見出し画像

(解説)ファストエディ・ジェンナー

 この記事が全くシェアされないのは、翻訳が単純に分かりにくいという問題もあるのだろうが、大衆が歴史的事実に全く興味がないか、全く理解されていないか、或いは「ワクチンを否定すること」そのものが受け入れられない固着か、反ワク=非科学のフィルターを通してでしか物事を見られないか、21世紀に18世紀の話をしても響かないか(「今は安全性が改善されている」という言い訳)、色々と理由はあるのだろう。「N=1の一般化」に始まり、以降は詭弁論理学の繰り返しの歴史に過ぎないワクチンの方こそ、「科学で絶対にやってはいけないこと」が凝集された好例なのだが。

※N=1の一般化:少ない事例の話を一般的な話にしてしまうこと
例:「3人の男性と付き合って全員に浮気された」⇒「男は浮気する生き物だ」
ジェンナーはJ.フィップス少年への一度の牛痘接種で天然痘予防を報告
⇒一例しか確かめていない 

 元記事はパトリック・ジョーダンのHPを翻訳したもので、ワクチンの原初的な犯罪を証明したものだ。パトリック・ジョーダンといえば巷では「1972年にWHOの極秘文書を暴露した勇気あるジャーナリスト」として知られているが、まずジャーナリストじゃねぇという根本的な突っ込みに始まり、実際は72年のWHO論文を発見し、その内容が何を意味するかを解説した人物である点で、世間の認識とは色々と食い違っている(そんなものは彼の発信内容の0.000001%程度なのだが)。ともかく現時点ではニッチ領域なので、私は細々と翻訳活動をしている。

 彼の参考文献は、19世紀の細菌学者であるエドガー・マーチ・クルックシャンクの1899年の著書「ワクチンの歴史と病理学」だ。本人曰く「100歳年の差の双子の兄弟」を自称するほどに深堀したようだ。

 19世紀の反ワクチン主義者はこのクルックシャンクと、医師のチャールズ・クレイトンの二人が名高い。

 当事の多くの反ワクチン主義者達が、ワクチンによる被害の統計的な証拠と、製造・研究過程の非科学さを指摘する中、この二人はジェンナー本人の遺した論文に当たっている。更には、

①現在、王立協会が保管している、1797年にジェンナーが提出した手稿版のInquiryと、翌年の98年に自費出版したInquiryとの差分を調べ、ジェンナーの改竄の証拠を指摘している
②ジェンナーの記述する「牛痘」の臨床的な経過から、「牛痘」なる疾患は実在せず彼が実際に取り扱っていた膿の正体は牛疫(リンダーペスト)か梅毒であると喝破している点
③後続の研究まで掘り下げ、現在の科学研究用語でいう所のメタ分析を実施している点

以上3点においてこの二人の存在は卓越しており、多くの文献で二人の書籍が引用されている。元記事は、そのクルックシャンクの著書をベースにした記事である。


 さて、エドワード・ジェンナーと言えば、長らく人類に猛威を奮っていた(とされる)天然痘の予防接種法として、牛の膿を使った牛痘法を開発した人物として教科書に載る人物だ。その「発見」を1798年に報告した論文のタイトルが「An Inquiry into the Causes and Effects of the Variolae Vaccinae~A disease discovered in some of the wastern counties of England, particularly Gloucestershire. And known by the name of the CowPox.~:イングランドの西部の諸州とくにグロスターシャーで見つかった病気で、牛痘の名で知られているウシ天然痘の原因および効果についての研究」(以下Inquiry)だ。

 現代のワクチン開発では、疾患の直接の原因と「推定」される病原体を「弱毒化・不活化」して使用する一方で、全く無関係な病原体が予防になるというかけ離れた理屈を展開した人物が未だに神聖化されている時点で理解不能なのだが、そういうことになっている。

 まぁ連中のことだから「抗体の交差反応性」とでも言い逃れするのだろうが、抗体が一般に交差反応をするということは、ワクチン成分の何か、例えば現代なら麻疹・帯状疱疹ワクチンに"保存料"として添加されるD-ソルビトールへの抗体反応が、リンゴ果汁への食品アレルギーや、シラカンバ科の花粉による花粉症に繋がるかもしれない、などという発想が彼らから生まれることはないし、生まれたとしても口にすることはない。つまり、抗体が交差反応する全く無関係な疾患が創られる可能性を、だ。

