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たたかいのくるま

12月某日、テレビを見て3歳の息子が「これはなに?」と聞いてきた。見ると、海外の戦況を知らせるニュースだった。


ロシアがウクライナに侵攻した時、第二子の娘を出産した数ヵ月後だった。
娘を産むときに出血が止まらなくなって救急搬送、緊急手術ととんでもない量の輸血で命が繋がったわたしにとって、産科病院の攻撃、安全な場所で出産できない妊婦さんたち、泣き叫ぶ子ども、自国に残る父親と離れるあかちゃん……の数々の映像は本当に本当に悲しかった。
今も終わらないどころか、中東でもまた悲しい戦いが始まっている。生まれたての娘とまだ何も知らない息子を抱きながら、「あの子がもしこの子なら」の想像は止まらない。
なので、戦車が乾いた道をゴリゴリ進む映像を見て、ちょっと言葉に詰まった。
えっとね、えっとね。




あれは、戦いのための車なんだよね。バスとかパトカーとかじゃなくてさ。
戦いの車には爆弾が積んであってね、町に行って爆弾を投げるの。それで、お家が壊れてなくなっちゃったり、怪我したり、家族と離ればなれになっちゃったり、大変なことになるの。そういうね、悲しいニュースなんだよ。

ここまで伝えるの、しどろもどろだったかもしれない。3歳に伝わるようにどんな言葉を選ぶのか。
息子はここまでのわたしの話を聞いて、「ばくだんがとんでくるの?ばんってなっておうちがなくなっちゃうの?」と悲しい顔をした。

「うえから、ばくだんがおちてくるの?」「ようちえんとか、がっこうとか、おはなはどうなるの?」「パパとママはどうなるの?みんなどうなっちゃうの?ようちえんのおともだちは?」「どうろもせんろもなくなるの?」

そうだよ、町が壊れたり燃えたりして、お友達やパパやママと会えなくなっちゃう人もいる。そうやって怖くて寂しい気持ちになる人が、本当にいるんだよ。
「そうなんだ……」

息子はしばらく考えこんで、「ぼくのおうちにもくるの?」と聞いてきた。
うーーーんとねぇ……。今日は来ない…というか、しばらくは来ないと思うんだけど、絶対来ないってわけでは、ないんだよねぇ……。

えっとね、戦いの車が来ないようにね、大人たちは頑張ってるから。いっぱい勉強するのも、戦いの車が来ないように、するためなんだよね。
なんでかっていうとね、昔ね、本当に戦いの車がやってきたんだ。ママやパパが生まれる前、たぶん園長先生(見た感じ70代)が生まれるちょっと前じゃないかな…?
爆弾がたくさん落ちて来て、たくさんの人が悲しい気持ちになったのね。だから、ママたち大人は、もう二度と爆弾が来ないように、頑張ってるから、○○くん(息子)もお兄さんになったら、一緒に頑張ってもらいたいんだ。

「そうかぁ……。こわれたまちはどうなったの?もとにもどるの?」
元に戻すために、たくさんの人たちが頑張ったよ。時間もかかるしね。
「そうなんだ……」
「あのね、ぼくはたたかいのくるまにのらないよ。」
うんうん、そっか。ありがとうね。
「うん……」
「えんちょうせんせいは、たたかいのくるまがかえっていって、もうだいじょうぶだ、もうあんしんだ~っておもって、うまれたあかちゃんなのかなぁ」
うん、そうかもしれないね。たたかいのくるまがいなくなったら、あんしんだよね。


という、会話をした。
親として、うまく伝えられたかはわからないけど、息子はちゃんと考えてくれたと思う。というか正直、3歳でここまで考えてくれるとは思わなかった。

息子が戦争を悲しいと感じたなら、それで十分だと思う。



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