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二葉亭四迷

「月が綺麗ですね」。

かつて、好きな人にスマートフォンからその言葉をメッセージで送ったことが一度だけある。

すぐに返信が来たけれど、内容は覚えていない。
でも期待していた類の言葉じゃなかったので、即座に「違う」とだけ書いて送った。

嫌なヤツだ。
そして面倒くさい。

案の定、訳が分からないようで
「???」の後に
困ってる顔のスタンプが送られてきた。

困惑してるのも面白いので (ひどい) そのまま放置していたら、5分後にピコン、とスマートフォンから着信音が鳴った。
画面を開くと、

「死んでもいいわ」
という一文だけがその人から返ってきた。

ん?
何これ。どゆこと?

" I Love You" を月が綺麗だと意訳した夏目漱石の言葉はあまりに有名だけれど、二葉亭四迷のバージョンもあったのか、ということを私はその時に初めて知った。
もちろんネットで検索して調べたのだ。

そして、確実に私と同じようにGoogle先生から知恵を得て、あなた絶対それ調べてから私に送ってきましたよねのタイミングで、でもそれほど間を置かずに粋な返答をしてくれたその人のことが何だか嬉しくて可笑しくて、しばらく顔のニヤニヤが止まらなかったのを覚えている。

「よし。」

と、その人に短い返信を送ってから画面を閉じて、その夜はとても幸せに満ちた気分で眠りについた…ような気がする。

・・・・・

満月の日が近くなると、そんな日々が自分にも過去にあったなぁという事を、ふと思い出してしまう瞬間が、たまにだけど、ある。


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