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ふぁみれ たのしいふぁみれだな

風邪気味で暇を持て余した子供らと、LINEスタンプを作った。

7歳長男のスタンプはシンプルな絵に、「OK」とか「ありがとう」など使用頻度の高い言葉。使い勝手がいい。
「それもあり」というスタンプがおおらかで特に好き。

4歳次男は普段絵を描きたがらないのだが、今回は兄につられてがんばった。
字はまだ書けないので、本人が口述した言葉を入力していく。

「けん かたいーな たべような」
「わぁ こわいな  しかくちゃん」
「なんだこれのもとのもと?」

真顔で謎の言葉を連発する次男。
え、ほんとにそれでいいん?と確認したくなるのを抑えつつ入力に徹する。
父や祖母とのやりとりで、次男だってLINEスタンプを使っている。どういうものか認知している。
それなのに全く規格外なものを作れる柔軟さに脱帽。

「これはね、『ふぁみれ ふぁみれ』ってかいて 」と次男。

「……ふぁみれって何?」
「そんな言葉、今はじめて言ったよね?」
と、長男と私でひそひそしていたら、少しして第二弾がでた。

「これはね、
『ふぁみれ たのしい  ふぁみれだな』だからね」

「だから、ふぁみれってなんなんだー!?」
と叫ぶ長男を尻目に次男はすんとしている。
ウケ狙いではないし、説明する必要も感じていないようだ。

しかし「ふぁみれ」が分からないままでも、
「たのしい ふぁみれだな」と断言されるとそんな気がしてくる。

我が家でのごきげんな流行語になった。

***

「“のなのな”ってなんでしょうか?」
次男による説明不十分ななぞなぞ。
突然出題されるが、解けたためしがない。

答えは「カメの歩き方」だった。
「のぉぉ なぁぁ のぉぉ なぁぁ」とゆっくりねっとり発音する必要があるらしい。
最近、兄弟二人で合言葉を作っていて、それにさっそく組み込まれていた。

兄「あっちゃん、合言葉いくよ! 山!」
弟「いし」
兄「うんち!」
弟「あおい」
兄「カメ!」
弟「のぉぉ なぁぁ のぉぉ なぁぁ〜」
と言い合って二人で大笑いしている。つかの間の平和。

何故「うんち」の合言葉が「青い」なのか、母は知らない。

***

突飛な発想の次男はしかし、頑固な困ったやつでもある。

歩かないと決めたら、テコでも動かない。
長男の小さい時も大変だったが、話せば応じてくれる余地はあった。
次男はそれがない。先に行っちゃうよ、と脅して隠れてみても、全然動じずその場から動かず。
五分経って、こちらが痺れを切らして出てきたら
「ふふ、かげがみえてたよ」
と笑われた。くやしい。



お祭りの人混みでは
「みられちゃう! 13にんにみられちゃう!」
と泣き叫び、地べたに丸まってしまい、運搬に苦労した。
おいしいものを食べたらけろっと機嫌をなおしたが、意外と繊細で小心なところもある。
ところで、13人って数がどこから出てきたのか、ずっと気になっている。



トイレにまだ付き添いが必要なのも面倒。
長男は4歳の誕生日に「全部自分でやるからドア開けないで」とクールに宣言し、以後問題なくやっている。
比べちゃいけないが、次男はもうすぐ5歳なのに「かーちゃん、うんちでたー!」と屈託なく叫んでいていいのか。

「あっちゃん、そろそろ自分でやろうよ」ともちかけたら、
「じゃあ……40歳になったら、やる」と譲歩したように言ってきた。

「40歳!?
  それだと、とーちゃんもまだ拭いてもらってる歳になっちゃうよ!
  とーちゃん、山形のばあちゃんに拭いてもらってないでしょ」

「……じゃあ14歳」
中2でそれは……。思春期の男子としてだいぶ問題がある。

らちが開かないので、何故いやなのかを聞き出すことにした。
子供に寄り添う育児、大事!

「ねぇ、なんで自分でおしり拭くのいやなの? 教えて 」
おだやかに、寄り添い、冷静に、問題を解決しよう。

「だって、じぶんのてがよごれたら、やだから」

自らの手を汚さず、裏で人を操る悪の親玉か、貴様!!
つい、カッとなって言い返してしまう。

「はああ!? じゃあかーちゃんの手が汚れてもいいってこと?!」

「うん。じぶんじゃないから。
   かーちゃん、おわったらせっけんで、ちゃんと てをあらいなね」
次男はおだやかに寄り添うようにこたえた。

子育て間違えたか…と頭を抱えたい気持ちを抑え、
「小さい時はまだ難しいから、かーちゃん拭いていたけどさ、もうすぐ5歳になるしね、どんどん成長しているんだからさ…」と再び説得を試みる。

が、

「え、まって! いまはもう、むかしになるってこと!?
 いまのここもどんどんすぎて、ばらばらになっていくの?」

突然、時の流れに思いを馳せはじめた幼い我が子が愛おしく、面白く、結局今日も母は息子のおしりを拭いてしまうのであった。

***

そんなマイペースな次男なので、幼稚園で迷惑をかけていないか、少し心配している。

先生のお話を聞けているのか、勝手な行動をしていないのか。

連絡帳にお叱りの言葉がないので一応大丈夫なのだろうか。
しかし1週間で3回、幼稚園で着替えさせてもらった時があって申し訳なかった。
(お味噌汁こぼし、おしっこちょびっともらし、手を洗っていて袖を濡らしすぎた、がその内訳です)

とにかくバス通園のため、幼稚園での様子がまるで分からない。
幼稚園バスに次男を乗り降りさせる十数秒が、私と幼稚園との唯一の接点。

バスに乗車している先生は日替わりで、今日は園長先生だった。
朗らかで笑顔が素敵で、私も子供らも大好きだ。
次男は「ゆきこ!」と呼び捨てにしてしまうほど大好きだ。

長男に友達が出来ずに悩んでいた時、園長先生は
「早熟なのでね、もう少し大きくなってから、話が合う友達が見つかるかもしれないし、年上の友達ができるしれないし、なんにも心配ないですよ〜。だいじょうぶですよ〜。」
と、大局的な見方で明るく励ましてくださった。

次男をバスのステップに乗せつつ、園長先生へ早口に挨拶。
「いつもお世話になってます。自分勝手な子ですけど、幼稚園で大丈夫でしょうか? ご迷惑かけてないといいんですが」

すると園長先生は
「だぁいじょうぶですよ〜〜!」と満開の笑顔。

あ、よかった。
幼稚園では一応ちゃんとしてるのね。
ほっとした。
園長先生の大丈夫は偉大だ。

次男が無表情にバスの席に辿り着き、ドアが閉まる。
その刹那、園長先生は続きの言葉を発した。
「まだ卒園まで、二年もありますからね〜〜」
発車するバス。
にこにこと手を振る園長先生が並行移動で遠ざかる。


え? それは……!?
それまでになんとかすれば大丈夫ってこと?
ってことは今はまだ、だいじょばないのでは……?

惰性でバスに手を振りながら、安堵からの落差でがくっと力が抜ける。


「ふぁみれ たのしい ふぁみれだな」
気づくと頭の中で唱えていた。
ふはははは、と笑っていた。






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