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一人旅で気づく


「婚約者よ、私は一人旅がしたい。」

思うに、旅行の思い出は結局、あらかたが共に旅した人の言動で埋め尽くされて、その土地の歴史や景色などの記憶が薄くなってしまうのがどうも寂しい。
細やかなその地の表情を愛でたいが故に一人旅へ出た。これにはマリッジブルーも手伝った。私は一人になりたかった。

旅先は滋賀県黒壁スクエア。
明治時代の雰囲気を孕みつつ寧静としていて、両脇の店の窓からちらちらと星のように瞬くガラスの輝きは美しいものがあった。良い場所だった。
とりわけ、橋から見える用水路は私の足を止めさせた。古民家を隔てる、どうってこともないただの小さな用水路だが、その時の私には雑念を置き去りにして景色に没入するほどの絶景に見えた。
「彼にも見せたい」徐ろに携帯で写真を撮り、婚約者に送る。

一人旅は良いものだ。
自分の感性の赴くままにその土地を感じることができたが、いつにも増して、私は大切な人のことばかり想っていた。

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