない人は食べている場合もあると思います。 

すた:どうしても精神科というと、わけの分からないことを叫んでいる人がいて、暴れている人もいるという、恐ろしい場所というイメージがあるようです。私の経験では大人しい、素直な感じの人がたくさんいる場所という感じだったので。身の危険を感じるというよりも、ゆったりとした時間を過ごしていました。
どうしてそのようなイメージがつくのでしょうね。 

Mi代:そうですね、たしかに精神科医療の影の部分がないとも言い切れないので。原因がゼロとも言いませんが。昔はロボトミー手術も行われましたし。今は行われないのですが。電気ショック療法も、昔のイメージのような残酷な形で行われることはありません。でも、こういうマイナスのイメージってなかなか払拭できないかなと思います。
実際としては、おっしゃるように、症状として感情や行動がコントロール出来なくなる状態にある人は居ますが、患者さんそれぞれの性格や人柄を見ていくと、純粋で素直な人が多いですね。ある意味では、一緒にいるとこちらが癒されるように感じるタイプの人たちです。
ただし精神科病院にはいろいろな方が入院されますし。また入院したときに良い体験をした人も、逆につらい体験をする人も当然おられます。結局は昔からのイメージに加えて、つらい体験をした人たちの意見も積み重なると、精神科病院のイメージは悪化するかなと。
私としては、このあたりのマイナスのイメージはどうにかならないかなと思っているのですが。当然、スタッフとしての努力も必要なのですが。 

すた:映画やドラマでリアルな精神科病院の様子がみられたらいいんですが。 

Mi代:そうですね、どうしてもマイナスの部分が強調されることが多いのではと思います。たとえば、これはかなり極端なマイナス表現ですが、ゲームの『OUTLAST』※は精神科病院に対するマイナスイメージがかなり込められています。
サバイバルホラーゲームなのですが、医療が行き届かなくなった病院で、患者さんが次々と人を襲うという話で。そこでは患者さんがモンスターのように扱われています。精神科病院で働いていた私としては、このようなイメージが精神科病院に投影されることがあるのだなと思う程度です。社会運動家ではないので、販売停止にしろ!みたいな思いはわかないですね。
患者さんたちと話をしていても、自分たちが世間からマイナスのイメージを向けられることがることを自覚しています。そういった方々は別に「社会を変えてください!」と求めることは少なくて。それ以上に「私たちと充実した時間を過ごしましょう」というのを求めているので。直接かかわっていると、社会運動に関心があまり向かなくなる傾向はあるかもしれません。
精神障がいのなかには、いわゆる衝動性のコントロールが難しくなったり、現実判断力が低下することがあったりします。そのような状態にある人を、いわゆる一般の人は怖がったり、遠ざけようとする傾向はあります。一般の人からすれば、身を守るための反応なのでしょうが。そういったこころの動きも、マイナスイメージを膨らませることに影響しているかもしれませんね。 

すた:精神科病院の様子が分かる映画とかはないのですか?

Mi代:比較的、精神科病院の実情に近い様子を映しているのが『17歳のカルテ』※ですね。私は学生の頃に見ましたが、今思い出しても、精神科病院の様子はリアルかなと思います。 もちろん演出的な部分もありますが。

すた:私は最近、Netflixで韓国ドラマの『サイコだけど大丈夫』※をみたんです。そこでは発達障害のある兄を持つ人が出てきたり。病院では患者さんと一緒に絵本を読んだりするシーンが出てくるんですね。その様子を見ていると、私が実際に見た精神科病院の様子と近いなと思って。そういうのがもっと広がればいいのですが。 

Mi代:私はそのドラマを見ていないのでわかりませんが。マイナスだけではないイメージが広がればとは思います。私も実際に、長期間入院している患者さんと絵本を一緒に読むという活動をしていて、論文も書きました。
読み聞かせるというのは、どうしても支援者が上の立場になって「相手に話を聞かせる」という上下関係ができるので嫌で。それで私は患者さんと輪になって座って、上限関係なしにスタッフと患者さんが絵本を回し読みをするという活動をしていました。
それをしていたら患者さんの表情も変わりますし、普段、ほとんど自分から話をしないような人でも本を読んでくれたりして。良い経験をさせて頂きました。

