中村一規さんへの質問!

🤔どうして水戸黄門に参加しようと思ったのですか。

 学生がお年寄りを訪ねて「水戸黄門」の上演と交流を行う。という企画のフォーマットと本来の意味でエンターテインメントとしてお客さんファーストである作風に対して、純粋にファンで何度も見学に行っていました。
 本義としては学生主導でやるべき企画だと思いますが、ワークショップを担当しツアーに同行させていただいた縁で、その後2度演出を担当させていただきました。

 

🤔水戸黄門を通して、忘れられないことは何ですか。

  1回目の時の、「水戸黄門」という題材とお客さんや参加者の公演に対する思い、過去の余熱みたいなものが合わさり、こちらの想定を超え作品がモンスターのようにコントロールできないものになるという体験。生半可な覚悟やエネルギーでは飲み込まれる。
 それと、公演を通じて人間がこんなに成長するのかという発見。ずいぶん勉強させていただきました。
喧嘩してた記憶しかないですが、同時に楽しかった記憶しかないです。
とにかく毎日なんか起こるんよね…



🤔中村さんが演出を担当された2017年度は、劇中歌に1990年~2010年代頃のアイドル曲を使ったり、おみつの夢がアイドルになることだったりと、全体を通して「アイドル×水戸黄門」というような印象を作品に受けたのですが、どうしてアイドル要素を入れたのですか。

私は、学生がアウトリーチに行く。ということがこの企画の一番の肝だと思っていたので、メンバーに合わせて(水戸黄門以外の台本でやる)(歌を大幅に入れ替える)ということも稽古初期では検討していました。
そのことを参加経験のあるメンバーと相談していたときに出た「黄門さまはお年寄りのアイドルだから別の台本にしない方がいい」という言葉がこの構成の原点です。
 もともとあった楽曲は唱歌を減らし、美空ひばり・坂本九といったアイドル系の歌手の曲だけ残しました。
 また、施設の職員さんが仕事の手を止めて見入ってしまうように という裏テーマがあったので、殺陣とダンスに稽古時間を長く取ると共に、松田聖子、小泉今日子、AKB48などの各世代の楽曲もちりばめました。
 水戸黄門は連続ドラマなので、構造上、黄門一行は成長しません。そこで、旅先の茶屋サイドの人物に(夢と現実)(親子の関係)(恋愛)などの要素を持たせることで、若者の成長譚としての側面を出そうと思いました。
あと、回春という側面も欲しかったので、外連味というか、カッコいいもの、セクシーなもの、かわいいものの要素も入れたいなあと。
 という結果、「おみつがアイドルを目指す」というお話になりました。
 ただ、ももクロを老人ホームで大音量で流したかった。というだけだったかもしれません…


🤔当時の参加者より「中村さんはすごくスタッフや出演者に対してゆだねてくださる部分が多かった」との声がありました。アウトリーチ作品を創作するうえで決めている事や、心掛けていることなどはありますか。

アウトリーチに限らず、キャスト・スタッフ一人一人がクリエイティブになることが稽古場で一番大切だと思っています。アウトリーチ公演の現場では回ごとに何が起こるか分からないので、各自が考えて判断できるようになることを目指しました。あと、次の年には学生だけでまた実施できるように、自覚的に創作の過程を体験してほしい。という狙いもありました。
 特に「水戸黄門」は、通常の舞台公演よりも、さらに「今、ここで」行われているという事に強く意味があるのだと感じます。
 キャストに求めるものは多かったかもしれませんが、参加者が考えたことが作品に反映され、舞台上からお客さんと直接取引できる ということに重きを置き、エチュードを中心とした集団創作のスタイルをとりました。
 上演系のアウトリーチに必要なのは、様々な条件が変わる中で、環境の差、お客の反応、その日起こってしまったこと、すべてを受け入れて、そのうえで見世物に徹する覚悟かなと思います。



🤔以前、「合唱寸劇水戸黄門」を舞研事業の中で一番好きな企画だと仰っておられていたそうですが、それはどうしてですか。

 好きというのももちろんですが、もっとも大切にすべき企画だと思います。
お芝居を目指す10代の中で、売れたい人、派手なものをやりたい人、作風の固まっている人などは事務所や養成所、劇団などを目指す場合が多いです。
一方、演劇大学に入る学生は傾向として、ファインアートとしての演劇に惹かれる割合が高いです。
 「水戸黄門」というのは、桜美林の企画の中でも最も本来の意味でのエンターテインメントであり、かつ、ごまかしのきかない本人自身が試される場です。
演劇を目指す学生たちに「水戸黄門」という企画を通して、(お客に求められて公演に呼ばれ、そこで100%お客さんのために舞台に賭ける)という経験をしてもらうのは、
プリミティブな演劇の本質を感じるためにも、その人にとって演劇とは何かを整理するためにも必要な時間だと思っています。

 お客として見学しても、演出として参加しても、すべての本番でそれぞれの発見があり飽きませんでした。桜美林に入ったのであれば、スタッフもキャストも、目指す作風がどうであろうとも、必ず一度は参加すべき企画だと思います。
縁あって参加させていただいたのは、本当に貴重な体験でした。お呼びくださった関係者の皆さんと、ご一緒した出演者には感謝しかありません。状況に合わせて形が変わろうとも、末永く続くことを祈っております。