ウルトラマンリーズ 第十二話「ナチュラルな見下し(エイリアン・ネイチャー)」

第十二話 ナチュラルな見下し(エイリアン・ネイチャー)
大蟻超獣 アリブンタ 登場

登場人物

新田 光一(22)…文化交流センター職員
マノン星人ジョウガサキ
ゴールド星人カワシマ
ソベタイ星人ユリ
ブラック星人シライ
スチール星人ウエノ
ガルメス人ハイダ人間態
ペロリンガ星人モギ人間態
工藤…女子中学生
ウルトラマンリーズ
アリブンタ

◯文化交流センター・オフィス

自分のデスクでパソコンを操作するゴールド星人カワシマ。マノン星人ジョウガサキ入室。カワシマの横に立って画面をのぞき込む。

ジョウガサキ「どう? アリブンタは」

カワシマ「今定時連絡が来ました。現在江戸東京博物館らへんの地下三百メートルぐらいに潜伏中です。えー(画面内の地図の一点を指差す)ここですね」

ジョウガサキ「あーマジで近いね。これだから放し飼いは迷惑なんだよなぁ。でもこいつだけじゃないし二十三区もそろそろヤバいんじゃないの?」

カワシマ「かもですねー。では警報はいつ頃に?」

ジョウガサキ「うーんでもねぇ、あんまり初期段階で言ってもあんま良い事無いんだよねぇ。避難はダラダラになるし、長い間経済活動を止める事になるし。避難させといて実際には怪獣が出ませんでしたーなんて事が一回でもあったら皆言う事聞かなくなるしね。だったらそれよりはこう、言い方悪いけどギリギリまで引っ張って怪獣が出るってのが確実になってから大げさに『避難して下さーい!!』って言った方が良いって事に今の所はなってんだよね我々の間では。もち一度でもタイミングを見誤ったら取り返しのつかない事になるからメチャクチャ慎重にならないといけないけど」

カワシマ「それだったらもう(画面を指差す)こういう怪獣の位置情報とか常に公開して、避難するしないは地球人に任せたらいいんじゃないすか」

ジョウガサキ「いずれはそうなるだろうけど今のあの人達には無理だろうねぇ。でもアレだよね、地球人も日常のものとして怪獣災害と付き合ってかないといけない時代になってきたよね」

