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朔の話 02┃日本酒のポテンシャル

コロナによって「スケジュールが真っ白に、お先が真っ暗に」なった僕が新しい事業のテーマに選んだのは「日本酒」でした。


日本酒のポテンシャル、三つの面

日本酒には大きなポテンシャル(伸びしろ)があると思っていました。日本における評価と、海外からのそれに大きなギャップがあったからです(もちろん、海外からの評価の方が高い)。

SUSHIやWASHOKUに合うという、これからの料理の潮流(別の記事で記述)の先で待ち構えているような「味」の面はもちろん。神道のような日本人らしい宗教観や、工芸や食など、さまざまな事がらと密接に結びついている「文化」の面もあります。

それらに加えて、最も伸びしろが大きいと思ったのが「地域のアイデンティティ」の面です。それに気づいたのは、仕事で訪れた福島県二本松市でした。


二本松の甘いお酒

「地域でほぼ消費されつくして、外部に出回らない酒がある」と聞いて、興味を持って飲んだ千功成(せんこうなり)さんのお酒が、めちゃくちゃ甘いと思いました。甘くて一合を飲みきれない。何でこんなに甘いのか、不思議に思って訊ねると、「そりゃあんた、いかにんじんに合わせるにはこれくらいガツンとしてないと」との答え。

小鉢の左側が「いかにんじん」

いかにんじん」とは二本松の郷土料理で、「するめいかとにんじんを細切りにし、醤油とざらめ、またはみりんの甘辛いたれに漬けたおかず」。味が濃くて、ご飯のお供に最高です。いかにんじんと千功成を一緒に合わせてみると・・・これが旨い。一合はあっという間に無くなります。そうか、中華料理に紹興酒が合うパターンか。味の濃い食事と濃い酒。肉料理やくせの強いチーズには重いワインを合わせる感じか。そう思いました。

そこで、思い出したのが地酒とテロワールの話。地酒にテロワールは語れるのか?と考えたことを思い出しました。


地酒とテロワール

僕の結論として、地酒にテロワールを語ることはできるが、それはワインと同じロジックではない、と思います。

ワインの味を決める最大の要素は、「ぶどうの品種」です(メルローからあっさりしたワインはできないはず)。そして、それぞれの品種には栽培に向いた土壌と気候があります。つまり、土壌と気候がぶどうの品種を選び、ぶどうの品種がワインの味を決める。土地にぴったり張り付いています。

一方で、日本酒の味を決める最大の要素は酒蔵の意思です。酒蔵が「こんな酒を作りたい」と考え、酒づくりの責任者である杜氏が、それに基づいて酒米、酵母、醸造方法などを選びます。酒蔵がどんな酒をつくりたいか、それは「地域(自分たち)らしさを表現できる酒」または「地元の人に支持される(=売れる)酒」であると思います。つまり、地域(自分たち)らしさや地元の好みが、味を決めると言えると思います。土地を含む、そこに住む人たちの気質、すなわち「風土」が酒の味を決めるのだと思います。


日本酒が風土を語る

日本で初めての高速道路が開通したのは1963年のこと、今のように物流が発達したのはここ最近のことです。それまでのライフスタイルは、今よりもっと地産地消だったはずで、地域で採れる食材、それを活かした料理、それに合わせた酒、数百年かけて完成したマリアージュが地域ごとにあったはずです(もっとも、どんな地域の食にでも合うという、今でいうナショナルブランドとしての「下り酒」というものもありました)。

過度にシステム化され、均一化された現代日本の風景の、少し前の風景を覚えているのは「日本酒」である。「日本酒は風土を語る」、そう思いました。


その大きなポテンシャルを、コロナ禍においてビジネスにできたら。海外から石油をじゃんじゃん燃やして運ばれてくるワインには大枚をはたく日本人に、何か新鮮な価値を提供できたら。かつて舶来のものこそ最上と言われた時代に、国内に美しいものを見出した千利休のような心持ちでした(なんて不遜な)。

はたして、それを継続できるビジネスモデルに落とし込むにはどうすれば・・? 試行錯誤をする毎日でした。

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