ウルトラマンリーズ 第十五話(最終話)「負け逃げ」

第十五話(最終話) 負け逃げ
地底怪獣 マグラー
豪力怪獣 アロン
地底怪獣 デットン 登場

登場人物

新田 光一(22)…文化交流センター職員
ルパーツ星人イナムラ
ペロリンガ星人モギ
マノン星人ジョウガサキ
ブラック星人シライ
スチール星人ウエノ
ツルク星人ヤマオカ
グローザ星系人クボ
ガルメス人ハイダ
ゴールド星人カワシマ
ゾベタイ星人ユリ
記者B
高須…元M.O.V.隊員
オペレーター…元M.O.V.隊員
中原防衛大臣
岡去(おかざり)総理大臣
市民A
市民B
ナレーター(野茂厚司)
TVアナウンサー(声・新規)
ウルトラマンリーズ
マグラー
アロン
デットン
レッドキング

◯夢の中・川崎市多摩区住宅街(夜)

変身解除した新田とファイター一号二号から降りた高須、オペレーター。

高須「久しぶり新田君」

新田「いやーお二人ともお久し振りです」

オペレーター「ここはバクゴンが大量の夢を一気に食べるために我々の夢を繋ぎ合わせた世界です。バクゴンが死んだ今、ここも間もなく消滅するでしょう」

高須「あっ、そうそう。だから本当に言わなきゃいけない事を一つだけ言うぞ。いいか、君んとこの今のボス、ルパーツ星人イナムラは地球を侵略しようとしている」

言い終わるより早く夢が崩れていく。

◯多摩区住宅街上空・宇宙船内(夜)

ハッとして目覚める新田。

◯テレビ局喫煙所(夜)

イナムラ「それは君が侵略っていう言葉の意味っていうのをどういう風に解釈してるかだよね。侵略っていうのは、自分の利益のために他人(ひと)の土地を暴力を使って奪い取る事だと私は思ってるんだけど。私はそういう事はしない」

記者B「私は……利益の有無、暴力の有無に関わらず、他所から来た人が現地の人間に受け入れられないままその土地で実権を握ったらそれはもう侵略と言うと思います」

イナムラ「だとしたら私は今は侵略者ですけどもうじきそうじゃなくなりますよ」

◯多摩区住宅街上空・宇宙船内(夜)

夢から覚めてしばらく経ち落ち着いた新田、ジョウガサキ、ウエノ。

新田「さっき二人が言ってたのって……」

ジョウガサキ「ある意味では正しいし、ある意味では正しくない。でも私は正しくないと思う」

◯多摩区住宅街(夜)

停車した高須の車とオペレーターの車。
車から降りた二人が見上げる空の先に新田達が乗る宇宙船。カモフラージュを行い、薄くなって消える。

高須「もう会う事はないのかね」

オペレーター「それは新田さん次第だと思います」

◯官邸・部屋

長テーブルの中心に手を膝に置いて俯いて座る中原。その背後を左右に無意味に行ったり来たりしているイナムラ。

中原「そしたら次はどうしたらいいですか」

イナムラ「(行ったり来たりしながら)我々宇宙人があなた方政府に協力を申し入れたと発表して下さい。別に時期を先延ばしにしただけで嘘を言う事にはなりませんから」

◯会見会場

会見する中原。

中原「えー、彼らは昨年十月の怪獣三体同時出現の後、怪獣と戦い続けてきた存在を自称し、今回、地球に正式に協力を申し入れてきたというものであります。えー、協力を受けるかどうかの返答については、『ゆっくり考えて決めてほしい』という事でしたので、これから対応を協議していく、いきたいと思います」

◯テレビ画面内・会見会場

引き続き会見の様子。

T(右上)「政府が緊急記者会見 「宇宙人 政府に接触」」

記者B(声)「宇宙人はその文言通り、というか日本語を使ったんですか?」

中原「はい、そうです、日本語です」

◯文化交流センター・オフィス

ホワイトボードにプロジェクターで会見の様子が映されている。イナムラ以外の職員全員がオフィスに居てコンビニのおにぎりや菓子パンやトムヤムクンカップ麺等を食べている。新田だけ何も食べず画面をまっすぐ見ている。