カワシマ「ですねー」

ジョウガサキ「その『ですねー』ってのやめた方がいいよ、モギさんに何て言われてるか知らないけどそんなん宇宙に出たら通用しないよ」

カワシマ「了解です」

ジョウガサキ「じゃああの、これ刷ってきて」

ジョウガサキ、カワシマに何かしらの資料を渡す。

カワシマ「了解です」

ジョウガサキ、カワシマを睨む。カワシマ、素知らぬ顔で部屋を出る。

◯同・オフィス前廊下

部屋を出たカワシマ、廊下を通って印刷室に移動。

カワシマ「〽︎君のsmileが私のspiceになるぅ~♪」

◯同・玄関

玄関に差し掛かった時、外から工藤走って来る。玄関外に貼ってある「かけこみ110番」のポスターをチラ見してからカワシマをガン見する。

工藤「あのすいません! 助けて下さい!」

カワシマ「えっ何すか」

工藤「入れて下さい!」

カワシマ、ノロノロと玄関のドアを開ける。工藤、素早く中に入る。

カワシマ「えっ何すか」

工藤「あっちに何か、変な人がいて!」

カワシマ「変な人?」

工藤「はい何か顔が無くて頭がグレーで何か挙動不審で……」

カワシマ「(安堵)あー、そうですか。いや、大丈夫ですよ。もう帰れますよ」

工藤「無理ですよ何言ってんすかあれ絶対ヤバい人ですよ、じゃあ帰りますけどついてきてもらっていいですか」

カワシマ「いやーちょっと今忙しくて」

工藤「じゃあ他の人誰かいないんすか」

カワシマ「いや皆はもっと忙しいと思うよ」

工藤「もう怖いですヤですもう」

カワシマ「あー、じゃああのちょっとここで待っててもらえる?」

工藤「いや怖いです一人とか! 邪魔しないんでついてっていいですか」

カワシマ「いやーついて来られるのも困るんだけどなー……」

カワシマ、言いながら廊下を歩く。工藤ついていく。

◯同・印刷室前廊下

カワシマ、印刷室の前で立ち止まる。

カワシマ「じゃああの、ドア開けっぱにしとくから、廊下で待ってて。それならいいでしょ?」

工藤「……はい」

カワシマ「うん」

ソベタイ星人ユリ、カワシマが印刷室に入りかけた時に廊下の奥から歩いて来る。カワシマと工藤が目に入る。

ユリ「えっ?」

カワシマ「あっ! ユリ先輩ちょっと」

カワシマ、ユリの腕を引っ張って廊下の隅に連れていく。

カワシマ「先輩今暇ですか」

ユリ「暇じゃねーよ、何なのあの子」

カワシマ「いやあの、外で変な人を見てここに駆け込んできて、一人で帰るのが怖いって……」

工藤、激しく頷く。

カワシマ「(小声) ……どうも話聞くと多分ハイダさんの擬態が解けちゃっただけだと思うんですけど」

ユリ「(小声)もう……町の景観に溶け込むとか言って入口にかけこみ110番の札なんか貼ってるからだよ。実際駆け込まれたらこうやって困ってるじゃん」

カワシマ「(小声)いやそれ私に言わないでくださいよ」

ユリ「(工藤に)……君、どっから来たの」

工藤「両国」

カワシマ「(小声)ちょうどアリブンタが潜伏してるじゃないすか」

ユリ「(工藤に)電車?」

工藤頷く。

ユリ「(小声)ていうかさぁ、そいつ本当に駆け込んできたのか」

カワシマ「(小声)どういう事ですか」

ユリ「(小声)だからその、どっかから送られてきたスパイっていう可能性とか」

カワシマ「……あっ」

ユリ「(小声)お前まだどこも入れてないな?」

カワシマ、頷く。

ユリ「(小声)ちょっと確認するから」

ユリ、振り向いて工藤を見る。工藤ビビる。ユリ、さらに凝視して心を読む。工藤、不思議そうな顔をする。

工藤(声)「何なのさっきから! 変な人がいたからここに逃げて来たのにここにも変な人しかいないじゃん。てか何でこの人こっちジロジロ見てんの? 気持ち悪い」

ユリ、首を傾げてまたカワシマの方を向く。

ユリ「……別に噓はついてないみたいだ」

カワシマ「あそですか、じゃ、あの、とりあえずユリさんにその子任していいですか私仕事あるんで。じゃ」

カワシマ、印刷室に入る。

ユリ「おい俺だって仕事あんだよ待てよ」

ユリ、工藤と目が合う。

ユリ「あはは……とりあえずどっか……あっ応接室行きましょうか。ね」

工藤「でも私一人になるんですか?」

ユリ「皆忙し……あっ大丈夫ですよあの、護衛つけますよ」

工藤、弱く頷く。ユリと工藤、移動。

工藤「……あの」

ユリ「何ですか」

工藤「さっきその、ジロジロ見てたのは何だったんだろうって」

ユリ「あれはね、あなたの心を読んだんです」

工藤、不快そうな表情。二人、曲がり角に来る。ユリ、先行し壁から少しだけ顔を出して廊下の向こうに誰もいないのを確認する。

ユリ「よし、大丈夫」

工藤「何がですか」

ユリ歩く。工藤続く。

◯同・オフィス前廊下

二人、オフィス前廊下の丁字路に来る。ユリ、さっきと同じように先行して顔を少し出して横を確認する。オフィスを出たブラック星人シライとスチール星人ウエノがこっちに歩いて来るのが見える。

