ウルトラマンリーズ 第十四話「大規模宣伝」

第十四話 大規模宣伝
夢幻怪獣 バクゴン 登場

登場人物

新田 光一(22)…文化交流センター職員
ルパーツ星人イナムラ
ペロリンガ星人モギ
マノン星人ジョウガサキ
ブラック星人シライ
シライ人間態
スチール星人ウエノ
ツルク星人ヤマオカ
グローザ星系人クボ
クボ人間態
ガルメス人ハイダ
ハイダ人間態
ゴールド星人カワシマ
ゾベタイ星人ユリ
安藤…元M.O.V.隊長(再登場)
町山陽子
記者A(再登場)
記者B(再登場)
高須…元M.O.V.隊員(再登場)
オペレーター…元M.O.V.隊員(再登場)
番組スタッフ
平田正則
中年男性
中年男性の妻
中年男性の子供
ヤンキーみたいな女
ヤンキーみたいな女の夫
自撮りカップル女
自撮りカップル男
ラーメン屋
ナレーター(野茂厚司)
ウルトラマンリーズ
バクゴン

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

二十二時数分前。会議用テーブルに着席し、NHKが映ったホワイトボードのプロジェクターを見つめるイナムラ・ユリ・モギ以外の職員ら。何人かが持ってきたビニール袋からコンビニの飯を出して全員で食べ始める。ドアが開いてユリとモギが入ってくる。

カワシマ「もう始まっちゃいますよ!」

ユリとモギ、『そこまで興味ないんだけど空気を読んで興味ある感じを出した方が良いのは分かってるけどでも興味ない』みたいな感じの早歩きで着席。
時計がちょうど二十二時になる。テレビ番組『現状ロングショット』始まる。

◯テレビ画面内・タイトル映像

流麗なBGM。『現状ロングショット』の番組名ロゴ。

◯同・神奈川県川崎市多摩区・住宅街(夜)

画面左上に小さく番組名のロゴと『LIVE』の文字(以降、テレビ画面内にずっと)。後のVTRと同じ手ブレの映像。住宅街を鳴き声をあげ徘徊するバクゴン。

記者A(声)「あっ、出た! 出た! 出ました!」

T「(スタッフ)出た 出ました」

T(左下)「語り 野茂 厚司」

N「毎晩現れる、実体のない怪獣……立川怪獣災害以来、現れ続ける怪獣達。その中で私達は今までと異なる、怪獣による被害に直面しています」

T「実体のない怪獣…/今までと異なる被害…」

◯同・平田宅・リビング

後のVTRと同じ映像。

T(左上・ロゴの下・四角囲み)「音声は変えています」

ソファーに座り、首から下だけ写った平田。

平田「(ボイスチェンジャー)もうホントにねぇ、怖くて眠れないんですよぉ」

T「本当にね 怖くて眠れないんですよ」

N「町を壊す事なく人々を苦しめる怪獣に、我々はどう向き合えば良いのでしょうか」

◯同・文化交流センタービル・オフィス

後のVTRと同じ映像。パソコン画面の静止画。

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

新田「あっここのだ」

◯テレビ画面内・番組スタジオ(夜)

テーブルに着席した町山、安藤、イナムラ。

町山「(カメラ目線)こんばんは、現状ロングショットです」

T「町山 陽子」

画面下部にTwitterの投稿が表示される。

T(Twitter)「はじまたー @kingdomcome2003 ツイートは#現ロン 黄 表示を消す/町山さーん @ryoukunpapa ツイートは#現ロン 黄 表示を消す」

◯文化交流センター・オフィス(夜)

ヤマオカ、苦虫を噛み潰したような顔をしてリモコンを勢い付けて掴み黄ボタンを思いっきり押す。

◯テレビ画面内・番組スタジオ(夜)

