ウルトラマンリーズ 第十三話「二つが一つになる時」

第十三話 二つが一つになる時
冷凍怪獣 マーゴドン 登場

登場人物

新田 光一(22)…文化交流センター職員
ルパーツ星人イナムラ…男、センター代表
ペロリンガ星人モギ…男、医者
マノン星人ジョウガサキ…女、戦闘・監視員
ブラック星人シライ…男、分析、開発担当
シライ人間態
スチール星人ウエノ…男、戦闘員
ツルク星人ヤマオカ…女、孤児の世話係
ヤマオカ人間態
グローザ星系人クボ…男、オペレーター
クボ人間態
ガルメス人ハイダ…男、諜報
ゴールド星人カワシマ…若い女
ゾベタイ星人ユリ…若い男
高崎 実裕(22)…礼依(二話)の妹
ウルトラマンリーズ
マーゴドン

◯立川市・元市街地

吹雪。九話でグローカールークに破壊された市街地。瓦礫やビルの残骸が氷漬けになっていく。マーゴドン、吹雪の中から姿を現して進行。

◯文化交流センター・オフィス

職員ら、集合し会議を開いている。

カワシマ「怪獣……マーゴドンは出現地点から三百メートル程移動した所で活動を停止中」

シライ「多分寝てるんでしょうね」

ジョウガサキ「場所は第一自然空間出入口、つまり立川市、つまり今の所被害はゼロですが、それはコイツを野放しにしといていいという意味ではもちろんないです」

イナムラ「ああ、これはむしろチャンスだ。この間に現地に出向いてマーゴドンの調査、情報収集を行い、その後適切な処分方法を決定する。さらにそれと同時進行になるが、最初にこの地球に出現し、それ以降の全ての自然空間出入口の中心に位置、最も高いエネルギー移動量を観測している第一出入口をドレンゲラン以来、二体目の怪獣が通って来たというのは重要な意味を持つ。物体が移動した直後で活発化してる第一出入口をちゃんと調べたらこの地球に現れ続ける自然空間出入口を完全に閉じる手掛かりが見つかるかも知れない。マーゴドンの調査と第一出入口の調査を二手に分かれてやってもらう。パッパとデータの収集にあたって欲しい」

新田「(隣のハイダに小声で)何すか、自然空間出入口って、建築用語みたいな」

ハイダ「(新田に小声で)地球の老朽化が原因で発生して、怪獣が別の宇宙からここに来るのに通ってくる……」

新田「(ハイダに小声で)いやそれは分かるんすけど……」

◯立川市・市街地→元市街地

先程より少し離れた場所。建物等は壊れていない。吹雪は止んで積雪している。町のド真ん中で眠るマーゴドン。タブレットや何かしらの機械を手に持ち周辺を歩く新田、シライ、ヤマオカ、クボ、カワシマ、ユリ。シライ、ヤマオカ、クボは人間に擬態している。