新田「これがやりたくてずっと怪獣退治やってたんですか」

ジョウガサキ「これがやりたくてっていうか、あれもこれも地球のためになるってイナムラさんは考えてるんですよ、考えてるっていうか私もそう思いますし。あの人、この地球に来たのと同時に政府に地球の危機を伝えて、後に我々他の宇宙人がスムーズに受け入れられる土台を作ろうともしたけど、地球人は自分達の手で地球を守るっつってモブを組織した。でもそんなの絶対無理じゃないですか。だからあそこにあなたを配属させたりしてたんですけど案の定壊滅して。それで我々が直接怪獣と戦えるようになって、地球人に我々が地球を守る様を見して、我々が今度は地球全体に受け入れられるようになった上で、今、やっと我々が本当の意味で公になる時が来たんですよ。全部地球を守るためにやってる事です」

新田「そこまでしないと地球人はあなた方を信じなかったですか」

ジョウガサキ「仕方ないってのは分かってますよ」

警報が鳴る。クボ(菓子パンを食べながら)、カワシマ(トムヤムクンカップ麺を食べながら)、自分のデスクのパソコンを覗きこむ。

クボ「怪獣出現。またかぁ、三体同時です。場所は、あぁここですね」

オフィスの窓を見るクボ。その先にマグラー、アロン、デットン。

新田「まさか呼んだんじゃないでしょうね」

ジョウガサキ「(心外)そんな事する訳ないじゃないですか。地球のためにやってんのに。早くやっつけに行きましょう」

ジョウガサキ、三体が見える窓を開ける。町が壊れる音と市民の悲鳴が聞こえる。ジョウガサキ、振り返ってオフィスを出る。ウエノ続く。新田、ジョウガサキが開けた窓に向かって変身。光になって外に出る。

◯文化交流センタービル前

仁王立ちするリーズ。背後に文化交流センタービル。正面にこちらに進行するマグラー、アロン、デットン。向こうから逃げて来る市民の大群。普通にビルの玄関から出てきたジョウガサキとウエノ、巨大化。

市民A「あっウルトラマンだ。あっ人面と黄色ギザギザだ」

市民B「やっぱりあいつらなんだよな? さっきの、怪獣と戦い続けてきた宇宙人達って。ウルトラマンも……」

市民A「いや、ウルトラマンは他の宇宙人より前から一人で戦ってたよなぁ?」

市民B「でもほら、いつも通り連携プレイみたいなことしてるし」

三対三で入り乱れて戦うリーズ、ジョウガサキ、ウエノとマグラー、アロン、デットン。
ジョウガサキ、掌から光弾発射。マグラー、腹で受けながら突進、リーズに体当たり。マグラーとリーズ、取っ組み合いになる。
ウエノ、ジョウガサキ、アロンにビームと光弾発射。アロン、滑空して回避しつつウエノに接近、両手の爪で斬りかかる。ウエノ、両手でアロンの両手を掴んで受け止める。
ジョウガサキ、デットンに光弾を撃ちつつ接近、殴る。殴られたデットン、踏ん張ってジョウガサキの腕に噛みつく。ジョウガサキ、デットンの頭に手刀を入れる。
取っ組み合っていたリーズとマグラー、リーズを下にして倒れそうになるがリーズ、体勢を入れ替えてマグラーを下にして倒れる。リーズ立って距離を取る。
ウエノ、アロンの手を掴んだまま腹からビーム発射。アロンに直撃。
ジョウガサキ、デットンを光の剣で袈裟懸けに斬る。
リーズ、マグラーにL字光線発射。直撃。
三体を倒した後、直立するリーズ、ジョウガサキ、ウエノ。上空を宇宙船が飛ぶ。
宇宙船のスピーカーからクボの声。

クボ(声)「地球の皆さん、この星を我々に守らせて下さい。もう皆さんが武器を持つ必要は無いのです」

リーズ、ジョウガサキ、ウエノを見上げる市民達、だんだん『こいつらに任しとけば安心だ』みたいな爽やかな笑顔になっていく。

◯テレビ画面内・ニュース・表

『NHKニュース』内の世論調査。

T(左上)「NHK世論調査」

N「先月八日、地球を守る存在を自称する宇宙人団体が政府に公式な協力を申し入れたという発表があった事について、協力を受け入れるべきかどうか聞きました」

T(上)「宇宙人団体 地球防衛の申し入れ」

N「『受け入れた方がよい』が七%、『どちらかと言えば受け入れた方がよい』が五十一%、『どちらかと言えば受け入れなくてよい』が二%、『受け入れなくてよい』が五%、『分からない』が十五%、無回答が二十%でした」

◯文化交流センター・オフィス

ホワイトボードにプロジェクターで世論調査が映されている。イナムラ以外の職員全員がオフィスに居てコンビニのおにぎりや菓子パンやトムヤムクンカップ麺等を食べている(新田含)。