Twitterの表示が消える。

町山「(カメラ目線)えー既にご存知の方も多いかと思いますが、約一ヶ月前の二月二十三日以降、神奈川県川崎市多摩区の住宅街に毎晩0時ごろ必ず同じ怪獣が出現するという現象が続いています。しかし、現在までにこの怪獣—バクゴンによる人的被害や建物被害は出ていません。バクゴンには実体が無く、人も建物もすり抜けてしまうからです。しかし、周辺住民は様々な理由により別の問題……不眠に悩まされています。えー今日は防衛省怪獣対策課の稲村和広さん、それからモブ、モンスター・オフェンス・ヴァンキッシュの元隊長で、現在は怪獣災害評論家の安藤満敏さんのお二人に、私達はあの実体のない怪獣にどう対処していけば良いのか、お話を聞いていきたいと思います」

自信に満ち溢れたイナムラ。

T「防衛省怪獣対策課 稲村 和広」

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

カワシマ「あっ出た」

◯テレビ画面内・番組スタジオ(夜)

顔色が悪く、痩せた安藤。

T「怪獣災害評論家 安藤 満敏」

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

新田驚く。

◯テレビ画面内・番組スタジオ(夜)

町山「えーよろしくお願いします」

イナムラ「よろしくお願いします」

安藤、頭を下げる。

町山「(カメラ目線)えーではまずこの約一ヶ月間何が起こっているのか、改めて確認していきたいと思います。こちらをご覧下さい」

◯同・多摩区・住宅街(夜→明け方)

T(右上)「『実体のない怪獣』その被害とは」

画面右下にワイプ(以下VTR中はずっと)。徘徊するバクゴン。

T「先月23日」

N「先月二十三日深夜、川崎市多摩区の住宅街に現れた怪獣。直後に避難指示が発令され、住民は市の体育館に避難しました。しかし」

ウルトラマンリーズ出現。バクゴンと戦闘するがリーズの殴る蹴るがバクゴンの体をすり抜ける。

N「その後現れたウルトラマンとの戦闘で、怪獣に実体が無い事が確認されました」

明け方。リーズはいなくなっている。バクゴン、薄くなって消える。

N「怪獣は明け方、姿を消しました。怪獣による人的被害、建物被害は一切ありませんでした。当時、避難した住民は」

避難所から帰宅する人々へのインタビュー。一人目、パジャマの中年男性。横に嫁と子供。

T「住民は―」

中年男性「いやー驚きましたよ、でも思ったよりダイジョブでしたね」

T「いや 驚きましたよ/でも思ったより(被害は)大丈夫でしたね」

二人目、田舎のヤンキーみたいな格好の若い女。

ヤンキーみたいな女「怪獣に逃げられたんですよね? ウルトラマン。また出て来られたら困りますよねぇー」

T「ウルトラマンは怪獣に逃げられたんですよね?/また出て来られたら困りますよね」

三人目、バクゴンとの戦闘を切り上げて変身解除した所をインタビューされた新田。

新田「怪獣がお化けみたいにすり抜けるのはびっくりしました。何なんすかねあれ」

T「怪獣がお化けみたいに(ウルトラマンの攻撃を)すり抜けるのはびっくりしました/何なんですかね あれ」

ワイプ内、ちょっと驚くイナムラ。切り替わって安藤はめっちゃ驚いている。

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

職員一同、新田を見る。

新田「いや、帰り際に急にインタビューされて……」

◯テレビ画面内・多摩区・住宅街(夜)

T「先月24日」

N「翌日。怪獣は再び、前日とほぼ同じ時刻に現れました。番組は、怪獣が出現する瞬間を撮影する事に成功しました」

オープニングと同じ手ブレの映像。住宅街を鳴き声をあげ徘徊するバクゴン。

記者A(声)「あっ、出た! 出た! 出ました!」

T「(スタッフ)出た 出ました」

N「前日と同様に避難指示が発令されましたが、避難した住民は前日の六割程度でした」

◯同・テレビ局モニター室

モニター群を背に座るイナムラ。

T「防衛省怪獣対策課 稲村 和広」

イナムラ「やっばりその土地に住む方々にとって避難っていうのは肉体的にも精神的にも大変な事ですから。それが二日続くってなったら、昨日大丈夫だったから今日も大丈夫だろ、とか、避難しなくていいだろ、って思う人が多くなっちゃうのは認めざるを得ないでしょうねぇ」