 何故か?「人々を不安にさせてはいけない」からだ。不安にさせない為なら実害は無視する。こんなもの19世紀から何一つ変わっていない。

ワクチン接種が実施されると、何時も科学的で効率的な特異性と描写され、宣伝されるが、その予防の失敗が明らかになるや、「適切に実施されなかった」「試料が古すぎた」「新しすぎた」「瘢痕が少なすぎる」「瘢痕が小さすぎる」「瘢痕が薄すぎる」などと、騙されやすいカモは冷たく告げられるのだ。
When vaccination is performed, it is always described and paid for as a scientific and efficient specific, but, when its failure to protect is patent, the credulous dupes are coolly told that it could not have been "properly done," or that it was too old or too new, or that the marks were too few, or too small, or too faint.

Why I am an Anti-Vaccinist; Joseph P. Swan(1903)

 と、幾ら言った所で論文主義者は「論文」の形式でなければ最初から目を通すこともないし、"専門家"の肩書を持った者が「ない」と根拠なく適当に口にするだけで「ない」ことになる。便利なものだ。

a:密通者や友好的なエリート層(特に政治家や編集者)と広報問題について議論し、ウォーレン委員会が人知の限り徹底した調査を実施し、批判側には重大な根拠がなく、これ以上の憶測に基づく議論は反対派の手中に陥るだけであると指摘すること。また、陰謀論的な話題の一部が共産主義者のプロパガンダリストによって意図的に生み出されたものに見えると指摘する。自分達の影響力を、根拠のない無責任な憶測を阻止する為に行使するように呼び掛ける
To discuss the publicity problem with liaison and friendly elite contacts (especially politicians and editors), pointing out that the Warren Commission made as thorough an investigation as humanly possible, that the charges of the critics are without serious foundation, and that further speculative discussion •only plays into the hands of the opposition. Point out also that parts of the conspiracy talk appear to be deliberately generated by Communist propagandists. Urge them to use their influence to discourage unfounded and irresponsible speculation.

陰謀論を馬鹿にしてはいけない理由
CIA-DOC:1035.960


1.ジェンナーの元のアイデア

話を戻すと、ジェンナーといえば牛痘の印象が根強いが、史実は

1790年までのエドワード・ジェンナーは、ヒトの天然痘は、馬の踵にできる「グリース」と呼ばれる疾患のせいだなんて名案を閃いた

この通り、史実のジェンナーは「馬」の踵に生じる皮膚炎症性疾患であるグリースと呼ばれた疾患こそが人間の天然痘の病気の原因だと考えた。それはInquiryに当たってみればそのままの通りの記述がなされている。


※なんとInquiryの和訳版は青空文庫で無料で読めてしまう。が、2011年に出版されたものであるにも関わらず誤訳が多い。ということで、今後の為にも、青空文庫から引用しつつ、原文と対比させていくことにする。

家畜としての状態から、しばしば問題として取り上げられているウマの病気がある。獣医たちはこれを「踵炎しょうえん」(Grease)と呼んでいる。これは踵の炎症であって腫脹していて、(これから述べようとする変更を受けた後で)人体に病気を起こす特別な種類の性質を持っている。この病気は人痘※に非常に強く似ていて、人痘が踵炎の原因ではないかと思うほどである。

※痘瘡、天然痘:牛痘と区別するために、出来るだけ人痘にした

青空文庫-
イングランドの西部の諸州とくにグルスターシャーで見つかった病気で、牛痘の名で知られているウシ天然痘の原因および効果についての研究

>人痘が踵炎の原因ではないかと思うほどである。

誤訳だ
というか踵炎=グリースの話の段落なのに「人痘がグリースの原因」では文脈に合わない。原文は以下の通り。

There is a disease to which the Horse, from his state of domestication is frequently subject. The Farriers have termed it the Grease. It is an inflammation and swelling in the heel, from which issues matter possessing properties of a very peculiar kind, which seems capable of generating a disease in the human body (after it has undergone the modification which I shall presently speak of), which bears so strong a resemblance to the Small-Pox, that I think it highly probable it may be the source of that disease.
家畜化に伴い、しばしば問題となる馬の疾患がある。獣医らはこれを「グリース」と命名した。踵に炎症と腫脹が生じ、ここから非常に特殊な特性を持つ膿が発生する。この膿は(後述する修正を受けた後)人体に疾患を発生させることができると思われ、天然痘に非常に類似することから、私はこの疾患が天然痘の発生源である可能性が極めて高いと考える。