◯官邸・部屋

長テーブルの中心に手を膝に置いて俯いて座る中原。その背後を左右に無意味に行ったり来たりしているイナムラ。

中原「友好記念式典の日程が決まりました」

イナムラ「(行ったり来たりしながら)オッケーです。これで我々宇宙人があなた方地球人を心置きなく守ることができます。素晴らしいことです」

中原「あなた方との関係がこういう形に納まり残念です」

イナムラ「私は残念じゃないですけどね。いいんじゃないですか、勝てなくても、戦ったっていう事実が残れば」

◯文化交流センター・廊下

書類を持って歩くシライ。後ろから来る新田。

新田「あの」

シライ「何ですか」

新田「自然空間出入口の研究ってあの後どうなってますか」

シライ「あー、そうですねー、開けるのは簡単だけど完全に閉じたり未然に開くのを防いだりっていうのはまだよく分からないっていう感じですかね。とりあえず当面は発生を予測して、被害を無くすんじゃなく減らすっていう方向で行くしか無いですね。もちろんこっちも頑張って未然に防ぐ方法は何とかして見つけますけど」

新田「そうですか。あと今日ってイナムラさん帰って来るんですよね」

シライ「はい」

新田「何時ぐらいですか」

シライ「分かんないですけど、九時ぐらいじゃないですかね、分かんないですけど」

シライ、怪訝な顔をする。

◯同・玄関(夜)

イナムラ、会社カバンを持って軽くウキウキで帰宅。

イナムラ「ただいまぁー」

新田、ヌッと現れる。

新田「お帰んなさい」

イナムラ「(おどけて)おっ! ちょっと背ぇ伸びた?」

新田「イナムラさん、何でそこまでして地球を守ろうとするんですか」

イナムラ「(真顔)地球人だけではそれができないから」

新田「じゃあ何で宇宙人のあなたがそこまでして地球を守ろうとするんですか」

イナムラ「(穏やかに)最初は仕事だったんだけどね。仕事っていうかボランティアだけど。地球の中でも似たような事やってて笑ったんだけどさ。『貧しい人々を救おう!』みたいな。あんな感じ。でさ、ぶっちゃけ最初この話が来たときはマジかよめんどくせって思ったんだけどさ、住めば都っていうか、実際来てみたら結構気に入っちゃってさ。やっぱちゃんとやろうって思って。手っ取り早く環境を整備するためにちょっとアレな手は使ったけど。だからまぁ、この地球を他所から来る怪獣から守って、最終的に自然空間出入口を閉じるのは我々文化交流センター第一地球支部の使命であるわけなんだよ。分かるね」

新田「分かりました。でもあなたに任すしかないですもんね」

イナムラ「え? 新田君もこれが侵略だとかそういう事を思ってるの?」

新田「いや思ってないです。思ってないですけど、あの、長引く感じだったら戦い方と自然空間出入口の閉じ方だけ人間に教えてもらって帰ってもらってっていう感じでもいいんじゃないすか」

イナムラ「人材育成なんかしてる暇があったら我々だけでやった方が早いじゃん」

◯同・オフィス(夜)

新田、イナムラ、シライ以外の職員全員、風呂上がりでバスタオルで頭を拭いたり美顔ローラーを使ったり顔にパックを貼ったりコーヒー牛乳を飲んだりしながらパソコンに向かいダラダラと残業しているが全く捗っていない。

カワシマ「私達、あとどんぐらいここにいるんでしょうね」

ウエノ「まだ先は長いだろうね。何、帰りたくなった?」

カワシマ「まさか。やりがいのある仕事だと思います」

◯同・玄関(夜)

イナムラ「そんな事よりさ、ちょっと頼みたい事あんだけど。頼みたい事ってうか仕事だけど」

新田「何ですか」

イナムラ「宇宙人と地球人の友好の架け橋になって欲しい。いや別にそんな難しい事する訳じゃなくて、今度の式典とか、ああいう場で人前に立って私が書いた原稿見ながらスピーチとかしてくれたらいいのよ」

◯同・オフィス(夜)

ハイダ「しかしあれですね、いよいよ現実的になってきた感じしますね」

ユリ「ね。身が引き締まるというか」

ハイダ「でも何か怖くないですか」

ユリ「何が?」

◯同・玄関(夜)

新田「何で僕なんですか」

イナムラ「そりゃおめぇ、新田君が宇宙人と地球人のどちらでもあるからじゃん。この役割に君ほどの適任は他にいないって思ってたですよ」

新田「俺が宇宙人……?」

◯同・オフィス(夜)

クボ「これでやっと地球の人達が安心して生活できるようになるんですね」

モギ「(真顔)うん。とっても良い事だと思うよ」

◯同・玄関(夜)