T「やはりその土地に住む方々にとって避難というのは肉体的にも精神的にも大変な事ですから/それが二日続くとなったら「昨日大丈夫だったから今日も大丈夫だろう」「避難しなくていいだろう」/と思う人が多くなってしまうのは認めざるを得ない」

◯同・多摩区・住宅街(夜)

バクゴンの前に立つリーズ。タブレットを持ち路上で二体を眺めるシライ、ハイダ。

N「なお、この日はウルトラマンの他に二体の宇宙人が現れましたが、いずれも戦闘は行いませんでした」

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

ジョウガサキ「撮られてんじゃん」

ハイダ「いや完全に油断してました」

新田「この時の観測データってどうだったでしたっけ」

シライ「ええ、取ったは取ったんですけど、まだ不十分で」

新田「あーそれで……」

◯テレビ画面内・多摩区・住宅街(夜)

T「先月25日」

鳴き声をあげて住宅街を徘徊するバクゴン。

N「怪獣は三日目も現れました。避難指示が発令されましたが避難した住民はほとんどいませんでした」

T「先月26日」

鳴き声をあげて住宅街を徘徊するバクゴン。

N「四日目に怪獣が現れた時、避難指示は出ませんでした。それ以降、政府の発表でバクゴンと命名され、同時に「実害はない」ともされたこの怪獣は」

T「「バクゴン」 政府「実害なし」」

N「今日まで毎晩出現しています。『バクゴンに実害はない』とするこの発表の内容を疑問視する声も多く挙がっています」

◯文化交流センター・オフィス(夜)

カワシマ「この発表やっぱりおかしかったですよね」

ウエノ「何か、急いで出した感じがする」

モギ「一枚岩じゃないって事だな」

◯テレビ画面内・平田宅・リビング

T(右上)「相次ぐ不眠被害…住民の苦悩」

顔にモザイクのかかった平田、ソファーに座っている。

N「この住宅街に住む平田正則さんです」

T「平田 正則さん(仮名・53歳)」

N「平田さんはバクゴンが現れるようになってから一週間が経った頃から、不眠に悩まされるようになったといいます」

T(左上・ロゴの下・四角囲み)「音声は変えています」

オープニングと同じ映像。ソファーに座り、首から下だけ写った平田。

平田「(以下ボイスチェンジャー)もうホントにねぇ、怖くて眠れないんですよぉ」

T「本当にね 怖くて眠れないんですよ」

カットが入って平田がブレる。

平田「もうね、すぐそこに怪獣がいるっていう事自体がもう恐怖? ですしね」

T「すぐそこに怪獣がいるという事自体が恐怖」

カットが入って平田がブレる。

平田「あれに食われる夢とか見るんですよ。本当に寝れたもんじゃないですよ」

T「あれ(バクゴン)に食われる夢を見るんですよ/寝れたもんじゃない」

◯同・円グラフ

N「この住宅街の住民百人に無差別にアンケートを実施した所、九十七人がバクゴンの出現以降不眠に悩まされていると回答しました」

◯同・テレビ局モニター室

モニター群を背に座るイナムラ。

T「防衛省怪獣対策課 稲村 和広」

イナムラ「やっぱり実体が無くて、単にビルを壊したり人を襲ったりっていう事が無くてもこういった形で被害っていうものは『出る』んですよね。これはもはや『実害』と言っても過言ではないと言わざるを得ないと思います」

T「実体が無くて単にビルを壊したり人を襲ったりっていう事が無くても/こういった形で被害というものは出る/これはもはや実害と言っても過言ではない」

◯同・平田宅

ソファーに座り俯く平田の首から下。

N「不眠の被害に苦しむ住民たち。怪獣大国・日本に暮らす私達は、この実体のない怪獣とどう向き合えば良いのでしょうか」

◯同・番組スタジオ(夜)