 このように冒頭でいきなりグリースに触れている。牛痘の印象ばかりが根強いが、ジェンナー理論の核心は
馬の踵の皮膚炎が
・人間だけの疾患である天然痘の原因
だと提唱したことにある。

※当然微生物検査などない時代なのだから純粋な外見上での判断だ。そしてこの通りなら、天然痘の流行は馬のいる場所にしか発生しないはずだが、そんな疫学研究をコイツがしているわけもなく。当時の移動手段が専ら馬車だとは言え、蒸気機関車の誕生した19世紀初頭にはツッコミが入っても良さそうなものだが、不思議と誰も言わない。

 では有名な「牛痘」のアイデアはどこから生まれたのか?一般的には「乳搾り神話」が回答となる。要するに、ジェンナーが見習い医師だった頃に「牛痘に罹ったことがあるので天然痘に罹らない」と返す農夫の言葉に関心を抱いた、という話だ。この部分が、ジェンナーの伝記作家で友人でもあったジョン・バロンの創作であることは、当の王立協会が認めている。

Boylston A. (2013). The origins of vaccination: myths and reality. Journal of the Royal Society of Medicine, 106(9), 351–354. https://doi.org/10.1177/0141076813499292

残念ながら乳搾りの物語はジェンナーの友人で初期の伝記作家であるジョン・バロンが創作した嘘である。ジェンナー自身が牛痘の効果を発見したと主張したわけではないし、膨大な書簡があるにも関わらず、自身のアイデアに辿り着いた経緯を語ったわけでもない。乳搾りの神話はあくまで神話である。現代の目線で、ジェンナーは牛痘で天然痘を撲滅したことで尊敬を集めている。しかし、生前、エドワード・ジェンナーは、人痘接種と違って天然痘への生涯の免疫を付与しないことから、嫉妬深い競争相手や、彼の方法を信用しない多くの一般医師からの厳しい批判に曝されていたのだ。こうした批判への対抗措置として、ジョン・バロンは「乳搾り物語」を考案したのだ。
Sadly the milkmaid story is a lie invented by John Baron, Jenner’s friend and first biographer.3 Jenner himself never claimed to have discovered the value of cowpox, nor did he ever say, despite a huge volume of correspondence, how he first came across the idea. The myths of the milkmaids are just that, myths. To modern eyes, Jenner is revered for eradicating smallpox by using cowpox; in his lifetime, however, Edward Jenner faced severe criticism from jealous competitors and from many ordinary doctors who did not trust his method because, unlike inoculation, it did not give permanent immunity to smallpox. John Baron invented the milkmaid story to counteract these criticisms.

 この辺りの歴史を掘り下げるだけで一つ記事が完成するので簡潔にまとめると、牛痘の自然感染による天然痘へ"予防"効果に疫学的に初めて注目した人物はジョン・フュースター医師で、1760年代に論文を発表しており、そこから1770年代に最初に牛痘法を実践した人物は農夫のベンジャミン・ジェスティだ。つまり牛痘のアイデアはジェンナー自身の発見ではなく、実際ジェンナーは両者と交流があり、研究の前から牛痘の"効果"を知っていたものと思われる。故に、あくまでジェンナーはこの実践結果を初めて論文にまとめて科学の土台に上げただけの人物に過ぎない(Boylston AW,2012)。


更に言えば、ジェンナー以前までの医療行為を知ると、ジェンナーは「ワクチン=牛」を科学の土台で推し進めた人物であって、「疾患予防を目的として、疾患を人為的に発生させる医療行為」としての「予防接種」の歴史は紀元前のアーユルベーダに遡ることが分かる。ジェンナーは同じ医療行為の飼料に牛の膿を使うことを提案しただけだ。

奴等はこの疫病をキャッチ&リリースしてきた。遡ること…紀元前1600年、ア ー ユ ル ヴ ェ ー ダ の 創 始 者 が仲 間 の ヒ ン ズ ー 教 徒に膿 を ブ チ 込 ん だことに始まる。西暦700年頃にはタオニストが天然痘のカサブタをハフハフしていた。何か意味があるかといったら…まぁ無意味だ。

反ワクチン主義者=代替療法家の印象が根強い為に(実際歴史上目立つ反ワクチンは代替医療家が多い)、反ワクチン=反科学のレッテルを貼りたがる人々は、同時に代替療法=反科学と何も考えず繋げたがるが彼らが心酔して病まないワクチンのオリジナルは自分たちが忌み嫌って仕方ない代替療法が先祖であり、完全なダブルスタンダードであることにすら気付かないアホである。
※え?まさかワクチンを語ろうっていうのに酒井シヅ教授知らないとか言わないよね?(煽り)

