86 ラン・スルー・ザ・バトルフロント上・下/安里アサト
ついにアニメが放送開始し、毎週土曜日の楽しみになっている。色んな人の感想を見ていると、専門用語の連発ぶりに未読勢だと「???」となったりするらしく、これはアニメ化されそうな分まで予習した方がいいなと思い3巻まで予習。上下巻で続き物になっているので、2巻分一気に読むのがオススメ。
ネタバレなしで感想書くの難しいからネタバレあり。
共和国の指揮官・レーナとの非業の別れの後、隣国ギアーデ連邦へとたどり着いたシンたち〈エイティシックス〉の面々は、ギアーデ連邦軍に保護され、一時の平穏を得る。
だが──彼らは戦場に戻ることを選んだ。連邦軍に志願し、再び地獄の最前線へと立った彼らは、『隣国からやってきた戦闘狂』と陰で囁かれながらも、シンの“能力”によって予見された〈レギオン〉の大攻勢に向けて戦い続ける。そしてその傍らには、彼らよりさらに若い、年端もいかぬ少女であり、新たな仲間である「フレデリカ・ローゼンフォルト」の姿もあった。
少年たちは、そして幼き少女はなぜ戦うのか。そして迫りくる〈レギオン〉の脅威を退ける術とは、果たして──?
シンとレーナの別れから、奇跡の邂逅へと至るまでの物語を描く、〈ギアーデ連邦編〉前編!
“──死神は、居るべき場所へと呼ばれる”
2巻と3巻で描かれているのは1巻ラストでシンとレーナが再会するまでのシンたちのお話。なので1巻ラストよりは過去の話で、シン側の話がメインなので、レーナがほとんど出てこない。W主人公みたいに見えるけど、やっぱりこの作品の主人公はシンなんだな。
2巻でいえば、2巻内でも時系列が行ったり来たりしているので(こうした意図はよくわからなかった)、やや読みにくさがある。専門用語のオンパレードぶりも健在だが、1巻を経たのでちょっとは慣れたかな……。目がチカチカする感覚はなくなった。
話としては2巻はギアーデ連邦に保護されたシンたちスピアヘッドの生き残り5人が束の間の休息を過ごし、戦場に戻る決意をするまでの話。3巻はモルフォという大陸の大部分を壊滅させてしまう激ヤバな超高速長距離砲を殲滅する話。
やっぱり1巻の勢いと緊迫感には及ばないなあと思うものの(1巻ラストより前の時系列の話なので5人が無事にレーナと再会する結末はわかってるから)、相変わらずグイグイ読ませる。すごく面白かった。専門用語のオンパレードと回りくどい言い回しも健在だけど、だいぶ慣れたかな……。
1巻は主要キャラがあっけなくバタバタ死んでいくのでハラハラ感や戦場の過酷さがすごく伝わってきたのだが、2~3巻はあまり主要キャラに死人が出ないのでその手の緊迫感はあまりない。2巻の前半あたりだと日常パートも多いので、1巻みたいな息もつかせぬ展開とは言えない。
ただ人間関係や心理描写の面白さは2巻3巻でぐっと増したと思う。2巻の日常パートはミリタリーものを期待するとかったるい部分はあるが、平和な生活を送りながらも、やっぱり自分たちの居場所はここではないと戦場に戻ろうとするシンたちの決断は迫るものがある。
これはサバイバーズ・ギルトとかではなく、誰かに戦いを押し付けて自分たちだけはのうのうと偽りの平和を享受することが、共和国の人間のようで許せないということなのだが、1巻で共和国のひどさは散々描かれているのですごく説得力がある。ぶっちゃけシン以外の4人はともかく、シンは聞こえちゃうからあの時点で日常に戻るの絶対無理だろうなとは思うが。
ただそれを「誇り」と言ってしまえばカッコいいのだが、やっぱりシンたちの年代の少年少女が(共和国のせいで)そんな価値観を持ってしまう危うさとか歪みは感じてしまうので、カッコいいばかりじゃないんだよなぁ。
連邦側も共和国のクズ共とは違う!と言いながら、可哀想な86と下に見ている感は隠しきれていないし、結局は戦闘狂の化け物と差別するし生きて帰ってこれないような作戦にシンたちをぶちこむあたりとか結局共和国とやってること変わらないの救いようがない。彼らの救いはどこに……。
ただひたすら憐れむことも差別と変わらないけれども、まだ若い少年少女だから戦場に送りたくない、死なせたくないと思う大人側の気持ちもすごくわかるんだよなーーーー。
新キャラクターも登場する。3巻までで印象に残ったのはやっぱりユージン、フレデリカ、キリの3人。
ユージンは冒頭に出てきて新しくレギュラーキャラになるのかな?と思ったらあっけなく死んでしまってビックリした。しかも体の半分がなくなるという悲惨な死に方で……。
ただユージンは守るべき妹という存在がいたので、守るべき家族も失い守るべき故郷もないシンとの対比になっていて、終始不在の存在感がある。2巻と3巻ずっとシンが守るべきものが何もない、戦う理由も、生き残らないといけない理由も何もないことずっと強調されるんだよな……。
だからこそ戦場に戻る理由が「誇り」といえども、兄をも討ち取ってしまった以上、死に急いでいるというか破滅願望に支配されている感はどうしてもある。シンがまずそのことを自覚して、何で自分は戦うのかとか、未来にも目を向けられるようになるまでの心理描写が本当に読みごたえがあった。
そしてフレデリカは本当に良いキャラ!兄を討ち取ることに囚われていたシンに対して、フレデリカはかつての自分の騎士だったキリの亡霊を討ち取ってほしいとシンに頼む。ユージンはシンの対になるキャラだったけど、フレデリカはシンと境遇が重なるキャラで、シンの兵士としての危うさはキリに重なっていくという上手さ!
このへんの人間関係や心情の変化が読んでいて本当に面白かった。死に急ぐシンをフレデリカやライデンが引き戻そうとするのもグッときたなあ。
もちろん戦闘も迫力があった。ただアニメを見てしまうと、こういうの映像向きだから早くアニメで見たいなーって思ってしまったけど。
2巻の終わりあたりから登場するモルフォ型の「こんなんどうにもならんやろ」という絶望感がすごい。作者のあとがきで、長距離兵器は戦闘ロボットもので冷遇されがちだけどもっと活躍させてもいいだろうに!と書かれていたんだけど、長距離兵器が立ちふさがるの確かに新鮮な感じして面白かった。早くアニメで見たいな~~~!!!
あと戦闘シーンではシンのチートぶりばかりがスポット浴びがちだったけど、ライデンたち4人の活躍も描写されていてそこもすごく良かった。
というわけで2巻と3巻をぶっ通しで読破し、予想以上の長文感想をしたためてしまった……。読むのに体力使うので4巻以降は時間おいて読もうと思う。
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