ユリ「あッ」

工藤「えっ何どうしたんですか」

ユリ「いや、行きましょう」

ユリ、工藤からシライとウエノが見えないように横歩きする。工藤、不審そうな表情。二人が通り過ぎた後、顔を見合わせる奥の廊下のシライとウエノ。

◯同・個室前廊下

二人、個室前に来る。ユリ、個室のドアをノック。

新田(声)「はいー」

ユリ「ちょっといいですか」

新田(声)「はいー」

ユリ、個室のドアを開ける。新田、ベッドに座り漫画雑誌を読んでいた顔を見上げる。

新田「あどうも、えーと、何さんでしたっけ」

ユリ「ソベッ、えー、ユリ・マサトです。ちゃんとお会いするのは初めてですね、よろしくお願いします」

新田「あっ、どうも……でご用件は」

ユリ、工藤を見せる。

ユリ「この子の護衛をしてもらいたくて」

新田「誰ですかその子」

ユリ「詳しいことは直接聞いてください、応接室の場所分かりますか?」

新田「あーあのキッタナい所」

ユリ「じゃお願いしますね」

ユリ、新田の近くに行く。

ユリ「(小声)話聞いたら分かると思いますけど、適当に相手してくれたらいいですから」

ユリ、立ち去りかける。

新田「ちょっとどこ行くんすか」

ユリ、再び走って新田の近くに行く。

ユリ「すぐ戻ってくるんで、ちょっとだけ頼みますよ」

ユリ、立ち去る。

◯同・オフィス前廊下→オフィス

廊下を歩くユリ。

ユリ「何でこんな事しなくちゃいけないのか」

オフィスに入る。ジョウガサキが一人でデスクに座りカワシマが印刷した資料を読んでいる。

ユリ「あっ副代表、聞きました?」

ジョウガサキ「聞いた。カワシマから。でどうした?」

ユリ「とりあえず新田さんに応接室で相手させてます」

ジョウガサキ「あそこ掃除してたっけ……じゃあ彼とカワシマとあなた以外には合わせてないね?」

ユリ「はい、大丈夫だと思います。であの、どうやって帰すかですけど……」

ジョウガサキ「ああそうだ、ハイダ君はまだ帰ってないのかな」

ユリ「みたいですね。あいつ呼び戻したらあの子帰せますかね」

ジョウガサキ「やーでもそういう問題でもないか。やっぱり……」

ユリ「誰かが送ってってやるのが一番手っ取り早いでしょうね」

ジョウガサキ「そうねぇ……」

ユリ「それともアレ使いますかアレ」

ジョウガサキ「あれはダメ! 極力! やっぱ穏便に送ってってやって!」

ユリ「では新田さんにお願いしてきます。結局同じ人間の方が接しやすくていいでしょう。あと俺仕事あるし」

ジョウガサキ「や、でも待って、両国だったよね確か」

ユリ「はい」

ジョウガサキ「怪獣がいる所にわざわざ帰していいもんかね」

ユリ「それであの子だけ助かっても逆に困るでしょう。ここにずっと置いとくわけにもいかないし帰しましょうよ」

ジョウガサキ「……分かりました」

ユリ「では失礼します」

ユリ、オフィスを出て応接室に向かう。

◯同・応接室前廊下→オフィス前廊下

ユリ、応接室ドアをノック。返事なし。

ユリ「入りますよ?」

ユリ、ドアを開ける。応接室で新田と工藤が向き合って沈黙している。気まずい。

ユリ「聞きました? 大体は」

新田「(苦笑)まぁ、はい」

ユリ「じゃあ新田さん、その子駅まで送ってって」

新田「あ……はい」

三人、部屋を出る。新田と工藤、玄関に行く。ユリ、ケータイで電話をかけつつ別方向に行く。

ユリ「あぁもしもし、いつもお世話になっておりますぅー。申し訳ありません遅れてしまいまして、はい、はい……」

新田と工藤、無言のままオフィス前廊下を通り過ぎる。ジョウガサキ、オフィスのドアを開けて二人を後ろから見る。

ジョウガサキ「許して下さい、一般の方はまずここに来るべきじゃなかった。あとはお願いだから無事に帰って……」

ジョウガサキ、オフィスに戻る。

◯同・オフィス

オフィスに戻ったジョウガサキ。他に誰もいない。ガルメス人ハイダ人間態から通信が入る。ホワイトボードのプロジェクターに映るハイダ、走りながらスマホのテレビ電話で通信している。