この「二度なし現象」の記載は古代ギリシアだけではなく古代インドでもあったそうです。天然痘や病気をつかさどるインドの女神としてマリーアンマンが知られていますが、これは神話が書かれた時代に既にインドでは天然痘があったことを意味しています。天然痘の起源はよくわかっていませんが、およそ紀元前10世紀頃のインドではないかと言われています。そして紀元前に書かれた古代インドの聖典であるアーユルヴェーダには現代では人痘として知られる天然痘の予防ワクチンの方法が書かれていたとする説があります(注2)。
(中略)
古い文献の真贋については論争がありますが、ジェンナー以前に予防接種法があったことは現在広く認められています。ジェンナー以前にあったと認められている最も有名な方法は中国で使われていた天然痘の予防法です。いつ頃から中国で天然痘の予防法が使われていたのかについて3つの説があるそうです。
一つは8世紀に江南の趙氏という人物が天然痘の予防法を施したという説です。そして
二つ目の説は10世紀から11世紀にかけて徐州出身の女医が実施した説です。そして
三つめの説は16世紀には既に実施されていたが誰が始めたのははわからないとする説です。

熊本大学-免疫学講座
ジェンナー以前の免疫学

※人痘接種の具体的な方法は酒井教授の「日本における人痘接種の意義」に詳しい。そしてコイツはこの辺の経緯まで知った上で推進する輩である。

 英国にこの人痘接種を輸入した歴史上の人物はレディー・ウォートリー・モンタギューという英国トルコ大使の夫人だ。ご自慢の美貌を天然痘(※本当は掘り下げると…?)で失い、その苦い経験からメイトランド医師に頼み込んで娘に人痘接種を施し、"効果"を実感した所で本国に持ち込んだという歴史がある。この人痘接種をジェンナーは1757年、8歳の頃に経験し(Stefan Riedel, 2005)、数週間床に臥せることになる。

 トーマス・ダッドリー・フォスブロークが1821年に出版したBerkley Manuscriptに、ジェンナーが天然痘の予防法の研究に取り組んだ基盤に触れており、曰く、恐らく幼少期に端を発する。ジェンナーは8歳の頃に予防接種の準備体操を始めた。これは6週間続き、その間に瀉血・下剤投与・食事量の制限、"血液を甘くする為のダイエット飲料"が投与された。その後、"彼は当時よく使用された接種用の厩舎に移され、重症だが死には至らなかった患者と共に柵に繋がれていた。" 幸いジェンナーは軽い発作で済んだ。この出来事について、フォスブロークは次のように評している。
 「天然痘に感染した悲惨な経験がこの病気の撲滅の基盤にあることは、迷信ではなく伝記の中の注目すべき事件であり、この人物の性格に哲学的なバイアスがあることを強く示唆する反省後の印象と、悪の排除という見解の表れである。一般人ならこうした事件を、何時もの必然的な出来事と捉え、苛立ち、悪態と吐きつつ、いずれ忘れることだろう。」
In the Berkeley manuscripts, published by Thomas Dudley Fosbrooke in 1821, it is remarked that the foundations for Jenner's subsequent investigations on the subject of protection from Small Pox, were probably laid in an early period of his life. He was eight years of age when he was put under the preparatory regimen for inoculation. This lasted for six weeks, during which time he was bled, purged, kept on very low diet, and dosed with "a diet drink to sweeten the blood." After this "he was removed to one of the then usual inoculation stables, and haltered up with others in a terrible state of disease, although non died." By good fortune, Jenner escaped with a mild attack. Such is the incident on which Fosbrooke felt justified in making the following comment:-
 "It is, without superstition, a noticeable incident in a biographical account that the misery endured in the Small Pox process should have laid the foundation for the extermination of the disease, and it is strongly indicative of a philosphical bias in the character. It exhibits impression accompanied with reflection, and a view to the removal of the evil. Whereas common man takes such incidents as usual inevitable occurrences, feels irritable, swears stoutly, and then forgets." 