シライ「出入口組の他の皆さんは機材の準備にもう少し時間がかかるので、新田さんだけでも先行して簡単な調査をしといて欲しいってのは聞いてますよね?」

新田「はい。それここでする話じゃないと思います」

シライ「じゃあマーゴドンの進路を遡って地面の成分を調べて下さい」

新田「はい」

新田、他の職員らと分かれ、周囲の何らかの数値を機器で測定しながらマーゴドンの進路を遡っていく。進むにつれて破壊された建物が増えて行く。

新田「うー、さみー……(スマホに通信を入れる)あの」

シライ(声)「どうしました」

新田「アイツは雪降らして寒くしてるだけで、それ以外は元からこうなんですよね?」

シライ(声)「はい。この前の怪獣三体同時出現の時以来……この辺って新田さんのご自宅があったんでしたっけ」

新田「はい」

シライ(声)「……同情します」

新田、通信切る。遠くに赤いバッグを持って立つ高崎実裕が見える。第二話の高崎礼依と同じ顔だが新田は当然気付かず。新田近付く。

新田「もしもし、何やってんの。こんな所いたら死んじゃうよ」

実裕「でもあなたもここにいるじゃないですか(笑)」

実裕の声に聞き覚えのある新田。

新田「……どっかで会った事ないすか」

実裕「いやないです」

新田「ホントにない? 何かすごい知ってる感じするんだけど」

実裕「あー、じゃアレじゃないすか、姉じゃないですかね双子の。前にもこういう事あったんですよね何回か」

新田「……お姉様はこの近くの会社に勤めてらっしゃった……?」

実裕頷く。

実裕「姉を知ってるんですね」

新田「ええ、まあ」

実裕「じゃあ最初の怪獣災害の犠牲になった事も?」

新田「ええ」

実裕「じゃあ遺体が見つかってないって事は?」

新田「いえ、それは初めて聞きました……そうなんですか?」

実裕「はい。だから私はね、姉がまだ生きてるような気がするんです」

新田「……」

実裕「っていうかあなたは何しに来たんですか」

新田「え? いや、前にこの辺住んでたんですよ。で、あー、こんなんなっちゃったんだなー、って……」

実裕「逆に何かご存知ないですか」

葛藤する新田。

新田「……お姉様を探すのはもうやめた方が良いと思います」

実裕「やっぱり亡くなったんですか? 何か知ってるんですね?」

ふと後ろを見ると新田が来た道をシライが歩いて来るのが見える。実裕、さりげなくバッグから錠剤を取り出してペットボトルの水で飲む。

新田「ごめん、帰って、早く!」

実裕、新田を真顔で数秒見た後フラっと立ち去る。シライ、新田に近付く。

シライ「誰ですか今の」

新田「何か、野次馬ですよ。危ないから帰んなっつって」

シライ「そうですか。で、データ取れました?」

新田「はいこれ」

新田、シライに機器を渡す。シライ、機器を自分のスマホに繋いで測定結果を見る。

シライ「あー、これが」

新田「何、何ですか」

シライ「自然空間出入口内に存在する特殊な粒子……我々は大迷惑粒子と読んでますが、マーゴドンに付着したその大迷惑粒子が、ほら、進路に沿って地面に残ってる」

新田「ほぉー」

シライ「で、私も今同じ測定をしながらここまで来たんですけど」

新田「何でそういう事するんですか」

シライ「いやいいから見て下さいよ、この短時間でも数値に出るくらいの速度で大迷惑粒子の量が減ってるの分かりますでしょう」

新田「ほぉー」

シライ「そりゃあいつも怪獣を処分した後で自然空間出入口を突き止めて現場を調べても何も見つからないはずですよ。マーゴドンが持ち込んだ粒子もあと五分もしたら完全に無くなりますよこのペースじゃ」

新田「ほぉー」

シライ「でもこうやって初めてちゃんと大迷惑粒子を観測・調査できたんで、これで自然空間出入口の構造や発生原理の解明に一歩近付きますよ」

新田「ほぉー」

シライ「……犠牲が出なくなって、地球の平和に繋がるって言ってんですよ?」

新田「いや、ごめん、何か実感が湧かなくて」

◯立川市・市街地

十数分後。荷物をまとめ、眠るマーゴドンから少し離れた所に集まる職員ら。新田だけマーゴドンを近くで見つめている。

シライ「新田さん?」

新田「あ、ハイ」

職員らの上空にカモフラージュを解いた宇宙船『エンモタケナワ』が出現。職員らを吸い上げて行く。

◯文化交流センター・オフィス

イナムラ以外職員全員が集まった会議。

シライ「じゃあ結果を報告していってもらいます。そしたらまずマーゴドン班からどうぞ」

カワシマ「はい。結論から申し上げますとヤツはメチャクチャ強いです。まず基本情報としてあの冷気の前ではあらゆる遠距離系の攻撃は熱を吸収されて無効化、他に考えられるのは打撃、斬撃とかですが、冷気に直に当たったらまず凍っちゃうんで近接戦闘も困難……って言われてます」

シライ「で、今回は寝込みを襲ったら良いんじゃないか、と思いきや」

カワシマ「思いきやですよ、寝てる間は冷気を出さない代わりに吸収した熱エネルギーを圧縮して体内に溜め込んでて、攻撃が当たった側からエネルギーが漏れて大爆発が起こるってことがさっきの調査で分かったんすよ。良かったですねー先にとりあえず攻撃、とかならなくて」