町山「(カメラ目線)はぁい(イナムラを見る)、という訳なんですが稲村さん」

イナムラ「はい」

町山「これ今現在は住民の皆さん避難とかできないのかという疑問なんですけど、最初の三日間は避難指示が出てたんですよね?」

イナムラ「はい。しかし今もう一度避難指示を出せるかというとそれは難しくてですね。何故かと言うと怪獣災害による避難指示が発令される基準というのは(手元の資料を見る)『周辺に甚大な被害、特に人的被害が発生する恐れが非常に高い場合』なんですね」

T「「周辺に甚大な被害 特に人的被害が発生する恐れが非常に高い場合」」

イナムラ「で最初の三日間は実際にそういう恐れが非常に高い、という判断があったから指示が出たんですけど、一度、もういわゆる『実害』がない、と判断された怪獣に対しては、状況が大きく変わらない限りまた避難指示が出るって事はほぼ無いと言わざるを得ないですね。県や市もいつまでも無料で避難所を解放して食料を配給する訳にはいかないですから。後はさっきVTRで私が言ったように、住民の不眠が『被害』と認められるかどうかっていうのが一番の問題になってきますね。いずれにせよ怪獣が最初に現れてから数日経って初めて被害が出るっていう、今回のケースは極めて珍しいと言わざるを得ないですね」

町山「なるほど、安藤さんはいかがですか」

安藤「(不意に話を振られてキョドる)えー、あー、稲村さんの仰る通りだと思います」

◯文化交流センター・オフィス(夜)

新田「あー……」

新田の反応を訝しげに見る職員ら。

◯テレビ画面内・番組スタジオ(夜)

町山「(カメラ目線)えー怪獣出現から約二週間後、さらに新たな問題が発生するようになりました」

◯同・多摩区・住宅街(夜)

T(右上)「新たな問題発生 怪獣マニア…無許可営業…」

N「怪獣出現から十五日後」

T「今月10日」

バクゴンを背に自撮りするカップル。

記者A(声) 「すいません! すいません」

T「(スタッフ)すいません」

自撮りカップル女「なんすか」

T「何ですか」

記者A(声)「ここの人ですか」

T「(スタッフ)ここの人ですか」

自撮りカップル女「いや、違いますけど」

T「いや 違いますけど」

記者A(声)「どこから来たんですか」

T「(スタッフ)どこから来たんですか」

自撮りカップル女「千葉です」

T「千葉です」

記者A(声)「何しに来たんですか」

T「(スタッフ)何をしに来たんですか」

自撮りカップル男「あの、写真撮りに。ここで見れるっていうんで」

T「(怪獣の)写真を撮りに ここで見れるっていうので」

路上に停まるラーメン屋の屋台。記者A、中に入る。ラーメン屋の男が調理をしている。

ラーメン屋「いらっしゃい」

記者A(声)「すいませんNHKなんですけど、どうしてここで屋台をやられてるんですか」

T「(スタッフ)どうしてここで屋台を」

ラーメン屋「この時間帯、ここに人がいっぱい来るっていうんで」

T「この時間帯にここに人がいっぱい来るっていうので」

店の外でバクゴンの鳴き声。

記者A「営業の許可とかは取ってらっしゃるんですよね?」

T「(スタッフ)営業の許可は取っている?」

ラーメン屋、無言。

T「……」

シライ人間態、ハイダ人間態、カワシマ、ユリ、屋台に入ってくる。脳波測定器が五個入った紙袋をユリは二袋、それ以外の三人は一袋ずつ持っている。

ユリ「今やってますかー」

T「今やってますか」

ラーメン屋「はい、いらっしゃい」

記者A「あのNHKなんですけど、あなた方も怪獣を見に来たんですか?」

T「(スタッフ)あなた方も怪獣を見に?」

ハイダ「ええ、まぁ、はい」

T「ええ まあ はい」

外。シライ、ハイダがタブレット片手にバクゴンを観察。カワシマとユリは紙袋を持ってそれぞれマンション、アパートに入っていく。ラーメン屋の屋台の他に似顔絵、手作りアクセサリーなどの露天商が並んでいる。周りでバクゴンをバックに自撮りするカップルや女二人組がワサワサ発生している。