The History and Pathology of Vaccination(1889),E.M.Crookshank,p112

フォスブロークのこの記述は的を射ている。世界初の報告をする人間に「哲学的な偏り」があることは科学ではご法度だ。先入観を排し、客観的であることが科学の大原則である。

 話が逸れたが、要するに
・ジェンナー以前から「予防接種」には長い歴史があった
・ジェンナーは幼少期に予防接種を受けており、その経験が後の研究の動機に影響している
・牛痘の発見も効果もジェンナーのオリジナルではなく、あくまでジェンナーは論文にまとめただけ
・外見的な特徴のみを根拠にグリース=天然痘と考えた

ではここからグリースと牛痘、天然痘の繋がりは如何に生まれたか?

 乳業が盛んなこの地方では多数の雌牛が飼われていて、乳搾りの業務は見境なく男女の召使によってなされている。男の召使のあるものは踵炎に罹ったウマの蹄の手当をするように命じられ、清潔を充分に考えないで、不注意にも感染性物質の粒を指につけたままで雌牛の乳搾りを行っている。このようにすると病気が雌牛に伝染し雌牛から乳搾り女に移り、病気は農園内に広がり、最後に雌牛および家畜が不愉快な結果になる。この病気は牛痘の名前を得ている。これは雌牛の乳頭に不規則な膿疱として起きる。
(中略)
 このように、この病気はウマから雌牛の乳首に、次に雌牛から人間に進む。
 
種々の病的物質は体内に吸収されると、あるていど似た効果を示す。しかし牛痘の病毒※1の非常に特殊な点はこのように牛痘に罹った人々は後に人痘の感染にたいして安全なことである。人痘の毒気※2にさらされても、病的物質を皮膚に差し込んでも、この病症を発現しない。

※1 virus:現在のウイルスを意味するのではない
※2 effluvia = miasma = 瘴気

青空文庫

つまりジェンナーの考えは
①馬のグリースに手で触れた農夫が
②その不潔な手のまま乳牛の搾乳をする
③グリースが牛に移って牛が発病する=牛痘
④牛痘が人間に移ると、人間だけの疾患の天然痘の予防になる

というものである。

 農夫は馬から牛に病気を移し、かつ牛から病気をもらう立場でもある中継役ということになり、従って、グリース=牛痘=天然痘という図式を描いたわけである。だからジェンナーは正式なラテン語命名規則に則って、牛痘にVariola Vaccina(ヴァリオラ・ワッキーナ:「牛の天然痘」)の"学名"を与え天然痘(Variola Major:ヴァリオラ・マイヨル)と同等の地位に格上げしたのだ。

あまりにも荒唐無稽な推論に思えるが、某協会は以下のように絶賛している。

 1780年彼は、友人に「馬のかかとの病気が牛に牛痘を引き起こしているのであって、これが乳搾りの人を天然痘から防いでいるのだ。これを人の間で植え継いでいけば、天然痘を完全に絶滅させることができるだろう」と語っていた。彼が馬のかかとの病気と呼んでいたのは、グリース(現在は馬痘)と呼ばれる化膿病変のことである。これは関節やかかとに発疹が出来て化膿したのち、かさぶたになったのち治る。ジェンナーは、往診やロンドンに行く際など、いつも馬に乗っており、グリースについても良く知っていた。彼は、ナチュラリストとしてのすぐれた観察力により、牛痘はグリースが原因であって、グリースの手当をしたその手で乳牛の乳を搾った時に、牛に牛痘を移していると、判断したのである。
(中略)
 現在、ワクチニアウイルスは馬痘ウイルスが牛で継代された結果生まれたと考えられている。ワクチニアウイルスも天然痘ウイルスも、元は同じ祖先ウイルスに由来しており、ワクチニアウイルスのゲノムには天然痘ウイルスの遺伝子すべてが含まれている。馬のかかとの病気が天然痘を予防するというジェンナーのすぐれた観察力と洞察力が正しかったことが、ゲノム科学により証明されたといえよう

一般社団法人-予防衛生協会
104.ゲノム科学が明らかにしたジェンナーの天然痘ワクチンの由来
AccessDate:2022/9/29

 遺伝子だけを追いかけるとこんな視野狭窄に陥り、まともに現実が見えなくなる好例がここにある。

 ここまでで、ワクチン史の一般論を俯瞰してきた。ではこれらの推論に穏当に妥当性はあるのだろうか?

論点は
・グリースとは何か
・牛痘と天然痘に関連はあるのか
・牛痘=梅毒の真相
・ワクチニアウイルスは何故キメラウイルスなのか
・ジョン・ベイカーとは

ここから先は

7,947字 / 3画像

¥ 500

サポートで生き長らえます。。。!!