シライ「熱エネルギーを冷気に変換して活動する覚醒時の方が睡眠時よりまだ安全だって事ですわ」

新田、モギ、ジョウガサキ、ウエノ、ハイダ、報告を受けてメモをとる。

シライ「では次に第一自然空間出入口班の報告どうぞ」

ハイダ「はい、えー、今まで理論上は存在すると言われながらも実態が不明だった大迷惑粒子が今回初めてしっかり観測された事で、その詳細が明らかになりました。まあ予想通り自然空間出入口の持つ、ある宇宙と別の宇宙を繋げてしまうという働きの原因はこの大迷惑粒子によるものであるっていうのはもうじきハッキリすると思いますが、そうしたら今度は我々の手で自然空間出入口を開ける事ができるかも知れない、いやできます。そしてそれこそがマーゴドンを倒す唯一の方法になり得ます」

シライ「あの場所で閉じたままになっている自然空間出入口を、我々で擬似的に再現した大迷惑粒子を散布しこちらから誘発する形でもう一度こじ開け、マーゴドンを元いた宇宙に送り返す。おそらく出入口を開けておけるのはもって五分程度でしょう、この作戦には我々職員全員の協力が必要になります」

新田、ヤマオカ、クボ、カワシマ、ユリ、報告を受けてメモをとる。

新田「(隣のハイダに小声で)何で今までそれやんなかったんすか」

ハイダ「(新田に小声で)いつも怪獣の出現地点なんか予測できないし、正確な場所を突き止めても怪獣の相手してる間に出入口は閉じちゃうんですよね。今回は初めて第一空間出入口がもう一度開いて、さらにそこから出た怪獣がこうやって寝始めたからこういう事ができたんですよ」

新田「(ハイダに小声で)今からで間に合いますか」

ハイダ「(新田に小声で)元々理論とかスィステムは完成してたから、後は粒子の現物を確認して細かい情報を入れるだけって所でずっと止まってたんですよ。まああれぐらい強い奴じゃないと使う事もなかったでしょうから、ホント、丁度でしたね」

新田「(ハイダに小声で)ていうかあれ? 開ける方法じゃなくて完全に閉じる方法を探してたんじゃないんすか?」

ハイダ、無言。

シライ「では自然空間出入口の人工的発生に今すぐ取りかかってもらいますが、その間ジョウガサキさん、ウエノさん、ヤマオカさん、新田さんはマーゴドンを監視、起きて活動し出したら第一自然空間出入口発生地点に誘導して下さい。四人いれば近接戦闘の係と凍った近接戦闘の係をビームで溶かす係のコンビを二組作って戦闘を継続できるはずです。さっき言った理由で冷気を直接ビームで相殺とかできないので特に近接戦闘の係のお二人には体を張って頂く事になってしまいますが……」

◯立川市・市街地(夕方→夜)