N「この住宅街を訪れる怪獣マニア、興味本位の観光客の存在、さらにそれをターゲットにした無許可の屋台・露天商などの出店で、夜の住宅街に活気が溢れるようになってしまったのです。彼らに反応するように、バクゴンの動きも日に日に活発に、出現時間も長くなっているようでした」

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

カワシマ「あそこのラーメン美味かったすね」

ユリ「(ハイダに)怪獣マニア扱いされてますよ」

ハイダ「あんたらも撮られてんじゃん」

クボ「このせいで私一人で喋らなきゃいけなかったんですか!」

シライ「いやぁー、申し訳ない。あいつらどこにでもいるから……」

◯テレビ画面内・番組スタジオ(夜)

町山「(カメラ目線)えーという訳なんですが(イナムラを見る)稲村さん」

イナムラ「はい。こうやって事態が長引いてくるとますます対処もしづらくなってきますよね。一刻も早くバクゴンの出現を止めないとですよね」

イナムラ「(カメラ目線)そうですよねそして番組では稲村さんの協力を得てバクゴン出現の原因を探りました」

◯テレビ画面内・文化交流センタービル外観

T(右上)「新事実発覚 バクゴンはなぜ現れるのか」

N「政府が所有する、防衛省怪獣対策課の研究施設です」

画面全体にモザイクがかかっている。

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

カワシマ「(喜)ねぇ、ここ映ってますよ!」

ユリ「これ映ってるって言わないだろ」

◯テレビ画面内・文化交流センタービル・オフィス

部屋には記者Bを含むテレビ取材班数人とクボ人間態のみ。

T「怪獣対策課附属研究所「ひまわり」職員 久保 潤次さん」

クボ「怪獣、えー、バクゴンのエネルギー源は夢です。そのぉ、人間の夢を、えー、食べてるんです。ます。これを、あの見て欲しいんですけど」

T「バクゴンのエネルギー源は夢 人間の夢を食べている」

クボ人間態、グラフの映ったパソコンを示す。オープニングと同じ映像。その場で撮ったパソコン画面の静止画。

N「人の眠りの深さを独自に数値化した『ぐっすり度』を表すグラフだといいます。稲村さんの研究チーム独自の調査で今月十日以降の住民五十人のぐっすり度を測定した結果、それがバクゴンの活動が活発になるのと反比例して低下している事が分かったといいます」

T「「ぐっすり度」→バクゴンの活動活発 反比例して低下」

元の映像。

記者B「これ単純に怪獣がやかましくなるほど住民が寝られなくなってるって話じゃなくてですか」

T「(スタッフ)単純に怪獣がやかましくなるほど住民が寝られなくなっているという話じゃなく?」

クボ「いや違います違います、もう一つ決定的な事が分かったんです。いいですか、」

T「違います もう一つ決定的な事が分かったんです」

今から重大な事を言う雰囲気を漂わせて息を吸うクボ人間態。

◯同・CG地図

川崎市周辺の地図。

N「稲村さんの研究チーム独自の調査によると先月二十三日、バクゴンが初めて住宅街に出現する数時間前、住宅街から約三キロ離れた地点で二人の男性が原因不明の昏睡状態に陥った現象がバクゴンの行動と密接に関わっているといいます(地点上に×印。下に文字『二人の男性が昏睡状態』)。この二人の男性は、住宅街に来る前のバクゴンに夢を食べられて昏睡状態になったと、稲村さんの研究チームは推測しています」

