最近読んだ本まとめ⑤

謎のクィン氏/アガサ・クリスティ

窓にうつる幽霊の影が目撃したもの。事件当日にメイドが大空に見た不吉な徴候。カジノのルーレット係が見せた奇怪な振る舞い。一枚の絵が語る自殺の真相―事件の陰にドラマあり。神秘の探偵ハーリ・クィン氏と、人生の観察者サタースウェイト氏の名コンビ登場!幻想味あふれる珠玉の連作短篇12篇、新訳決定版。

短編集。中身はミステリーだったり、恋愛色が濃いものだったり、オカルトチックな話だったり、必ずしもミステリ色が強いものばかりではない。

まず人の人生ドラマを観察するのが大好きで観察眼に長けたサタースウェイト氏というセレブな老人と、どこからともなく現れて気づいたら消えている謎のクィン氏というコンビが異色で面白い。

コンビといえどホームズとワトソンみたいな感じではなく、クィン氏は少し助言するだけで彼自身が謎解きをするわけでなく、クィン氏の助言によってサタースウェイト氏が謎を紐解いていくみたいなパターンが多い。だが話によってはクィン氏は現れるだけで、ほぼほぼサタースウェイト氏が自分だけで謎解きをする回もある。

色んなタイプの話があるのでうわおもしれーー!!!となるのもあれば、何かよくわからなかったな……となる話もあった。あと短編だと長編みたいに登場人物一覧みたいなのがないので、名前で混乱することもままあった…。

好きな話はあっと驚く結末の「<鈴と道化服>亭奇聞」、謎解きが鮮やかな「空のしるし」、いつになったら事件が始まるんだろう……と思ったらえぇーーー!?!?!?と驚かされた「クルピエの真情」。クルピエの真情が1番好きだな。


アクロイド殺し/アガサ・クリスティ

名士アクロイドが刺殺されているのが発見された。シェパード医師は警察の調査を克明に記録しようとしたが、事件は迷宮入りの様相を呈しはじめた。しかし、村に住む風変わりな男が名探偵ポアロであることが判明し、局面は新たな展開を見せる。ミステリ界に大きな波紋を投じた名作。

犯人を見破ることより、ネタバレを食らわずに読むことの方が難しい説のある超超超有名作品。例に漏れずわたしもどこで食らったのかは覚えていないが既に犯人を知ってしまっていた。

もう犯人を知らないという人はネタバレを食らう前にこんな記事読む前にサッサと読め!としか言いようがない。これを犯人知らずに読めるって本当に幸せなことだと思うので……。

同じくネタバレを食らった上で読んだ「オリエント急行の殺人」と比べると、何も知らずに読んで騙されたかったな~~~!!!という気持ちが強かった。多分両方ネタバレ知らないで読んだらアクロイドの方が好きだけど、ネタバレ知った上で読むとそれでも抜群に面白かったオリエント急行の方が好き。アクロイドはトリックに面白さが凝縮されてる分知らないで読んだ方が圧倒的に面白い。

とはいえ、知った上で読んでも傑作であることには間違いないのであっという間に読んでしまった。知った上で読むとこの人しか犯人ありえないよなと思うような緻密な伏線が張り巡らされていてクリスティってやっぱ天才だわ!と実感した。でも知らずに読んだら絶対全員犯人やんけ……となる。

それで最後にポアロが犯人に対してあることを勧めるのだが、犯人と同じくらいそれにビックリする。オリエント急行もそうだけど、ポアロって単なる探偵であって、別に正義の味方ではないんだよなと思わされる。


岸辺露伴は戯れない 短編小説集

杜王町在住の人気漫画家・岸辺露伴。自らの作品を読んでもらうためには一切の妥協を許さず、あらゆる犠牲も厭わない男が、見えざる引力に誘われてめぐり逢う、謎めいた怪異の数々とは……!? 大人気『岸辺露伴は動かない』シリーズ待望の短編小説集が、完全無比のクオリティで登場!! 『幸福の箱』『シンメトリー・ルーム』『夕柳台』に、書き下ろし『楽園の落穂』を加えた4つのストーリーを収録。

