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揺れる│詩

自転車
ペダルとチェーンのきしむ音が
ずっとずっと遠くまで
届く

そんな
美術部帰りの
冬の夜道
左手には
潮騒

すべらかな黒の海原
生まれたての
白い満月から滴る
波間にも光る道が

堤防にのぼり
風景の一部になれば
自分が
夜に透けてゆく

一時
空っぽになればいい
誰もいない海の前で

十代の
荒い感情たちも
色を手放し透けてゆく

潮の香りと油絵の匂い
香りによって浮き上がる
何かの境目

そう
境目はお前なのだと
堤防の硬い感触が告げる

仕方ない
なぜ?
行かなければならない
なぜ?
理由なんて
月と海は知らない

罪と罰には
冷めた気持ちが
波に映る月の欠片には
揺れる
揺れる

一人はいい
時折それが
自分を取り戻すための手段になる
潮騒にもわかるかい?
孤独の意味が

光る海に溶けて
どこまでも
広がっていけたなら

でも
油絵の匂いは嫌いじゃない
珈琲の香りがする先生も

街の音が聞こえる
瞳の中で光が
揺れる

2024/4/20

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