◯テレビ画面内・文化交流センタービル・オフィス

元の映像。

クボ人間態「ですからその、バクゴンが現れてから最初に食べたのがその二人の夢だったんですよ。二人だけだったから一人ずつからガッツリ食べられてああいう事になってしまいましたが、人がいっぱいいる住宅街にたどり着いた事で一人一人から少しずつ夢を食べる方式に切り替えたんですよ。それがあの不眠被害の原因です」

T「バクゴンが現れてから最初に食べたのがその(昏睡状態の)二人の夢だった/二人だけだったから一人ずつからがっつり食べられてああいう事になったが/人がいっぱいいる住宅街にたどり着いた事で一人一人から少しずつ夢を食べる方式に切り替えた/それがあの不眠被害の原因」

N「稲村さんの研究チームは、バクゴンへの最大の攻撃は『寝ないこと』だといいます」

T「『寝ない』」

クボ人間態「(手元のカンペを見ながら)周囲の人間が寝なければバクゴンはエネルギーを断たれます。エネルギーが断たれればバクゴンは現れなくなります」

T「(バクゴンの)周囲の人間が寝なければバクゴンはエネルギーを断たれる/エネルギーが断たれればバクゴンは現れなくなる」

N「この考えがバクゴンを倒す突破口となるのでしょうか」

◯同・番組スタジオ(夜)

町山「(カメラ目線)はぁいという訳なんですが(イナムラを見る)稲村さん」

イナムラ「ええ。確かにうちでこういう結果が出ました。ですから……」

町山「何でしょうか」

イナムラ「いや、まぁ寝ないことがバクゴンに有効なのは事実ですから」

町山「(安藤を見る)安藤さんいかがですか」

安藤「えっ? ああその、やっぱり、この研究結果が正しいのであれば、住民が一体となって—」

オープニングと同じ流麗なBGMが流れる。

町山「ありがとうございました」

イナムラ、頭を下げる。引き画。右下に「終 制作・著作 NHK」のマーク。

◯文化交流センタービル・オフィス(夜)

新田「面白かったですね」

ジョウガサキ「これで良かったんですか?」

モギ「うん。人はやれって言われたらやらないから。このぐらいの言い方のがやるはずよ」

ウエノ「もう出ますよね?」

シライ「そうですね、トイレとか済ませたら移動して下さい」

◯多摩区・住宅街・中年男性宅(夜)

『現状ロングショット』を見終わった中年男性。妻はan・an、子供はケータイを見ている。

中年男性「なあ」

◯同・ヤンキーみたいな女宅(夜)

「現状ロングショット」を見終わったヤンキーみたいな女と二十くらい年上に見える夫。

ヤンキーみたいな女「ねぇ和昌」

◯同・平田宅(夜)

『現状ロングショット』を見終わった平田、急に立ち上がってまぶたにセロテープを貼り出す。

◯番組スタジオ→テレビ局廊下(夜)

『現状ロングショット』放送直後。イナムラ、頭を上げる。

番組スタッフ「では以上で収録の方終了になりまーすお疲れ様でしたー」

町山「っしたー」

出演者達、席を立って裏に行く。イナムラと安藤、会釈。歩きながら会話。

イナムラ「ご存知でしょうけど、彼はこっちでも良くやっていますよ。何にも心配いりません」

安藤「分かってます。まあでも、こちらでもお手伝いはさせてもらいますよ。仕事が無いっていうのは辛いことですから」

二人、廊下に出る。安藤、イナムラと逆方向に分かれて去りながらスマホを取り出して通話する。

安藤「お久」

◯高須車内(夜)

運転しながら通話する高須。

高須「はよざまーす」

◯オペレーター車内(夜)

運転しながら通話するオペレーター。

オペレーター「お久し振りです」

◯テレビ局廊下(夜)

安藤「見てた?」

◯高須車内(夜)

高須「はい見てました。見た夢が怪獣の餌になるから寝なきゃいいってのは尤もですけど、逆に」

◯オペレーター車内(夜)