眠るマーゴドン。少し離れた所で監視する新田、ヤマオカ、ジョウガサキ、ウエノ。四人のスマホが鳴る。

シライ(声)「大迷惑粒子の製造と散布準備が完了しました」

ジョウガサキ「分かった、ご苦労様。あとは……(眠るマーゴドンを見上げる)」

新田「叩き起こすのは?」

ウエノ「ダメでしょうね」

ヤマオカ「待つしかないですか」

四人のスマホが鳴る。

シライ(声)「まだ起きない感じでしたら眠気覚ましでも撒きましょうか?」

新田「それここでする話じゃないですよね」

新田、建物の影に隠れて赤いバッグから錠剤を出して飲む実裕に気付く。
×××
夜。マーゴドンの上空を飛ぶ透明な宇宙船。

クボ(声)「じゃあ起こしますよ」

宇宙船から眠気覚ましがマーゴドンに噴霧される。

新田「うわ、何か目ぇ痛くないすか」

ジョウガサキ「濃縮宇宙メンソールです」

マーゴドン起きる。

ウエノ「来た!」

実裕、建物の影からフラフラと出てくる。

新田「やっぱり!」

新田駆け寄る。

新田「あんたやっぱり死のうとしてたんだな? ダメだよそういう事したら」

実裕「だって姉は死んだって、あなたが言ったんじゃないないですか。私も後を追いますよ」

新田「確かにお姉様は亡くなったけどな、あの人は自分の命を世のために使って亡くなったんだ、あんたが今やろうとしたみたいに無意味に死んだんじゃないんだよ!」

実裕「あなた姉の何なんですか? 助けられなかったなら見ていたような言い方をしないで!」

新田「あんたの言う通り俺はお姉様を助けられなかった、むしろ助けられっぱなしだった。だからこそ俺はお姉様の意思を継いでこういった事で死ぬ人を減らさないといけないんだよ」

実裕「自分がしたいからするってどうして言わないの? それとも自分の目の前で人に死なれるのが後味悪いってだけ?」

新田「ゴチャゴチャ言わんと早くどっか逃げろ! いいな、分かったな!」

新田、走ってビルの陰に隠れて変身。二人のやり取りを冷ややかな目で見ていたジョウガサキ、ウエノ、悲しげな目で見ていたヤマオカ、巨大化。

ジョウガサキ「良いですか?」

リーズ「ハイ、すいません」

ジョウガサキとヤマオカ、マーゴドンに接近。マーゴドン冷気発射。ジョウガサキ凍る。ヤマオカ、凍りかけながら一歩一歩近付いてマーゴドンを切りつけかけた瞬間凍る。マーゴドン、凍った二人に突進。

ウエノ「今!」

リーズ「ハイ!」

ウエノとリーズ、ジョウガサキとヤマオカに光線発射。解凍。ジョウガサキとヤマオカ、マーゴドンの突進をギリギリで避ける。

ヤマオカ「ふー危ない」

ジョウガサキ「誘導しますよ!」

四人、走って移動。リーズとウエノが先頭、ジョウガサキとヤマオカがその後ろにつき、マーゴドンが追ってくる。

ウエノ「あと四十五秒で目標地点です」

◯立川市・元市街地(夜)

シライ(声)「大迷惑粒子散布開始」

四人とマーゴドンの進行方向の先に宇宙船から粒子が散布され、第一自然空間出入口が開く。

ジョウガサキ「あそこに押し込む!」

新田とウエノ、出入口の手前で二又に分かれる。続いてジョウガサキとヤマオカ、出入口の直前で二又に分かれる。マーゴドンの目の前に出入口がある格好になる。
四人、マーゴドンの後ろに回り込む。ジョウガサキとヤマオカ、マーゴドンをどついて出入口に押し込んでいく。触った所から手が凍って行くがリーズとウエノがビームで凍った側から解凍していき、全体を出入口内に押し込む。
出入口が閉じていく。マーゴドン戻って来るが既に通れる大きさではなくなっている。実裕、走ってきて出入口に飛び込む。

リーズ「あっ……」

ジョウガサキ「さっきの子!?」

リーズ、出入口に手を突っ込む。

ジョウガサキ「手がもげますよ!? やめて下さい!」

狭まっていく出入口の向こうでポフっという音がしてリーズの手に何かが当たる。ジョウガサキとウエノ、リーズを引っ張って手を引きずり出す。凍った掌に実裕のバッグが貼り付いている。出入口が完全に閉じる。一瞬静かになる。

ジョウガサキ「……マーゴドンの追放に成功」

数分後、変身・巨大化を解いている四人。新田、実裕のバッグを漁って錠剤を出す。

ウエノ「(新田に)それ……(ジョウガサキに)どうします? 始末書書かなきゃかもですよ」

ジョウガサキ「いや、これは不幸な事故でしょう。私達にはどうもできなかった」

ヤマオカ「さっきあの子と何を話してたの」

新田「死ぬつもりだったんです……でも俺は」

ジョウガサキ「でもじゃあ、それはあの子が望んだ事じゃないですか」

ウエノ「(安堵)はぁ……」

新田「そうじゃないんです」

新田、遺恨の表情。

(続く)


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