 すた:Mi代表は論文も書いているんですね!(わざとらしく言う)。アニメやゲームをみているだけではなくて。 

Mi代:論文を書いて世間に臨床で得た知見を伝えていくというのも、私の大事な仕事のひとつですから。 

すた:はい、知っています。書きかけの論文が残っていて、それをできるだけ遠ざけようとしているのも知っています。精神科医療の現実をきちんと知ることも大事ですが。Mi代表も論文を書くという現実をしっかり見ることも大切だと思います!

Mi代:さて、次の映画は何を見ようかな…(と論文から遠ざかる)。



注釈

ロボトミー手術(前頭葉白質切截術 ぜんとうようはくしつせっせつじゅつ)精神外科の一種で、脳の前頭前野の神経線維の切断を伴う脳神経外科的な精神障害の治療法である。
大脳の前頭葉の前部にある前頭前野へ交連する繊維のほとんどがこの処置で切断される。重篤で頻繁な有害事象を伴う事が一般に知られていたにもかかわらず、20年以上にわたり西側諸国において精神障害や場合によっては、精神疾患以外を対象とした治療の主流として行われていた。
21世紀では、患者の権利を守る観点から、人道的な治療法としてはほとんどの場合認められなくなっている。
前頭葉白質切截術 - Wikipedia


電気ショック療法(電気けいれん療法)
両前頭葉上の皮膚に電極をあてて頭部に通電することで、人為的に痙攣発作を誘発する治療法である。
1938年、イタリア・ローマのウーゴ・チェルレッティとルシオ・ビニによって創始された、元は精神分裂病(現在の統合失調症)に対するショック療法として考案されたものである。その後、他の疾患にも広く応用されて急速に普及し、精神科領域における特殊療法中、最も一般化した治療法である。作用機序は不明である。
多くの場合、電気ショック療法はインフォームド・コンセント(医師と患者との十分な情報を得た(伝えられた)上での合意)を得たうえで、大うつ病・躁病・緊張病の治療手段として用いられている。
電気けいれん療法 - Wikipedia
インフォームド・コンセント - Wikipedia


OUTLAST(アウトラスト)
Red Barrels製作のサバイバルホラーゲーム。ストーリーはコロラド州の山岳地帯にある隔離された精神科病院を舞台に、プレイヤーキャラクターであるフリージャーナリストを操作し、敵から逃げ回りながら施設内を探索、脱出経路とこの病院でおこった事件の真相を解き明かすというものになっている。
OUTLAST - Wikipedia


17才のカルテ(Girl, Interrupted)
1999年のアメリカ合衆国の伝記青春映画。2000年に日本公開された。原作は1994年に出版されたスザンナ・ケイセン(英語版)による自伝。
ある日突然、薬物大量服用による自殺未遂を起こして精神科病院に収容されたスザンナ(ウィノナ・ライダー)。パーソナリティ障害という自覚が無く、その環境に馴染めなかったスザンナだが、病棟のボス的存在であるリサ(アンジェリーナ・ジョリー)の、精神疾患である事を誇るかのような態度に魅かれていく内に、精神科病院が自分の居場所と感じるようになっていく……というストーリーである。
17歳のカルテ - Wikipedia


サイコだけど大丈夫(사이코지만 괜찮아 / It's Okay to Not Be Okay)
2020年6月20日から8月9日までtvNで放送された韓国のテレビドラマ。日本では、Netflixで2020年に配信された。
人生の重さを抱えて愛を拒否し、精神病棟の保護士として生きるムン・ガンテと、生まれつきの欠陥で愛が何かをわからずにいる、童話作家コ・ムニョンが、お互いの傷を治癒していく、一編のファンタジー童話のような、愛に関するロマンティックコメディ。
サイコだけど大丈夫 - Wikipedia

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