オペレーター「あの住民の話を見た限り自分から夢を見に行けば夢の中で実体を持ったバクゴンを相手にできる」

◯テレビ局廊下(夜)

安藤と分かれた後、一人廊下を歩くイナムラ。記者Bが追ってくる。

記者B「稲村さん」

イナムラ立ち止まる。

記者B「お疲れ様でした」

イナムラ「お疲れ様でした」

記者B「お疲れの所申し訳ないんですが少しお時間よろしいですか」

◯多摩区・住宅街上空・宇宙船内(夜)

その辺のソファー、イス等にもたれかかった新田、ジョウガサキ、ウエノ。
三人を見るモギとシライ。新田、シライが操作する宇宙船の操作パネルをボーッと見ている。

モギ「じゃあ、気をつけて」

ジョウガサキ「はい」

新田、ジョウガサキ、ウエノ、布団を被って寝る。

◯多摩区・住宅街・中年男性宅(夜)

三人でテーブルに向き合って無言で目を見開く中年男性と妻と子供。

◯同・ヤンキーみたいな女宅(夜)

二人してバスローブを着て将棋をやるヤンキーみたいな女と二十くらい年上に見える夫。

◯同・平田宅(夜)

まぶたにセロテープを貼ったまま部屋の中心であぐらをかく平田。マンションの外で二台の車が止まる音。

◯多摩区・住宅街(夜)

高須の車とオペレーターの車が止まる。窓越しに会釈した二人、シートで寝る。バクゴン出現。うろつく。マンション・アパートをすり抜ける。

◯夢の中・多摩区・住宅街(夜)

バクゴン出現。うろつく。マンション・アパートをすり抜ける。路上に立ちバクゴンを見上げる新田、ジョウガサキ、ウエノ、それぞれ変身・巨大化。バクゴン、熱線を吐く。

ウエノ「夢が食えなくなって焦ってるな」

リーズ、バクゴンを殴る。すり抜けず当たるがバクゴン押し返す。リーズ、吹っ飛ばされてマンションに突っ込むがすり抜ける。バクゴンリーズに迫る。空からのミサイルがバクゴンに当たる。見上げるリーズ。飛来するモブファイター一号二号。

×××

一号コクピット内の高須。

×××

二号コクピット内のオペレーター。

×××

ウエノ「モブファイター一号二号!? 怪獣三体同時出現で大破したはずじゃ」

×××

一号コクピット内。

高須「現状に満足していない人間は、満足していた頃の夢を見るって事なんですかね。これあくまで夢だし」

×××

二号コクピット内。

オペレーター「何で私が二号……?」

×××

リーズ「高須さん! 伊藤さん!」

◯テレビ局喫煙所(夜)

喫煙する記者Bとイナムラ。

記者B「モブって自衛隊内の特殊部隊だったんですよね?」

イナムラ「はい」

記者B「おかしくないですか? 怪獣三体同時出現を最後に一度も出撃してないなんて」

イナムラ「それはだって、あのあとウルトラマン以外にも多くの宇宙人が怪獣と戦うようになったからまだ彼らが出撃する状況まで行った事がないってだけですよ」

記者B「稲村さん、もうモブなんて存在しないんじゃないですか?」

◯夢の中・多摩区・住宅街(夜)

バクゴンとリーズ、ジョウガサキ、ウエノ、ファイター一号二号との戦闘。バクゴン、ジョウガサキとウエノの光線を熱線で相殺するが一号二号のミサイルを受けて体勢が崩れた所にリーズのL字光線が直撃し爆散。

◯多摩区・住宅街(夜)

バクゴン、薄くなって消滅。

◯テレビ局喫煙所(夜)

記者B「モブが壊滅したからあの宇宙人達が公に活動できるようになったって事じゃないんですか」

イナムラ「そんな事私に聞かれてもぉ♪」

記者B「あなた、地球を侵略する気でしょう」

(続く)

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