イナムラ「だってそうじゃん。いや、言いたい事は分かるけど、結果的にはそうじゃん。昔の君と今の君はもう違うものなんだよ」

新田「……」

イナムラ「まあ、じゃあ前向きに検討しといてな」

◯同・オフィス(夜)

ジョウガサキ「やっぱり彼が来てくれて良かったって思ってます?」

ヤマオカ「それは皆そうでしょう」

ジョウガサキ「でも何でそう思ってるかっていうのは皆違うんじゃないですか」

◯同・玄関(夜)

新田「じゃああなたはどうするんすか」

イナムラ「私はずっとこのポジションに居たいと思う」

新田「あくまでも裏から全部動かしていたいんですね」

イナムラ「言い方悪いよそれは。でもだってそれが一番楽だし賢いやり方なんだからさ。そういう所はもっと柔軟になっていきたいよね。全体として。意識的に」

◯式典会場

記者B(声)「我々地球人と、宇宙人団体『星の希望の星』の間で行われる友好記念式典の開会式で、岡去首相と『星の希望の星』代表、マノン星人氏が面会します」

客席に報道陣。檀上中央下手側に岡去、上手側にジョウガサキが立つ。二人の後ろ、下手に中原、イナムラと政府関係者四人、上手にモギ、シライ、ウエノ、クボ、ハイダが座る。岡去とジョウガサキ、にこやかに握手を交わす。

岡去「ア、アイホープ」

ジョウガサキ「日本語で大丈夫ですよ」

ジョウガサキ、奥に座るイナムラと目が合い互いに軽く頷く。

◯文化交流センター・個室

ベッドに座り電話する新田。

新田「あ、もしもし、うん、いや、順調順調。でさ、あの順調すぎてさ、ちょっと遠くに行くかも知んない。いや、左遷じゃなくて。うん。であの、結構忙しくなるから」

◯同・個室前廊下

カワシマ、個室のドアの横で壁に寄っ掛かっている。

新田(声)「うん。もっと。モア。うん」

◯同内・宇宙船内

両手一本指の不馴れな様子で操作パネルをいじる新田。出入口が開く音。

ユリ(声)「(冷静に)何してんすか」

新田振り向く。出入口にカワシマとユリが立っている。新田、右手で操作を続けながら左腕だけウルトラマンのそれに変化させ二人の方に向ける。その掌が光っている。

新田「ちょっと使わせてもらいます。大丈夫です壊さないんで」

ユリ「イナムラさんがあなたがここを逃げ出すかも知れないって。何がそんなに不満なんですか。あなたには立派な役目が与えられていたっちゅーのに」

新田「あんたらには分からないですよ……あっこれかな」

新田、右手人差し指でパネルの中の一つのボタンを押す。宇宙船が起動する。

新田「あよっしゃ……ドア閉めるから入るか出るかして。危ない」

カワシマとユリ、顔を見合せ少し悩んでから宇宙船内に入る。直後ドアが閉まり、宇宙船上昇。新田、左腕を人間のそれに戻す。両手でパネルを操作して宇宙船から大迷惑粒子を散布。

新田「丁度いいや、帰りはこれ運転してビルに戻しといてくれないすか」

窓の外に自然空間出入口発生。新田、外に降下。

◯文化交流センタービル前

自然空間出入口が発生している。上空の宇宙船から降り立った新田、出入口の方に歩いて行く。と同時に出入口が閉じていき、新田が入った後閉じる。

◯式典会場裏・廊下

式典が終わり、出席者達がフラフラしている。スマホで電話していたハイダ、電話を切って廊下の向こうにいるイナムラに近付く。

ハイダ「(大袈裟に)あっ! お疲れ様でしたー!」

イナムラ「(大袈裟に)あー! こちらこそー! お疲れ様でしたー!」

ハイダ「(大袈裟に)この歴史的な式典に出席できて嬉しく思いますー! (小声で)新田さんダメだったそうです」

イナムラ「(小声で)そう、しょうがないね……(大袈裟に)地球は我々の手で守っていきましょう!」

二人、握手。

◯別の地球・立川市街地

妙に小綺麗な町を進行、破壊するレッドキング。新鮮に驚き逃げ惑う人々。

TVアナウンサー「現在東京都立川市曙町に、えー怪獣と言えば良いのでしょうか、正体不明の巨大な生物が出現し、周辺の建造物を破壊しています……」

上空に黒い霧発生、中から赤い玉が飛来して落下。土煙と黒い霧の中から人々に背を向け、レッドキングの前に立つウルトラマンリーズが現れる。

(完)

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