アオイクニノモノガタリ ‐蒼国物語‐

‐我が家‐

「はぁ・・・」

冷たくなる手に息を吹きかけ、周りを見渡す。
さっきの地吹雪はなんだったんだ・・・。

雪道でキャリーバッグを転がすのは、なかなか難しい。
そんな遠くない実家まで、なかなか時間がかかっている。

「・・・弟に迎えに来てもらえばよかったなぁ。」

いつも帰ってきた時は、父が迎えに来てくれていた。
無口であまり会話をするでもないが、帰省すると必ず車を出してくれた。

そんな父も、もういない。

1年経つのに実感がわかないのは、突然だったこともあるだろうし、実家を離れて20年以上経っているせいもあるのだろう。

<家族はそこにいて当たり前>
そんな感覚は、失ってから気付くもの、か。

キャリーバッグのタイヤに雪が絡みつき、ますます進まない。
ガタゴトさせながら、10分ほどの道のりを倍もかけてようやくたどり着いた。

久しぶりの我が家。
雪が積もり、綿帽子をかぶった弟の愛車すら<おかえり>と言ってくれているような。

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ま、勝手な妄想だけど。

「ただいまー。」

まず風除室で自分とキャリーケースの雪を落とし、玄関をガチャリ開けると、雪国特有の温もりが待っていた。

外は氷点下。室内は25℃。
この気温差に、いつもメガネは曇る。

「おかえりー。」

ぼんやりした視界の向こうに、迎えてくれる母と弟。
二人とも変わりなく、しばらく会っていないなんて感じない。

「寒かったでしょ~。お茶淹れるね。」

いつものように、まずは仏壇に手を合わせご挨拶。

「おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、ただいま。」

お線香を立て、おりんを鳴らす。
しばらくは家にいるからね~、よろしく。
目を閉じ・・・しばし手を合わせる。

と。

なんとなく、後ろに人の気配を感じ、振り返る。
が、誰もいない。

「お茶はいったよぉ~。」

「・・・はーい。」

気のせい、か。

地吹雪で見えた景色も、感じた人の気配もすぐに忘れ、家族との時間を過ごしていると、あっという間に夜は更けていった。

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