TAKUMIサメ男『フォーロン・ホープ 警視庁抜刀隊戦記』第1巻 達人次々死亡!? 抜刀隊設立秘聞

 西南戦争において薩摩軍に押される政府軍の切り札として投入され、戦況を変えたと言われる警視庁抜刀隊。本作は共にその抜刀隊に所属しつつ、対照的な性格の二人の剣士の姿を描く物語であります。幕末に敵味方として対峙した拓磨と礼二郎――二人は、数奇な運命の末に抜刀隊で再会することに……

 数では圧倒的に勝るはずの政府軍が、次々と血祭りに上げられていく西南戦争――その地獄の中でも特に恐れられた西郷軍の雷撃隊の猛者を、ただ一人で逆に叩き斬っていく警視庁抜刀隊所属の青年・石動拓磨。
 その場に現れたもう一人の抜刀隊員・最上礼二郎とともに雷撃隊を壊滅させた拓磨ですが、既に残ったのは二人のみ。二人は決戦を前に、ともに戦ってきた抜刀隊の仲間たちの姿を思い浮かべて……

 と、冒頭から如何にも恐るべき達人に見えた者たちが、さらなる達人たちによってあっさり倒されていく姿に度肝を抜かれる本作ですが――物語は、この西南戦争の死闘を序章に、抜刀隊設立当初に遡って語られることになります。

 明治維新を迎え、邏卒として市民の暮らしを守る、ある意味平穏な日々を送っていた拓磨。しかしある晩、不審な男たちの跡を追った拓磨は、山中の寺で真剣での闘技場が開催されているのを目撃することになります。
 そしてその中に礼二郎――かつて上野戦争で敵として相対したものの、その獣のような気迫が強烈な印象を残した相手がいるのを見た拓磨は、成り行きから彼と多数の相手の戦いの中に踏み込むのでした。

 我を忘れて戦った末、同僚の急報で警官隊が駆けつけた時には、その手を血に染めていた拓磨。しかし死を覚悟した拓磨の前に現れた川路利良は、彼に抜刀隊への入隊を命じるのでした。
 そして抜刀隊に集められた、いずれも一筋縄ではいかない「同僚」たちと対面する拓磨。その中には、幼い頃から川路の下で共に育った妹分の麗、そして礼二郎の姿が……

 冒頭で述べたように、西南戦争で多大な戦果を挙げたという抜刀隊。徴兵制によって集められた近代軍隊が、その経験と士気の差で西郷軍の元士族たちに敗北していった中、臨時に結成された部隊であります。
 文字通り抜刀して近接戦闘を繰り広げるという荒っぽい戦法はいかにもフィクション向きに感じられますが、本作はその抜刀隊に集まった面子が、いずれもはみ出し者というかならず者というか、とんでもない連中ばかりだった! という趣向で展開していくことになります。

 なにしろ、仲間内でも簡単に殺し合うし、そんな奴は容赦なく粛正されるしと、文字通り殺伐とした連中。上で述べたように、いかにも強そうな奴がいきなり殺されるという展開には、またしても驚かされます。
 正直なところ、この第一巻を通じてこの展開が続くのですが――一体誰が死ぬのか、誰が生き残るのかわからないため、誰に感情移入すればいいのかわからないのは、ちょっと困ったところではあります。
(冒頭に拓磨と礼二郎が回想する面子は、まあ終盤まで生き残るのだと思いますが……)

 もちろん、この油断ならない展開が、本作ならではの、刺激的な味わいであることは間違いありません(言うまでもなく、それにはクライマックスから語り起こすというスタイルが大きく作用しています)。

 この巻のラストでは、抜刀隊の初任務である岩倉具視暗殺阻止作戦が描かれますが、この時点でまたもや誰が死んでもおかしくない戦いが展開されます。はたしてこの戦いが――そしてこの物語がどこに落着するのか、この先も何が起きてもおかしくない物語を注視したいと思います。

 ちなみに本作、シリアスに人が死ぬ一方で、コミカルな描写も多いのですが――頭に常に折れた刀身を刺している奴は、笑っていいのかどうなのか、大きく心をかき乱されるところであります。
(これがまた結構強豪っぽいキャラだけに……)


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