ジョウガサキ「どした」

ハイダ「地中のアリブンタが移動を開始しました」

プロジェクターの映像がアリブンタの位置を示す地図に切り替わる。

ハイダ「調査を中止してそっちに戻ります」

ジョウガサキ「分かった」

地図がテレビ電話の映像に戻る。

ハイダ「では」

ハイダ、通信を切る。

◯同・外

走りながらスマホの通信を切ったハイダ。向こうに新田と工藤がこちらに歩いて来るのが見える。

ハイダ「あ、おーい! 新田君!」

新田「あれ、ハイダさんですか?」

ハイダ「ああ! あとこっち来ちゃダメだ!怪……」

工藤「あっあっあのっ!」

新田「やっとまた喋んのか、何だよ急に」

工藤「あの人、そこで見た変な人と服も背丈も一緒ですよ! 絶対……」

新田「(諭すように)だからあのね、あの人は……」

遠くの地底からアリブンタ出現。向こう側に口から蟻酸を放った後、振り向いてこちら側に両腕から火炎を放つ。新田達の周辺の建物を掠め、瓦礫が工藤に当たる。工藤倒れる(気絶せず)。

ハイダ「くっそ、この子は何とかするんで、後、頼みます!」

新田「はい!」

走って避難する人波ができる。新田、ビルの向こうに走ってから変身。リーズ出現。ハイダ、スマホに通信を入れる。

ハイダ「もしもし、はい、で、一般の方に怪我人が出まして、はい、お願いします」

工藤「あなたは……」

ハイダ「外を出歩くのに擬態を維持できなかった僕が悪いんだ。おっかない思いをさせて申し訳ない」

リーズとアリブンタの戦闘。リーズ、火炎を放つアリブンタの両腕を片手で押さえつけて脇に抱え、もう片方の手で手刀を打ち込む。モギ人間態とカワシマが文化交流センタービルから出てくる。

ハイダ「こっちです」

工藤、カワシマを見てギョッとするがその拍子に傷が痛む。

カワシマ「この子が……」

モギ、しゃがんで工藤の容態を診る。

モギ「軽傷だが避難は難しいかな。カワシマ君、頼むわ」

カワシマ「はい」

カワシマ、腕からの光線で工藤のケガを治す。

工藤「あなた……あなた達は……」

モギ「君、どんぐらい前にここ来たの」

工藤「えっと……二十分くらい前……」

モギ「ここでの事は全部忘れなさい」

モギ、特殊な器具で工藤のここ二十分の記憶を消去。ハイダ、モギ、カワシマ、文化交流センタービルに早歩きで戻りだす。

カワシマ「(冷静に)これじゃ星人の主張とやってる事一緒ですよ」

モギ「だから出来ればこの手は使いたくなかった……ってジョウガサキは言ってたけど、やっぱり今はまだダメでしょう」

避難する人波に押され、虚ろな目でリーズとアリブンタの戦闘を見つめる工藤。
アリブンタ、人波に蟻酸をぶっかけようとするがリーズ、顎をブン殴って阻止。さらに十字光線発射。爆散。
文化交流センタービル方面から来た宇宙船「エンモタケナワ」がカモフラージュを解除して可視化。中から巨大化したウエノとジョウガサキが地上に降り立つ。

リーズ「もう終わりました」

ジョウガサキ「あら、そうですか」

リーズ、ウエノ、ジョウガサキ消える。
アリブンタが倒され、避難をやめて散り散りになる市民。行くアテが無く一人その場に立ち尽くす工藤。新田、工藤に近づく。

新田「どうしたの」

工藤「あの、駅ってどっちですか」

新田「駅? あっち。でも今まだ電車止まってるだろうから待つか歩くかしかないよ」

工藤「そうですね……ありがとうございます」

工藤、駅方向に歩き出す。

新田「あれ、一人で大丈夫なの」

工藤「(振り向いて)はい」

(続く)

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