何となくhontoのアプリを立ち上げたら買ったまま読むのを忘れていたことに気付き読んでみた。

マジで全部面白かった。全部面白かった。捨て回一切なし!サラッと読めてしまうくらいのボリュームなのだが、全部面白いので満足度はかなり高かった。どれが1番とか決められないくらい全部面白いし、それがどれも別ベクトルの楽しさなので飽きない。

結局何も解決していない感がシリーズっぽいなあと思わされる「幸福の箱」、ミステリ要素強めな雰囲気で始まりスカッとした後味で終わる「夕柳台」、バトルがハラハラしてめっちゃ楽しい上に露伴先生のプロ意識に触れられる「シンメトリー・ルーム」、ホラー要素が強く異色の雰囲気がある「楽園の落穂」、どれも全部オススメ。


無実はさいなむ/アガサ・クリスティ

慈善家の老婦人が殺され、評判の悪い養子のジャッコが逮捕された。彼はアリバイを主張したものの有罪となり、獄中で死んだ。それから二年後、外国から帰ってきた男が、ジャッコの冤罪を告げに遺族の住む屋敷を訪れた。が、その来訪は遺族にとって迷惑だった。落着したはずの事件が蒸し返されることになったのだ。

俺は!!!!!!こういうクリスティが!!!!!読みたかったんだ!!!!!と思わず大声を出しそうになった一作。

ここ最近クリスティの代表作を立て続けに読んでいたのだが、代表作って結構人間描写があっさりめで。だからこそ代表作なのだと思うのだけど。ガッツリ人間描写するときのクリスティって全然事件起こらねえ!ってなりがちだから取っつきにくさがあると言えばある。

でもわたしは「春にして君を離れ」からクリスティの世界にドハマりしたので人間描写濃いめのクリスティ作品が好き。「終りなき夜に生れつく」とかも大好き。

というわけで、この作品はトリックやフーダニットより、クリスティの描く人間ドラマ、人物描写こそメインディッシュの作品だと思っている。解決したはずの事件が蒸し返されたことで、家中が疑心暗鬼に包まれてしまう。そのギスギスしていく過程の描写がめちゃくちゃ上手い!ノンシリーズである今作には一貫した探偵役がいないので、そのへんも人間ドラマ>推理を強めているような。

人物描写もさすが。殺されたレイチェルは「春にして君を離れ」のジョーンを思い出すような、人の話を聞かない自分が絶対正しいと思っている善意の押し付けウーマン。一緒に生活する家族の息苦しさが伝わってくるような描写がめちゃくちゃエゲつない。

レイチェルの養子の1人であるメアリも育ての親である彼女を嫌いながら、病気で車いす生活の夫フィリップに対する態度はレイチェルに似ているような。独占したいがゆえに、あれもこれもと本人が望む以上に献身しすぎる。フィリップはフィリップで妻に構われすぎることに嫌気がさし、真犯人を推理することに過剰なまでに前のめりになる。

こんな感じでチラホライヤな感じの人がいる。今あげたキャラクターだけでなく全てのキャラクターに対してクリスティの人間描写はさすがだなあと思わざるを得ない。

ちなみに人間ドラマは濃厚なものの、犯人やトリックは意外性はあるにはあるが結構あっさりしている。アッと驚く結末というほどではない。なので繰り返すようだが、事件が蒸し返され疑心暗鬼に叩き落されたアージル家やその関係者の人間模様がとても面白い一作。「春にして君を離れ」を好きな人はこういうクリスティ絶対好きなので読んだ方がいい。トリック重視の人には物足りないかもしれない。


最近またクリスティを立て続けに読んでいるけど、読んでも読んでも全然制覇できる気がしないほど作品数が膨大かつ、当たり外れが少ないのがクリスティの良いところだなと思う。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?